不埒な魔術師がわたしに執着する件について~後ろ向きなわたしが異世界でみんなから溺愛されるお話

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本編

32 うごきだす2 【side アレクセイ】

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「イヴァン、入るよ。」

軽くノックして声をかけるが、返事はない。中からは話し声が聞こえる。拒絶の返事もないので問題ないだろうと判断してドアを押す。

通常は王が1人で宮廷内をふらふら歩くことなどありえないだろうが、私の場合は逆に単身のほうが有事に対処できるため供を付けないことが多い。そのため先ぶれもなく唐突に部屋に入ったが、イヴァンもルーも慣れていて、全く気にする様子もなかった。

イヴァンを待たせていた客室は、ごく親しい相手をもてなすための部屋だ。全体的にファブリックは明るい色彩でまとめられ、ゆっくり寛げるようしつらえられている。ソファには大小のクッション。彼が特に好むチョコレートボンボンをはじめ、甘い菓子のラインナップも完璧だ。

私が部屋に入ったとき、ルーとイヴァンは仲良く話し込んでいた。わがまま放題で少数の人間以外は氷点下の扱いをするルーだが、面倒見がよいイヴァンとの相性はよい。イヴァンのほうも、手のかかかる弟のようにルーを扱っていた。

「薬草の成分を余さず抽出するには温度管理が重要なんだよねー。」

「そうなのか。それより即席で怪我人に塗布する時の注意点は、、、」

熱中していたのでパン、パン、と手を叩いて会話を止める。ふたり同時に顔を上げ、こちらを見た。

「はいはい、そろそろ君達の愛しの姫君が来るからそのくらいにしてね。」

「僕のだってば!」
「彼女の求婚者としては、君達とは聞き捨てならん台詞だな。」

ふたりの声が重なった。本当に仲がいいことだ。

「いいから!関係者が全員揃う機会は少ないんだから、今日中にちゃんと決めるよ。特にイヴァンは、申し訳ないけれど国を捨てでもしない限りは婚姻は難しいと思って。」

私の言葉に、イヴァンが不満げな顔をする。

「いささか勝手ではないか?先に姫との婚姻を打診したのはそちらだろうに。」

「君子豹変す、だよ。あれだけの魔力を持つ人間を国外に出すのは得策ではない。状況が変わったんだから打つ策が変わるのは当然でしょ?兵法にも明るいイヴァン殿下。」

それを聞いたイヴァンが、皮肉げに口の端を歪めた。

「それで?もし俺が亡命でもしたら、これ幸いとキリルへ攻め込むのか?」

「まさか。君の兄上とも良好な関係は築くつもりだよ。結果的に力関係は変わるかもしれないけどね。・・・どうだろう、愛のために国を捨てるのも美しい決断じゃない?」

こう見えてイヴァンの剣の腕は確かだ。騎士団でも要として騎士達を束ねている。彼がこの国に来てくれれば我が国の兵力は格段に向上するだろう。

イヴァンはこれ以上言っても無駄だと思ったのか、諦めたように溜息をついた。

「で、姫にはなんて説明するんだ?」

「もう、正直に話すだけだよ。私が側妃として娶ること。後からルーでもセイでも望むほうに下賜できること、もちろん君が来てくれるならば君も候補だね。そして、そのためには、はじめに私を受け入れること。」

「・・・呑むかな。」

「わからない。あの子の世界は私達と価値観が違う。複数人に愛されることに拒否感があるみたいだ。」

「へえええ。そんな考え方する世界があるんだ。」とルーが不思議がる。

この世界では、少なくともこの国では、女性が複数人と交わるのは珍しいことではない。女性を所有する考えが根強かった昔は、貞淑である事が美徳だった。だが今は男女共に多くの経験をして、いかに相手を満足させ自分も満足できるかが重視される。そういう意味では彼女は100年前の価値観を持つ稀有な女性だ。

「ルー、お前はこんな茶番に付き合うつもりなのか?」

3つ目のチョコレートボンボンに手を出しながら、イヴァンが尋ねると、ルーは晴れやかな笑顔で答えた。

「もちろん。僕は最後にシアを手に入れられれば満足だからね。あのいけすかない大神官を黙らせるためにもアレクが保護するのが一番妥当だと思うし。セイも一応納得済みだよ。」


「どうも彼女の気持ちを無視して進めているようで気が進まん。」

「ほんとーにイヴァンってば真面目だなあ。大丈夫、逆にシアには複数人から愛される喜びを実感してもらえばいいんだよ。そしたらきっと全員が幸せだから。」

私が言うのもなんだが、今回の提案は全くもってこちらの勝手な理屈だ。でも同時に正論でもあり、セイが同意せざるを得なかった理由でもある。

つまり、他人の意識とはいえアナスタシア嬢として目覚めたからには、保護者である大神官のノルドに引き渡す義務がある。私に見染められ、また彼女自身が望んで王宮に滞在するというシナリオのほうが都合がいい。・・・彼女さえ頷いてくれればだけど。



これだけの菓子を食べつつ、自分のコーヒーに砂糖を入れているイヴァンの姿を目撃して黙り込んだところで、来客の訪問を告げる声がした。

「お待たせいたしました。」という声とともに、セイにエスコートされたアナスタシア嬢が入る。

その姿を見て、イヴァンがコーヒーカップを持ったまま、ぽかんと口を開けて固まった。
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