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本編
50 夜のお作法2 【閑話:2】
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「その様子だと、あまり閨事には慣れていなさそうだね。ほんと期待を裏切らなくて何よりだ。」
聞き取れないくらいの小さな声でアレクセイ陛下が呟き、わたしの手を取った。そのまま、すり、とくすぐるように手の甲を撫でる。わたしは振り払うこともできず、なすがままにされた。
ただでさえ無駄に整った造作なのに、めまいがしそうなほどの色香を振りまくのはやめてほしい。ひねくれた性格を知っているわたしですら、ぐらぐらする。
「あのね、ハジメテの夜は私の言う通りにすればいいから心配しなくて大丈夫だよ。誰もがうらやむくらい最高に気持ちよくしてあげるからね。」
(そんなんで、うらやまれなくていい!)
「いや、、そこまでしなくてイイデス。」
内心の叫びは口にはだせないまま、彼特有の裏がありそうな発言にぎこちなく答える。一瞬嫌そうな顔をしてしまったけれど、こんな美形と一晩過ごすなんて考えるだけで心臓に悪いので大目に見てほしい。
なんて言えばいいんだろう、同じ美形でもルーとは180度違うのだ。簡単に言うと『傍にいて落ち着かない』。この一言に尽きる。キラキラ光るブロンドも宗教画から抜け出たかのような神々しい造作も、遠目に眺めている分にはうっとりするが、間近に見ると心がざわざわする。
さらに以前襲われかけたことも加味すると、相手に苦手意識を持ってしまうのは当然だと言えよう。
「ふふ、嫌そうな顔をするのが堪らないね。私の美しい妖精、口づけてもいい?」
わたしの態度に気づいた陛下は、わざと王子様めいたしぐさで向かい側からそっとわたしの手を取ると、そのまま手の甲に口づけた。指先までもが完璧に整えられており、ほのかにホワイトムスクのような香りがした。
そのまま視線を合わせてこちらをじいっと見つめるさまは掛け値なしで美しく、本気ではないとわかっていても恥ずかしさに血が上る。
(ほんっとーに、心臓に悪いからやめてほしい)
自分の顔面価値を正確に把握したうえで、わたしが色事が苦手なのをわかっててやるあたり確信犯で悪趣味だ。完璧な外見とはうらはらに、発言内容がそこはかとなくおかしいだろうと内心でつっこむ。
「へ、陛下は、なぜ今までお妃様を迎えなかったのですか?運命の出会いとかはなかったんですか?」
そのまま流されて変なコトをされやしないかという不安から、無理やり話を逸らす。動揺のあまりちょっと声が裏返ってしまった。
多少性格に難はありそうとはいえ、こんな優良物件なら国内外から候補が引く手あまただろうに。今回わたしは便宜的に側妃の待遇を与えてもらったが、今後のためにも独り身だった理由を聞いておいて損はないだろう。
アレクセイ陛下はたっぷり20秒くらい黙ったあと、「・・・どうしてだと思う?」と逆にわたしに答えを求めた。
「人妻に叶わぬ恋をしているとか?」
思いつきで答えると、それはロマンティックだね、と笑われた。
「神様に願掛けをしていて叶うまで独身を貫くとか。」
「今のところ願掛けはしていないねえ。」
「セイのことを密かに愛しているとか。」
「斬新な発想だね。残念だけど女性のほうが手触りが柔らかくて好きかな。」
むむむ、、他の答えが浮かばず唸っていると、「もう降参?」と面白そうに言われた。
悔しくて必死になって考えていると、陛下は冷めかけてしまった紅茶を一口飲んでから、ぽつりと口を開いた。
「私の父はね。30人以上の妃がいたんだ。」
それはすごいですね、と素直に関心する。オスマン帝国の後宮みたいなものかな。たったひとりの寵を求めて何人もの女性が伽を競うなんて。相手をする王様もすごいけど、全員を養える国の豊かさもすごい。
「巷で美しいと評判の娘がいれば半ば攫うようにして後宮に入れた。権力欲から娘を差し出す貴族もいたよ。父は女性を嬲るのが好きで強姦まがいで犯したりするのを楽しむような人だった。私は時々呼ばれて父が楽しむ姿を見せられたよ。」
「うわ。ちょっと引きますね。」
「でしょー?それが普通の反応だと思うよ。息子の私ですらそう思うんだから。」
「その姿を見ていたから、嫌悪感でお妃は娶らなかったんですね。」
ようやく答えに辿り着いたとばかりに話を振ると、苦笑しながら否定された。
「そうだったらよかったんだけどね。遺伝なのかわからないけれど嬲られる女性の姿にゾクゾクするんだよね。きっと私は父に似て狂ってる。だから血は残したくないし、妃も要らないんだ。その点君は、適当に楽しんでからセイに引き取ってもらえばいいからラクかと思って。」
「え?」
それは狂っているというより単にドSな性癖なだけでは、という言葉をかろうじて飲み込んだ。ちなみに後半の鬼畜発言は聞かなかったことにした。なんなんだ、適当に楽しんでからっていうのは。
「かわいそうに。初めての相手が私みたいな打算的な男で残念だったね。」
わざと軽薄そうな笑みを浮かべているが、瞳の奥には憐憫とも悔恨ともつかぬ複雑な感情の色が見え隠れしていた。
聞き取れないくらいの小さな声でアレクセイ陛下が呟き、わたしの手を取った。そのまま、すり、とくすぐるように手の甲を撫でる。わたしは振り払うこともできず、なすがままにされた。
ただでさえ無駄に整った造作なのに、めまいがしそうなほどの色香を振りまくのはやめてほしい。ひねくれた性格を知っているわたしですら、ぐらぐらする。
「あのね、ハジメテの夜は私の言う通りにすればいいから心配しなくて大丈夫だよ。誰もがうらやむくらい最高に気持ちよくしてあげるからね。」
(そんなんで、うらやまれなくていい!)
「いや、、そこまでしなくてイイデス。」
内心の叫びは口にはだせないまま、彼特有の裏がありそうな発言にぎこちなく答える。一瞬嫌そうな顔をしてしまったけれど、こんな美形と一晩過ごすなんて考えるだけで心臓に悪いので大目に見てほしい。
なんて言えばいいんだろう、同じ美形でもルーとは180度違うのだ。簡単に言うと『傍にいて落ち着かない』。この一言に尽きる。キラキラ光るブロンドも宗教画から抜け出たかのような神々しい造作も、遠目に眺めている分にはうっとりするが、間近に見ると心がざわざわする。
さらに以前襲われかけたことも加味すると、相手に苦手意識を持ってしまうのは当然だと言えよう。
「ふふ、嫌そうな顔をするのが堪らないね。私の美しい妖精、口づけてもいい?」
わたしの態度に気づいた陛下は、わざと王子様めいたしぐさで向かい側からそっとわたしの手を取ると、そのまま手の甲に口づけた。指先までもが完璧に整えられており、ほのかにホワイトムスクのような香りがした。
そのまま視線を合わせてこちらをじいっと見つめるさまは掛け値なしで美しく、本気ではないとわかっていても恥ずかしさに血が上る。
(ほんっとーに、心臓に悪いからやめてほしい)
自分の顔面価値を正確に把握したうえで、わたしが色事が苦手なのをわかっててやるあたり確信犯で悪趣味だ。完璧な外見とはうらはらに、発言内容がそこはかとなくおかしいだろうと内心でつっこむ。
「へ、陛下は、なぜ今までお妃様を迎えなかったのですか?運命の出会いとかはなかったんですか?」
そのまま流されて変なコトをされやしないかという不安から、無理やり話を逸らす。動揺のあまりちょっと声が裏返ってしまった。
多少性格に難はありそうとはいえ、こんな優良物件なら国内外から候補が引く手あまただろうに。今回わたしは便宜的に側妃の待遇を与えてもらったが、今後のためにも独り身だった理由を聞いておいて損はないだろう。
アレクセイ陛下はたっぷり20秒くらい黙ったあと、「・・・どうしてだと思う?」と逆にわたしに答えを求めた。
「人妻に叶わぬ恋をしているとか?」
思いつきで答えると、それはロマンティックだね、と笑われた。
「神様に願掛けをしていて叶うまで独身を貫くとか。」
「今のところ願掛けはしていないねえ。」
「セイのことを密かに愛しているとか。」
「斬新な発想だね。残念だけど女性のほうが手触りが柔らかくて好きかな。」
むむむ、、他の答えが浮かばず唸っていると、「もう降参?」と面白そうに言われた。
悔しくて必死になって考えていると、陛下は冷めかけてしまった紅茶を一口飲んでから、ぽつりと口を開いた。
「私の父はね。30人以上の妃がいたんだ。」
それはすごいですね、と素直に関心する。オスマン帝国の後宮みたいなものかな。たったひとりの寵を求めて何人もの女性が伽を競うなんて。相手をする王様もすごいけど、全員を養える国の豊かさもすごい。
「巷で美しいと評判の娘がいれば半ば攫うようにして後宮に入れた。権力欲から娘を差し出す貴族もいたよ。父は女性を嬲るのが好きで強姦まがいで犯したりするのを楽しむような人だった。私は時々呼ばれて父が楽しむ姿を見せられたよ。」
「うわ。ちょっと引きますね。」
「でしょー?それが普通の反応だと思うよ。息子の私ですらそう思うんだから。」
「その姿を見ていたから、嫌悪感でお妃は娶らなかったんですね。」
ようやく答えに辿り着いたとばかりに話を振ると、苦笑しながら否定された。
「そうだったらよかったんだけどね。遺伝なのかわからないけれど嬲られる女性の姿にゾクゾクするんだよね。きっと私は父に似て狂ってる。だから血は残したくないし、妃も要らないんだ。その点君は、適当に楽しんでからセイに引き取ってもらえばいいからラクかと思って。」
「え?」
それは狂っているというより単にドSな性癖なだけでは、という言葉をかろうじて飲み込んだ。ちなみに後半の鬼畜発言は聞かなかったことにした。なんなんだ、適当に楽しんでからっていうのは。
「かわいそうに。初めての相手が私みたいな打算的な男で残念だったね。」
わざと軽薄そうな笑みを浮かべているが、瞳の奥には憐憫とも悔恨ともつかぬ複雑な感情の色が見え隠れしていた。
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