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本編
52 Under the Moonlight1 【閑話:4 /side アレクセイ】
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「陛下、後生ですからアナスタシア様には、くれぐれも、くれぐれも、やさしくしてあげてくださいませ。ブレスレットもちゃんと渡してくださいね!」
半ば涙目で懇願するのは侍女のマルガレーテだ。母親のような気持ちで私のことを見ているのだろうが、すでに主人に対する発言ではない。
しかも『くれぐれも』と2回も言ったのを聞き逃していないぞ、失礼な。そこまで念押ししなくてもいいだろう。これでも私はできる王様だ。
終日うんざりする量の決裁書類と陳情書の処理に追われ、やるべき仕事を全て終わらせた頃には、すでに日は落ち切っていた。
私室に戻ってシャワーを浴びた後、軽食としてワゴンに置かれていたコールドビーフのサンドイッチを2切れ、赤ワインで流し込む。
出かけようと思った矢先に言われたのがさっきの台詞だった。
「じゃあね、うまくいくよう祈っていて。」
心配そうなマルガレーテを残して、ひとり部屋を出た。
契約とはいえ私の妃となったアナスタシア嬢と初めて過ごす夜だ。どうやって彼女に触れようかと考えながら回廊を歩く。毎日のように通る通路なのに今夜はなぜか気持ちが浮き立つ。
頬に触れる風が気持ちいい。ふと外に目をやると、中庭にはアーモンドの花が咲き始めていた。白い小さな花に目を細める。彼女に渡したら喜んでもらえるだろうか。空を見上げると白々とした月は満月。
(忘れてた、今夜は満月だったか)
私の魔力は満月の頃に最大になる。魔力過多による頭痛が心配だが、今夜は彼女にとっても私にとっても特別だ。一晩くらい無理をしてでも我慢しよう。
花嫁支度をする侍女達には、くれぐれも香りのある化粧品は使わないよう言い聞かせてある。できるだけ清楚に無垢な状態で仕上げるように、とも。
自分色に染めたいという嗜好はないものの、せっかくなのでまっさらな状態の彼女を征服したいという欲はある。それにあのむせかえるような甘い香りを堪能するには人工的な香りは邪魔でしかない。
手慰みに胸元のポケットに入れたブレスレットを指でもてあそぶ。王都屈指の宝飾店に大至急で作らせた、精緻な彫刻に最高級のサファイヤをふんだんにあしらった一級品だ。彼女が腕に嵌めた姿を想像して笑みが浮かぶ。
ブレスレット以外は衣服を全て剥ぎとって、真っ白な肌に、豊かな乳房に、思う存分痕をつけてしまおうか。それとも肌が色付くまで恥ずかしがらせて楽しもうか。あれもこれもと妄想するだけでゾクゾクする。
(はは、我ながらかなりイカれてるよね)
清らかなモノを汚してしまいたい。抵抗できないまま犯し尽くしたい。自分の中で澱のように沈むドロドロとした狂気は遺伝としか思えない。幼い頃からずっと厭ってきた、聖王と呼ばれる人間にはふさわしくない、穢れた私の一部。
「性的嗜好は人それぞれだから、陛下はふつうですよ。」
ふいに彼女からかけられた言葉を思い出す。自分は狂っていると何年も思い悩んでいたのを一刀両断してみせたのは、わずか数日前。
まさか拒絶されずに普通に受け入れられるとは思ってもみなくてさすがに驚いた。でも口にした当人はけろりとしていて、ごく当たり前のことを言った程度にしか思っていないのは明らかだった。
醜い自分から目を逸らしていた私にとって、その一言がどんなに得がたく尊いものか。きっと君は少しも理解していないんだろう。
半ば涙目で懇願するのは侍女のマルガレーテだ。母親のような気持ちで私のことを見ているのだろうが、すでに主人に対する発言ではない。
しかも『くれぐれも』と2回も言ったのを聞き逃していないぞ、失礼な。そこまで念押ししなくてもいいだろう。これでも私はできる王様だ。
終日うんざりする量の決裁書類と陳情書の処理に追われ、やるべき仕事を全て終わらせた頃には、すでに日は落ち切っていた。
私室に戻ってシャワーを浴びた後、軽食としてワゴンに置かれていたコールドビーフのサンドイッチを2切れ、赤ワインで流し込む。
出かけようと思った矢先に言われたのがさっきの台詞だった。
「じゃあね、うまくいくよう祈っていて。」
心配そうなマルガレーテを残して、ひとり部屋を出た。
契約とはいえ私の妃となったアナスタシア嬢と初めて過ごす夜だ。どうやって彼女に触れようかと考えながら回廊を歩く。毎日のように通る通路なのに今夜はなぜか気持ちが浮き立つ。
頬に触れる風が気持ちいい。ふと外に目をやると、中庭にはアーモンドの花が咲き始めていた。白い小さな花に目を細める。彼女に渡したら喜んでもらえるだろうか。空を見上げると白々とした月は満月。
(忘れてた、今夜は満月だったか)
私の魔力は満月の頃に最大になる。魔力過多による頭痛が心配だが、今夜は彼女にとっても私にとっても特別だ。一晩くらい無理をしてでも我慢しよう。
花嫁支度をする侍女達には、くれぐれも香りのある化粧品は使わないよう言い聞かせてある。できるだけ清楚に無垢な状態で仕上げるように、とも。
自分色に染めたいという嗜好はないものの、せっかくなのでまっさらな状態の彼女を征服したいという欲はある。それにあのむせかえるような甘い香りを堪能するには人工的な香りは邪魔でしかない。
手慰みに胸元のポケットに入れたブレスレットを指でもてあそぶ。王都屈指の宝飾店に大至急で作らせた、精緻な彫刻に最高級のサファイヤをふんだんにあしらった一級品だ。彼女が腕に嵌めた姿を想像して笑みが浮かぶ。
ブレスレット以外は衣服を全て剥ぎとって、真っ白な肌に、豊かな乳房に、思う存分痕をつけてしまおうか。それとも肌が色付くまで恥ずかしがらせて楽しもうか。あれもこれもと妄想するだけでゾクゾクする。
(はは、我ながらかなりイカれてるよね)
清らかなモノを汚してしまいたい。抵抗できないまま犯し尽くしたい。自分の中で澱のように沈むドロドロとした狂気は遺伝としか思えない。幼い頃からずっと厭ってきた、聖王と呼ばれる人間にはふさわしくない、穢れた私の一部。
「性的嗜好は人それぞれだから、陛下はふつうですよ。」
ふいに彼女からかけられた言葉を思い出す。自分は狂っていると何年も思い悩んでいたのを一刀両断してみせたのは、わずか数日前。
まさか拒絶されずに普通に受け入れられるとは思ってもみなくてさすがに驚いた。でも口にした当人はけろりとしていて、ごく当たり前のことを言った程度にしか思っていないのは明らかだった。
醜い自分から目を逸らしていた私にとって、その一言がどんなに得がたく尊いものか。きっと君は少しも理解していないんだろう。
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