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本編
53 Under the Moonlight2 【閑話:5 /side アレクセイ】
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回廊を通り過ぎて別棟へ入ると、柱の陰にひとりの人物が立っていた。まさか今ここで会うとは想像しなかった相手だ。
「ゼレノイ卿、どうしてここに?偵察にはまだ早い。」
「ふふ、当人はヘタレなので知りたくないみたいですよ。本日は陛下に改めてお祝いを申し上げたかっただけです。」
今夜だけは顔を見たくなかった相手によく似た男が、軽く拝礼する。私の訝しげな視線にも動じず静かに近づいた。
セイの父でイヴァンの叔父でもあるゼレノイ卿は、親子なのにセイと兄弟と言っても遜色ないほど若々しい美丈夫だ。宰相という高位にありながら誰にでも人当たりが良い。既婚者で年齢もそれなりにいっているにもかかわらず、愛想がない息子よりも宮廷の女性に人気があったりする。
父の浪費癖のせいで疲弊しきったこの国の財政を、卓越した政治手腕で立て直してくれたのも彼だ。おかげでなんとか国が存続できたと言っても過言ではない。私のように若く後ろ盾もない身にも、二心なく仕えてくれる貴重な相手でもある。
そんな彼が、笑顔の奥にいつもとは違う、もの言いたげな視線を私に向けているのに気づいた。まさか相手がアナスタシア嬢だと知って、何か思うところがあったのだろうか。
「卿は、、、セイとアナスタシア嬢の関係は知っていた?」
「愚息は必死で隠しているようでしたが、これでも親ですからねえ。」
否定はしなかった。セイとよく似た顔で苦笑する。
「馬鹿な息子ですよ。早く決断すれば、陛下に横から掻っ攫われずに済んだのに。」
「大丈夫だよ、最後には彼女をセイのもとに戻すから。」
用意していた答えを返すと、弾んでいた心がすうっと冷えるような気がした。浮かれている場合ではなかった、そう、私と彼女は一時的な関係でしかない。
その答えを聞きゼレノイ卿は表情を改めた。
「陛下、アナスタシア嬢の母親は王家に連なる縁で力のある巫女姫でした。大神官と巫女姫の血脈、異世界の魂を収める器としてはこれ以上はございません。なにとぞ国のために有効にご活用されますよう。」
こちらの事情を全て知っていると言わんばかりの発言に、返す言葉を失った。
一国の宰相ともなれば、それくらいは調べ尽くしているということか。
国にとっては彼女を道具として最大限利用するのが正しい選択だ。私もそれが最善だと思っていたはずなのに、いつのまにか国の益よりも彼女の幸せを願っている自分がいた。
「すまない、、、卿の期待には沿えないかもしれない。」
下を向いてそれだけを言う。それを聞いてゼレノイ卿は恭しく頭を垂れた。長い沈黙の後、私が顔を上げると、満足したような顔をした相手と目が合った。
「あの人でなしの陛下が、そんなことを口にするなんて感慨深いとしか言いようがありません。人はゲームの駒ではないと気づいていただけただけで、側妃を迎える意義があるというものです。そのお気持ちをぜひお忘れなきよう願います。」
そういえば似たようなことをイヴァンにも言われたことがあったな。その時は理解できなかったけれど、いまならイヴァンが言いたかったことが、なんとなくわかる気がする。
「ありがとう、よく覚えておくよ。」
「愚息には、欲しいものは全力で奪いにいくように伝えておきますよ。では素晴らしい夜をお過ごしください。」
そう言うと、ゼレノイ卿はそれ以上何も言わず、くるりと踵を返して去っていった。私はその後姿を目で追いながら、今夜は媚薬も紐も用意して、自分の全てを彼女に受け入れてもらおうと決心した。
(君が私をちゃんと人間にしてくれたんだよ。責任取ってよね)
そういえば彼女から運命の出会いはなかったのかと聞かれたけれど、「今目の前にいる君が運命の出会いだ」と面と向かって言えばよかったな。
―――窓から空を見上げると、月がこちらを見下ろしていた。きっと、夜は長い。
「ゼレノイ卿、どうしてここに?偵察にはまだ早い。」
「ふふ、当人はヘタレなので知りたくないみたいですよ。本日は陛下に改めてお祝いを申し上げたかっただけです。」
今夜だけは顔を見たくなかった相手によく似た男が、軽く拝礼する。私の訝しげな視線にも動じず静かに近づいた。
セイの父でイヴァンの叔父でもあるゼレノイ卿は、親子なのにセイと兄弟と言っても遜色ないほど若々しい美丈夫だ。宰相という高位にありながら誰にでも人当たりが良い。既婚者で年齢もそれなりにいっているにもかかわらず、愛想がない息子よりも宮廷の女性に人気があったりする。
父の浪費癖のせいで疲弊しきったこの国の財政を、卓越した政治手腕で立て直してくれたのも彼だ。おかげでなんとか国が存続できたと言っても過言ではない。私のように若く後ろ盾もない身にも、二心なく仕えてくれる貴重な相手でもある。
そんな彼が、笑顔の奥にいつもとは違う、もの言いたげな視線を私に向けているのに気づいた。まさか相手がアナスタシア嬢だと知って、何か思うところがあったのだろうか。
「卿は、、、セイとアナスタシア嬢の関係は知っていた?」
「愚息は必死で隠しているようでしたが、これでも親ですからねえ。」
否定はしなかった。セイとよく似た顔で苦笑する。
「馬鹿な息子ですよ。早く決断すれば、陛下に横から掻っ攫われずに済んだのに。」
「大丈夫だよ、最後には彼女をセイのもとに戻すから。」
用意していた答えを返すと、弾んでいた心がすうっと冷えるような気がした。浮かれている場合ではなかった、そう、私と彼女は一時的な関係でしかない。
その答えを聞きゼレノイ卿は表情を改めた。
「陛下、アナスタシア嬢の母親は王家に連なる縁で力のある巫女姫でした。大神官と巫女姫の血脈、異世界の魂を収める器としてはこれ以上はございません。なにとぞ国のために有効にご活用されますよう。」
こちらの事情を全て知っていると言わんばかりの発言に、返す言葉を失った。
一国の宰相ともなれば、それくらいは調べ尽くしているということか。
国にとっては彼女を道具として最大限利用するのが正しい選択だ。私もそれが最善だと思っていたはずなのに、いつのまにか国の益よりも彼女の幸せを願っている自分がいた。
「すまない、、、卿の期待には沿えないかもしれない。」
下を向いてそれだけを言う。それを聞いてゼレノイ卿は恭しく頭を垂れた。長い沈黙の後、私が顔を上げると、満足したような顔をした相手と目が合った。
「あの人でなしの陛下が、そんなことを口にするなんて感慨深いとしか言いようがありません。人はゲームの駒ではないと気づいていただけただけで、側妃を迎える意義があるというものです。そのお気持ちをぜひお忘れなきよう願います。」
そういえば似たようなことをイヴァンにも言われたことがあったな。その時は理解できなかったけれど、いまならイヴァンが言いたかったことが、なんとなくわかる気がする。
「ありがとう、よく覚えておくよ。」
「愚息には、欲しいものは全力で奪いにいくように伝えておきますよ。では素晴らしい夜をお過ごしください。」
そう言うと、ゼレノイ卿はそれ以上何も言わず、くるりと踵を返して去っていった。私はその後姿を目で追いながら、今夜は媚薬も紐も用意して、自分の全てを彼女に受け入れてもらおうと決心した。
(君が私をちゃんと人間にしてくれたんだよ。責任取ってよね)
そういえば彼女から運命の出会いはなかったのかと聞かれたけれど、「今目の前にいる君が運命の出会いだ」と面と向かって言えばよかったな。
―――窓から空を見上げると、月がこちらを見下ろしていた。きっと、夜は長い。
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