不埒な魔術師がわたしに執着する件について~後ろ向きなわたしが異世界でみんなから溺愛されるお話

めるの

文字の大きさ
65 / 133
本編

65 戦闘準備は空色のドレスで2

しおりを挟む
あれこれ準備に追われているうち、舞踏会当日になってしまった。

いくら本日の主役とはいえ、女性ひとりの準備にこんなに人手をかけていいものか、というくらいすさまじい。

「湯あみをしてお体を温めた後にじっくりたっぷり肌のお手入れをさせていただきますね。万全のコンディションにするため、申し訳ありませんが本日炭水化物はお召し上がりにならないようお願いいたします。午前中は美容に良いハーブティをご用意いたしますので、できるだけこまめに飲んでいただけますようお願いいたします。」

一気に説明されて、浴室へと連行される。お風呂は好きですけど、、、こんなスケジュールどおりに入るのは落ち着かない。でも貴族のなかには侍女にからだを洗ってもらう人も少なくないと聞くので、自分ひとりで入れさせてもらえるだけありがたいと思おう。

いい香りのする泡いっぱいのバスタブに漬かりながら、午後の予定を反芻する。と言ってもわたしが何かするわけではなく、売られる子牛のごとくあちこち連れていかれてお手入れやら準備やらをするだけだ。大変なのは周りのみなさんでわたしではない。


(ルー、来てくれないかなあ)

ルーとは、あの日以来顔を合わせていない。「魂の定着」という大義名分で毎日キスしていたが、さすがにもう不要だと判断されたようだ。

でもそれ以上にルーのキスはあったかくて、気持ちよくて、人前じゃなければ大好きだ。急にそれがなくなってしまうと、なんだかひどく寂しい。

(ルーに会いたいし、キスしたいなあ)

ぱしゃん、とお湯が跳ねる。

さすがに人には言えないけど、そんな不埒なことを考える。今朝から侍女さんたちに慌ただしくからだじゅうを磨かれて、忙しくはあるのだけれど、考える時間はいっぱいあるので余計なことを考えてしまう。

皮膚がふやけるほどお湯に漬かった後は、いよいよ着付けの準備だ。まずは肌を整えましょうと次なる部屋へ連行された。

「ここ最近、姫様はますますお美しくなられましたわ。陛下のご寵愛の賜物だと思うと私どもも誇らしい気持ちです。」

オイルマッサージをしながら、そんなことを言われる。女性除けとして雇用されている身としてはなんとも複雑な気分だが、あえて否定することもないので曖昧に頷いた。

髪も毛先をカットしてもらいトリートメントもしてもらったので驚くほどつやつやだ。それを高い位置で夜会巻きにして幾か所も飾りピンを差す。爪もキラキラした飾りが施された。至れり尽くせりで、まるでお姫様みたいな扱いだ(一応お妃様だけど)。

ドレスの着付けもようやく終わり準備万端で待っていると、コンコンとノックの音がしてアレクが迎えに来た。

「入るよー、準備はできた?」

軽い口調で入ってきたアレクは、わたしの姿を一目見るなり、見覚えがないものを目にしたかのような変な顔をした。いつもの嘘くさい愛想笑いすらない。

ちく、ちく、ちく。沈黙が痛い。
黙って待っていても、アレクからの次の言葉はなかった。

「え・・・・?おかしい?」

ついに不安が口をついて出た。アナスタシアの容姿であれば完璧だと思ったのに、中身がわたしだと変なのかもしれない。

アレクは無言で首を振った後、わたしの手を取ってくるりと一回転させ、ふうと小さく溜息をついた。

今夜の装いは、上身頃が空色で裾に向かって黒に近い濃紺へとグラデーションになった生地で仕立てられた、ほっそりしたシルエットのドレスだ。お披露目に相応しく、金糸銀糸にスパンコール、キラキラする魔石まで使ってふんだんに刺繍が施され非常に華やかだ。

ホルターネックで前から見るとそうでもないが、後ろ姿は背中からおしりの辺りまで大胆に露出している。恥ずかしい気もするが「これくらいで標準です!」と断言され、自分では見えないからいいかと妥協した。

メイクは、華やかなドレスに対して少し控えめにしてもらった。アナスタシアの外見でフルメイクだと破壊力がすごいのです。フェースパウダーにアイライン、それと瑞々しいベリーカラーのグロスを選んだ。気持ち上目遣いでアレクを見上げる。

「はは・・・びっくりした。」

乾いた笑いを落として独り言みたいにアレクがつぶやいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

転生先は男女比50:1の世界!?

4036(シクミロ)
恋愛
男女比50:1の世界に転生した少女。 「まさか、男女比がおかしな世界とは・・・」 デブで自己中心的な女性が多い世界で、ひとり異質な少女は・・ どうなる!?学園生活!!

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...