不埒な魔術師がわたしに執着する件について~後ろ向きなわたしが異世界でみんなから溺愛されるお話

めるの

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本編

73 闇の瞳と救いの光2 【side ラジウス】

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闇の魔力持ちだと判明してからは、怯えた目で見られるのが嫌で部屋からほとんど出なくなった。毎日食事を乗せたワゴンを運ぶ男がやってくる以外は、誰も部屋を訪れない。

幸いにも部屋は広いのでさほど問題はない。窓も開けず、一日中本を読むかベッドに寝ころび考え事をする毎日。人の気配が消えた夜には、外を散歩することもある。

人と会話することがなくなった。それだけのことだ。

表面上は平和で、退屈で。鬱々とした気持ちばかりが溜まっていく。ついには月日を数えることすらやめてしまった。

ある夜いつものように食事を運んできた男が無言で僕に手紙を手渡した。中を開けると神官長からの呼び出しで、夜中に部屋にくるようにとのことだった。

(どうせ悪い話に違いない)

急なことに訝しみながらも指定された時間に神官長の部屋へ向かう。

しんと静まり返った廊下には、生きている人間の気配はない。

こつり、こつり、と靴の音だけが響く。死者の国へ旅立つ死人はこんな感じだろうかと思いつつ扉を叩いた。

「神官長、ラジウスが参りました。失礼いたします。」

軽く礼をして室内に入る。部屋の奥には長い髭を生やした神官長がゆったりとした肘掛け椅子に座り、そばには僕と同年代の少年が立っていた。

短く切り揃えられた髪に意志が強そうな濃い青の瞳。とても神官見習いには見えない。神殿にこんな少年はいただろうかと記憶を辿るが覚えがない。

とにかく僕は礼儀にのっとって両手を組み、恭しく頭を下げた。

「楽にしてください。ここは限られた人間しかいませんから。」

そう声をかけられて頭を上げると、灰色の瞳が懐かしいものを見たかのように僕を見つめていた。不思議に思い首をかしげると、神官長からはもう感情の色は読み取れなかった。

「我が国の第二皇子であらせられるイヴァン殿下が貴方の持つ稀有な力を役立ててほしいとお考えです。ついては準備ができ次第王宮へ移り、貴方は今後皇子の侍従としてお仕えすることになります。」

「・・・承知しました。」

さすがにこのタイミングで告げられるとは思わなかったが、闇の魔力が顕現した時から言われていたことなので驚きはなかった。

(僕が喜ぶとでも思っているんだろうか)

周りからは名誉なことだと言われていたが、王族に仕えると聞いても気持ちは冷めていた。稀有な力と言ったところで、要は人を支配する力が欲しいだけだろう。

確か王太子と第二皇子は異母兄弟だったはずだ。自分に有利な駒を揃えておきたいというところか。

「私は神殿の人間ですら恐れる闇の魔力持ちである上に、異なる世界から呼び出された異端者です。高貴な方にお仕えするには相応しくないのではないでしょうか。」

わざと言うと、神官長は僕の嫌味に気づいたのか困ったような顔をした。そして隣の少年を一瞥すると、少年は無言で頷いた。

「・・・ラジウス。」

「はい、何でしょうか。」

「異世界からこの世界に来たということは、非常に稀なことです。ましてや闇の魔力はとても尊い。その力と経験は必ず貴方のためになります。」

模範解答のような神官長の言葉にイラっとして答える。

「そうでしょうか。残念ながら僕のほかに同じ境遇の方がいないので一概には言えませんが、とてもそうは思えない。」

吐き捨てるように言うと、神官長は少し考えた後、口を開いた。

「ラジウス、貴方に伝えておきたいことがあります。」

「何でしょうか。」

「私は10年前まではフィレンツェという街にある教会の神父でした。10年前に貴方と同じように召喚されたのです。」

「・・・なんですって?」

フィレンツェは僕でも知っている都市だ。こんな身近に自分と同じ境遇の人間がいたなんて。神官長はその事実は伏せていたらしく、僕の言葉を聞いて明かすことにしたようだった。

神官長の口からぽつぽつと語られたのは、自身も10年前に異世界召喚されたことと、元の世界に戻る方法はないこと。

そして儀式を形骸化させないために10年に1度、定期的に召喚の儀式を行っており、僕はそのために呼ばれたのだという事実だった。

「僕は実験台だったというわけですか。」

声が震える。そんな理由のために僕は突然家族と引き離されたのか。そんな理由のために人に厭われる力を手に入れたのか。くやしさを見せないよう下を向いて唇を噛んだ。

(僕じゃなくてもよかったんじゃないか)



「そうじゃない。お前が呼ばれたのは俺が望んだからだ。」

それまで一言も発しなかった少年が、凛とした声で僕に告げた。顔を上げると迷いのない夜空色の瞳が僕を射抜く。

「俺がお前を望んだ。国を護り救う力がほしかったんだ。お前の人生を捻じ曲げてしまったのは申し訳ない。」

そう言って頭を下げた。

それがイヴァン殿下との出会いだった。
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