不埒な魔術師がわたしに執着する件について~後ろ向きなわたしが異世界でみんなから溺愛されるお話

めるの

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本編

76 それはヒミツの味2

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なんだか知らないうちにイヴァン殿下のお屋敷に連れてこられたらしい。

確かに幾何学的な意匠が特徴的な柱の装飾や目が回りそうに細かい模様が施された天井の模様など、今までとは異なる様式の調度が並ぶ部屋は異国的な風情がある。

聞けば、ここから転移の魔法陣を経由して今日中にキリル公国に入る予定とのこと。婚約破棄の手続きをして、アナスタシアの荷物を受け取って完了、という流れのようだ。

緊張していたせいか昨夜の記憶はあまりないのだけれど、キリル公国へ来ないかと誘われたことはおぼろげに覚えていた。

目の前には、ラジウスと名乗った男性がこちらを見ていた。聖歌隊の少年がそのまま成長したかのような顔立ちの正統派美少年だが、ルーよりは年上に見える。イヴァンと対等に会話していたことを考えると、思っているより年上なのかもしれない。

それにしても、まさか単身で連れてこられるとは思わなかった。自分の意志とは無関係に話が進んでいくことに若干の不安を感じるが、隣国での手続きもアレクが承知したのであれば大丈夫だと信じるしかない。

(ルーも来てくれればよかったのに)

頭に浮かぶのはルーのことばかりだ。突然知らない場所に連れてこられたことよりも、ルーに会えないことのほうが心細い。彼だって仕事があるのだからおいそれと隣国に出張なんてできないのはわかっているけど思わずにはいられない。

(だめだ、最近わがままになってる)

さみしい。さみしい。しばらく会えないと思うと、よけい胸が痛くなる。
今まで毎日のように見ていた紅玉の瞳が恋しい。欲求不満で夢に見るくらいキスしたい。

(さっきの・・・きもちよかったな)

そっと自分のくちびるを指でなぞる。

夢うつつでのキスは、控えめに言ってものすごく気持ちよかった。ラジウスはルーと似ているわけれはないけれど、なぜか、気持ちいいところだけ似ていて。

好きな人とじゃないと気持ちよくないのかと思っていたのに、残念ながら、そんなことはなかった。ちゃんと、ぜんぜん気持ちよかった。

無意識にほう、と息を吐く。

「何を考えているんですか?」

ぼんやりと考えていたら、くすくすと笑いながらラジウスが尋ねた。

「ごめんなさい。ちょっとぼーっとして。」

さすがにあなたとのキスが気持ちよすぎてとは言えず、首を振って言葉を濁す。

「ねえ姫、失礼でなければもう一度キスしてもいいですか?」

「え? キ・・・キスですか?」

「はい、お嫌ですか?」

まさか自分の妄想が気づかれてしまったのだろうかとどぎまぎしてしまう。対するラジウスは、なんら悪びれた様子はない。少し迷ったけれど深い意味はないのかも、と思い、こくりと頷く。

(だめだ。きっと顔が真っ赤に違いない)

どこも似てはいないのに、治療でキスすると言われたときのことを思い出す。あのときも突然言われて随分動揺したんだったっけ。

「ありがとうございます。失礼しますね。」

ラジウスは、礼儀正しくお礼を言うとベッドの上ににじり寄って、わたしに軽くキスした。

あいさつみたいなものかな? と思うくらいに軽く触れる程度。目を開けたときに離れていく長いまつげが見えた。

ほっとしたような、がっかりしたような。何とも言えない気分になる。

(いやいや、ほぼほぼ初対面の相手だし!)

でもこれだけの美少年からキスされてどきどきしない女性はいないだろう。いつもルーにキスされ慣れているわたしでも、くらりと来るし。

「次に、僕の魔力を流しますから、感じてみてもらえますか?」

「へ?」

そう言うと、もう一度、こんどはもう少し長くキスをした。反射的に目を閉じると、ふわりと甘い魔力が流れてくる。

「・・・どうですか?」

ぺろり、と舌を舐めてラジウスが蠱惑的な視線を向ける。

「すごい・・・きもちいい、です。」

そう答えてから、いやいやキスの感想なんて普通聞かないし、違う意図だったんじゃ、とまたしても顔に熱が集まる。

以前ルーの魔力を流されたときは、もっとぞわぞわとして違和感がある感触だった。それに対してラジウスの魔力は、もっと懐かしいような、甘いというか、馴染みがあるような感覚。

魔力にも相性とかがあるのかもしれない。

「じゃあ次は、その魔力の流れをせき止めるイメージをしてください。」

それ以上の説明はなく、なんのことだか理解できないまま両腕で囲われた。ラジウスは、わたしの顎に手をかけると、さっきよりも長くキスをした。

「うん・・・んっ・・・」

苦しくなって口を開くと、当然のようにラジウスの舌が侵入する。言われたとおり魔力をせき止めようとイメージしようと思っても、官能的なキスと流された魔力に気持ちよくなってしまって頭が働かなかった。

『気持ちよく、なってもいいですからね。』

キスの合間に、悪魔のような甘い囁きが耳元に落ちる。

そう言われると、彼とのキスで気持ちよくなってしまうのを許される気がした。
快感に呑み込まれるように舌の動きを追いかけると、焦らされるように咥内を掻きまわされた。

もっともっと気持ちよくしてほしい。とろりとした顔でラジウスを見上げると、企みに成功したような顔をしてハシバミ色の瞳が妖しく輝く。

彼の手が太ももに触れようとしたとき、ドアの外から「ラジウス? そこにいるのか?」という声が聞こえた。
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