不埒な魔術師がわたしに執着する件について~後ろ向きなわたしが異世界でみんなから溺愛されるお話

めるの

文字の大きさ
77 / 133
本編

76 それはヒミツの味2

しおりを挟む
なんだか知らないうちにイヴァン殿下のお屋敷に連れてこられたらしい。

確かに幾何学的な意匠が特徴的な柱の装飾や目が回りそうに細かい模様が施された天井の模様など、今までとは異なる様式の調度が並ぶ部屋は異国的な風情がある。

聞けば、ここから転移の魔法陣を経由して今日中にキリル公国に入る予定とのこと。婚約破棄の手続きをして、アナスタシアの荷物を受け取って完了、という流れのようだ。

緊張していたせいか昨夜の記憶はあまりないのだけれど、キリル公国へ来ないかと誘われたことはおぼろげに覚えていた。

目の前には、ラジウスと名乗った男性がこちらを見ていた。聖歌隊の少年がそのまま成長したかのような顔立ちの正統派美少年だが、ルーよりは年上に見える。イヴァンと対等に会話していたことを考えると、思っているより年上なのかもしれない。

それにしても、まさか単身で連れてこられるとは思わなかった。自分の意志とは無関係に話が進んでいくことに若干の不安を感じるが、隣国での手続きもアレクが承知したのであれば大丈夫だと信じるしかない。

(ルーも来てくれればよかったのに)

頭に浮かぶのはルーのことばかりだ。突然知らない場所に連れてこられたことよりも、ルーに会えないことのほうが心細い。彼だって仕事があるのだからおいそれと隣国に出張なんてできないのはわかっているけど思わずにはいられない。

(だめだ、最近わがままになってる)

さみしい。さみしい。しばらく会えないと思うと、よけい胸が痛くなる。
今まで毎日のように見ていた紅玉の瞳が恋しい。欲求不満で夢に見るくらいキスしたい。

(さっきの・・・きもちよかったな)

そっと自分のくちびるを指でなぞる。

夢うつつでのキスは、控えめに言ってものすごく気持ちよかった。ラジウスはルーと似ているわけれはないけれど、なぜか、気持ちいいところだけ似ていて。

好きな人とじゃないと気持ちよくないのかと思っていたのに、残念ながら、そんなことはなかった。ちゃんと、ぜんぜん気持ちよかった。

無意識にほう、と息を吐く。

「何を考えているんですか?」

ぼんやりと考えていたら、くすくすと笑いながらラジウスが尋ねた。

「ごめんなさい。ちょっとぼーっとして。」

さすがにあなたとのキスが気持ちよすぎてとは言えず、首を振って言葉を濁す。

「ねえ姫、失礼でなければもう一度キスしてもいいですか?」

「え? キ・・・キスですか?」

「はい、お嫌ですか?」

まさか自分の妄想が気づかれてしまったのだろうかとどぎまぎしてしまう。対するラジウスは、なんら悪びれた様子はない。少し迷ったけれど深い意味はないのかも、と思い、こくりと頷く。

(だめだ。きっと顔が真っ赤に違いない)

どこも似てはいないのに、治療でキスすると言われたときのことを思い出す。あのときも突然言われて随分動揺したんだったっけ。

「ありがとうございます。失礼しますね。」

ラジウスは、礼儀正しくお礼を言うとベッドの上ににじり寄って、わたしに軽くキスした。

あいさつみたいなものかな? と思うくらいに軽く触れる程度。目を開けたときに離れていく長いまつげが見えた。

ほっとしたような、がっかりしたような。何とも言えない気分になる。

(いやいや、ほぼほぼ初対面の相手だし!)

でもこれだけの美少年からキスされてどきどきしない女性はいないだろう。いつもルーにキスされ慣れているわたしでも、くらりと来るし。

「次に、僕の魔力を流しますから、感じてみてもらえますか?」

「へ?」

そう言うと、もう一度、こんどはもう少し長くキスをした。反射的に目を閉じると、ふわりと甘い魔力が流れてくる。

「・・・どうですか?」

ぺろり、と舌を舐めてラジウスが蠱惑的な視線を向ける。

「すごい・・・きもちいい、です。」

そう答えてから、いやいやキスの感想なんて普通聞かないし、違う意図だったんじゃ、とまたしても顔に熱が集まる。

以前ルーの魔力を流されたときは、もっとぞわぞわとして違和感がある感触だった。それに対してラジウスの魔力は、もっと懐かしいような、甘いというか、馴染みがあるような感覚。

魔力にも相性とかがあるのかもしれない。

「じゃあ次は、その魔力の流れをせき止めるイメージをしてください。」

それ以上の説明はなく、なんのことだか理解できないまま両腕で囲われた。ラジウスは、わたしの顎に手をかけると、さっきよりも長くキスをした。

「うん・・・んっ・・・」

苦しくなって口を開くと、当然のようにラジウスの舌が侵入する。言われたとおり魔力をせき止めようとイメージしようと思っても、官能的なキスと流された魔力に気持ちよくなってしまって頭が働かなかった。

『気持ちよく、なってもいいですからね。』

キスの合間に、悪魔のような甘い囁きが耳元に落ちる。

そう言われると、彼とのキスで気持ちよくなってしまうのを許される気がした。
快感に呑み込まれるように舌の動きを追いかけると、焦らされるように咥内を掻きまわされた。

もっともっと気持ちよくしてほしい。とろりとした顔でラジウスを見上げると、企みに成功したような顔をしてハシバミ色の瞳が妖しく輝く。

彼の手が太ももに触れようとしたとき、ドアの外から「ラジウス? そこにいるのか?」という声が聞こえた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

転生先は男女比50:1の世界!?

4036(シクミロ)
恋愛
男女比50:1の世界に転生した少女。 「まさか、男女比がおかしな世界とは・・・」 デブで自己中心的な女性が多い世界で、ひとり異質な少女は・・ どうなる!?学園生活!!

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...