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本編
100 転回2
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(あたま、いたい。脳の後ろでガンガンと音がするみたい)
もっと寝ていたいけれど、頭痛がひどくてこれ以上眠り続けることができなかった。経験したことはないけれど、世に言う二日酔いというのはこんな感じんだろうかと思う。
あきらめてゆっくりと目を開ける。ぼんやりと覚醒する。
離れたところで、話し声が聞こえた。決して大きな声ではないけれど、自然と耳が音を拾う。アレクの声は通るので何を言っているのかわかるが、セイの声は聞き取りにくい。『ルーに荷物を』とか『予定が』という言葉が切れ切れに聞こえるので、帰る相談をしているのだろうと推測する。
(ああ、そうだ。さっき倒れたんだった)
気休めに額に右手を当ててみるが、ずきずきする痛みは治まらなかった。
小さめのベッド(それでも日本の感覚から言ったら充分大きい)、見覚えがない部屋。現在宿泊している続き部屋ではなく、休憩室のような、今までよりは少し手狭な場所だ。
ふたりと再会した安堵から、崩れるように意識を失ったのはつい先ほどのこと。どれくらい寝てたのかわからないが、誰かが手近な部屋に運んでくれたのだろう。意識がない人間はすごく重いと聞いたことがあるので本当に申し訳ない。
鈍く痛む頭から意識を逸らそうと寝返りをうつと、かすかな音に気付いたアレクとセイが同時にこちらを見た。
「シア!」
一目散にセイが駆け寄り、心配そうに顔を覗き込む。
「だい、じょーぶ。ごめんなさい、心配かけて。頭が痛いだけだから。」
うまく笑えていないのを自覚しながら、なんとか答える。その横からアレクが、医師が診察するかのようにわたしの手首を取った。
「意識もはっきりしているし、脈も・・・うん、問題ない。君のそれはおそらく魔力のせいだから、薬とかは必要ないよ。」
なんでも、あまりに魔力が強いと体内に魔力が蓄積して体に変調をきたすらしい。今までわたしは無意識に魔力を放出していたので問題なかったけれど、魔力制御を教わって放出を止めた反動で、体内に魔力が蓄積されたというのがアレクの見立てだ。
(そっか、ラジウスに教わってから魔力を止めるよう意識してたもんね)
倒れた理由に納得がいった。無駄に魔力を漏らしていると思ったら、ちゃんと意味があったんだった。でも今までアナスタシアはどうしてたんだろうと思ったら、セイ曰く、定期的に魔力を行使して体調不良を回避していたとのこと。さすが。
「えと、つまり魔力を使えば頭痛がおさまるってこと?」
「おっしゃるとおりです。」
セイはわたしの疑問に対して当たり前のように答えるが、どうやって魔力を使えばいいのかなんてわからない。困惑している私の横から助け船が出された。
「ルーから魔力を流してもらったことあるでしょ。同じ感じでやってみて。」
ぎしり、とベッドに腰掛けたアレクが私の顎に手をかけ、キスをした。
「んっ・・・・。」
こんなところで声を上げたくはないけれど、気持ちよさに声が漏れる。アレクはやめる気配はなく、何度となく舌を絡め、やわく唇を食んだ。
視界の端で、くしゃりと歪むセイの顔が見える。傷つけてしまった罪悪感があるが、わたしには、なすすべがなく。
「他所事は、考えちゃだめだよ。」
急にキスされたことに加え、繋がった部分からアレクの魔力が流れ込んできてめまいがする。頭を撫でる手はやさしいのに、蠢く舌は容赦がない。
暴力的に気持ちがいいところを揺さぶられるみたいな、すべてを持ってかれるみたいな感覚だった。力が抜けて、アレクに体重を預けるかたちになる。
されるがまま彼の舌を受け入れていると、いじわるするみたいに、急にアレクはキスをやめてしまった。
「あ・・・・」
もっとキスしてほしい。すがるような目を向けると、アレクは中指でわたしのくちびるをなぞった。
「ほらほら、止まらないで、私にも同じように魔力を返して。わかるよね。」
促されて、わたしからアレクにキスをする。おそるおそる相手の咥内に舌を差し入れ、つたない動きで舌を追いかける。ようやく捕まえたと思ったら逃げられ、また追いかける。その間、ずっと抱きしめられたままだ。
「ふ・・・、あぅ」
待ちかねたように、今度はアレクからキスされ、舌を入れられた。絡められる舌に引きずられて意識が飛びそうだ。ついこの間、ラジウスと何度もした行為と同じことをアレクに返す。
「そうそう、上手、じょうず。その顔をセイにも見てもらおうか。」
そう言うと、アレクはわざとセイに見せつけるみたいに向きを変えて深いキスをした。
「やだ、やっ・・・やあっ」
「ふふ。この前見たときからやってみたいと思ってたんだよねー。見られながらするのって、すごい、イイね。」
アレクは、さんざんわたしを翻弄した後、空色の瞳をあやしくきらめかせながら尋ねた。
「ねーえ、シア。なんであのときあんなに蕩けた顔してたのか聞いてもいい?」
「え、蕩けた顔なんてしてな・・・」
「いーや、してたね。あっまーい顔でイヴァンの顔見てた。」
もっと寝ていたいけれど、頭痛がひどくてこれ以上眠り続けることができなかった。経験したことはないけれど、世に言う二日酔いというのはこんな感じんだろうかと思う。
あきらめてゆっくりと目を開ける。ぼんやりと覚醒する。
離れたところで、話し声が聞こえた。決して大きな声ではないけれど、自然と耳が音を拾う。アレクの声は通るので何を言っているのかわかるが、セイの声は聞き取りにくい。『ルーに荷物を』とか『予定が』という言葉が切れ切れに聞こえるので、帰る相談をしているのだろうと推測する。
(ああ、そうだ。さっき倒れたんだった)
気休めに額に右手を当ててみるが、ずきずきする痛みは治まらなかった。
小さめのベッド(それでも日本の感覚から言ったら充分大きい)、見覚えがない部屋。現在宿泊している続き部屋ではなく、休憩室のような、今までよりは少し手狭な場所だ。
ふたりと再会した安堵から、崩れるように意識を失ったのはつい先ほどのこと。どれくらい寝てたのかわからないが、誰かが手近な部屋に運んでくれたのだろう。意識がない人間はすごく重いと聞いたことがあるので本当に申し訳ない。
鈍く痛む頭から意識を逸らそうと寝返りをうつと、かすかな音に気付いたアレクとセイが同時にこちらを見た。
「シア!」
一目散にセイが駆け寄り、心配そうに顔を覗き込む。
「だい、じょーぶ。ごめんなさい、心配かけて。頭が痛いだけだから。」
うまく笑えていないのを自覚しながら、なんとか答える。その横からアレクが、医師が診察するかのようにわたしの手首を取った。
「意識もはっきりしているし、脈も・・・うん、問題ない。君のそれはおそらく魔力のせいだから、薬とかは必要ないよ。」
なんでも、あまりに魔力が強いと体内に魔力が蓄積して体に変調をきたすらしい。今までわたしは無意識に魔力を放出していたので問題なかったけれど、魔力制御を教わって放出を止めた反動で、体内に魔力が蓄積されたというのがアレクの見立てだ。
(そっか、ラジウスに教わってから魔力を止めるよう意識してたもんね)
倒れた理由に納得がいった。無駄に魔力を漏らしていると思ったら、ちゃんと意味があったんだった。でも今までアナスタシアはどうしてたんだろうと思ったら、セイ曰く、定期的に魔力を行使して体調不良を回避していたとのこと。さすが。
「えと、つまり魔力を使えば頭痛がおさまるってこと?」
「おっしゃるとおりです。」
セイはわたしの疑問に対して当たり前のように答えるが、どうやって魔力を使えばいいのかなんてわからない。困惑している私の横から助け船が出された。
「ルーから魔力を流してもらったことあるでしょ。同じ感じでやってみて。」
ぎしり、とベッドに腰掛けたアレクが私の顎に手をかけ、キスをした。
「んっ・・・・。」
こんなところで声を上げたくはないけれど、気持ちよさに声が漏れる。アレクはやめる気配はなく、何度となく舌を絡め、やわく唇を食んだ。
視界の端で、くしゃりと歪むセイの顔が見える。傷つけてしまった罪悪感があるが、わたしには、なすすべがなく。
「他所事は、考えちゃだめだよ。」
急にキスされたことに加え、繋がった部分からアレクの魔力が流れ込んできてめまいがする。頭を撫でる手はやさしいのに、蠢く舌は容赦がない。
暴力的に気持ちがいいところを揺さぶられるみたいな、すべてを持ってかれるみたいな感覚だった。力が抜けて、アレクに体重を預けるかたちになる。
されるがまま彼の舌を受け入れていると、いじわるするみたいに、急にアレクはキスをやめてしまった。
「あ・・・・」
もっとキスしてほしい。すがるような目を向けると、アレクは中指でわたしのくちびるをなぞった。
「ほらほら、止まらないで、私にも同じように魔力を返して。わかるよね。」
促されて、わたしからアレクにキスをする。おそるおそる相手の咥内に舌を差し入れ、つたない動きで舌を追いかける。ようやく捕まえたと思ったら逃げられ、また追いかける。その間、ずっと抱きしめられたままだ。
「ふ・・・、あぅ」
待ちかねたように、今度はアレクからキスされ、舌を入れられた。絡められる舌に引きずられて意識が飛びそうだ。ついこの間、ラジウスと何度もした行為と同じことをアレクに返す。
「そうそう、上手、じょうず。その顔をセイにも見てもらおうか。」
そう言うと、アレクはわざとセイに見せつけるみたいに向きを変えて深いキスをした。
「やだ、やっ・・・やあっ」
「ふふ。この前見たときからやってみたいと思ってたんだよねー。見られながらするのって、すごい、イイね。」
アレクは、さんざんわたしを翻弄した後、空色の瞳をあやしくきらめかせながら尋ねた。
「ねーえ、シア。なんであのときあんなに蕩けた顔してたのか聞いてもいい?」
「え、蕩けた顔なんてしてな・・・」
「いーや、してたね。あっまーい顔でイヴァンの顔見てた。」
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