僕は美女だったらしい

寺蔵

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八鬼が、離れていく

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 ――。

 自然と、目が覚めた。
 座ったまま眠ったから体のあちこちが痛む。

 なんとか立ち上がって、机に置いてた腕時計を確認する。
 お昼ご飯の終了十五分前だった。
 寝過ごしてしまった。早く食堂に行かないと。

 今度こそ、八鬼に会いたい。


 僕を心配してくれた人に会いたい。



 たたが階段を下りるだけなのに、食堂までがやたらと遠い。

 随分と長い時間をかけて食堂の前にたどり着いた。
 廊下のガラス窓から食堂内を見回すけど――八鬼は居なかった。



 遅かったんだ。


 八鬼が居ないならここに用はない。とっくに給仕が終了している時間だ。ご飯はラップしてカウンターの上に置いてあった。
 ハンバーガーとフランクフルトソーセージ、そしてフライドポテト。
 ラップされて水分で湿った油物なんてとても食べられない。
 部屋に戻ろう。
 踵を返そうとした途端、

「夏樹」

 背後から容赦の無い力で腕を引かれてバランスを崩した。
 船寺だった。

「遅い! 早く食わねえと残り十分しかねーぞ!」

 至近距離からの怒鳴り声に、恐怖感が込み上げて背筋が寒くなる。
 風呂場での行為もフラッシュバックして、また、吐き気までしてきた。

「き――きょうは具合悪くて、食べられないんだ。明日、ちゃんと食べるから」
「少しでも食べないと体がもたないだろ」
「いらない!」

 暴れれば暴れるほど、船寺の指が二の腕に食い込んで痛い。

「いいから、ほら、こいって。俺たちも心配してたんだぞ」
「昼飯美味かったぜ。ジャンクフードなんて久しぶりに食ったし」

「――!!」

 後ろから肩を抱かれた。海藤だった。隣には小島、貝崎も居た。
 寮に入って始めてできた、四人の友人だ。

 四人ともこの学校で始めて知り合った。
 入学してまだ一ヶ月だ。それに、僕が八鬼の女と言われるようになってから疎遠になっていたので、僕はまだ四人のことを殆ど何も知らない。
 それでも、出会ったばかりの頃は話しやすい友人だって思ってた。
 なのに今日は四人の表情が不穏で、知らない人にしか見えなくて足が竦む。

「は、離してくれ。明日、ちゃんと食べるから」
「いいから」

 繰り返され、引っ張られて、殆どガラガラになった食堂の中央席に連れて行かれた。

「ほら、美味そうだろ?」

 貝崎がカウンターからトレイを持ってくる。
 水分がラップの中に充満してしまい、バンズはどろどろに湿り、フライドポテトはしんなりして、串の付いたフランクフルトソーセージには白く脂が浮いている。
 元気だった入学式当日の僕なら喜んで食べただろう。でも、食欲なんてまるで無い今は無理だよ。

「今日はお腹が痛いんだ。明日、食べるから」
「いいから、食え!」

 船寺が怒鳴る。また、みっともなく僕の体は震えた。

 話しても無駄だ。
 逃げるしかない。

 腰を浮かせた僕を、後ろに立っていた小島と海藤が押さえ込んだ。
「食べないと体がもたないぞ?」
「お前最近ぜんっぜん食ってないだろ? 心配なんだよ」
 言葉とは裏腹に、にやにや笑って見下ろしてくる。



「ほら、あーん」

 船寺がフランクフルトソーセージを僕の唇に押し付けた。
 ぐり、って押し込まれそうになるのを歯で止めて、椅子の上で後ずさって叫ぶ。

「た、べたく、ないんだ!」

 判って。
 目を見て訴えるのに。

 拒絶の言葉に開いた口の中に、ソーセージが突っ込まれた。
 太いソーセージに喉の奥まで突かれて、ぐぅって喉が鳴る。

「うっわ、エロ」
 海藤が笑う。

 やめろ!

「!?」
 振り払おうと上げた両手が動かなくなる。
 右手を小島が、左手を海藤が押さえ込んでいた。
 放せ!
 筋肉が切れるんじゃないかってぐらい必死に抵抗する。
 なのに、少しも振り払えない。
「暴れんな!」
 ぐいってへんな方向に腕を引っ張られ、骨が軋みを上げた。
 痛い、やめて!

 ソーセージは益々深くに押し込まれ、歯を立てようにも喉が痙攣して本能みたいに口が開いてしまう。
 貝崎が携帯で撮影している。
 腕を押さえたままの小島が僕の頭を掴んで、前後に動かす。

「んぐ……ぅ」
「すっげ完全にフェラだ」
「やべ、勃った、まじエッロ!」

 苦しい、息ができない。


 どうして。どうして僕がこんな目に。

 もう、いやだ。


 助けて。








(八鬼)








 ドゴン!!

 鈍い音がして、押さえつけられた体が楽になった。

「ぁ……」

 舌から糸を引いてフランクフルトがトレイの上に落ちる。
 やっと息が出来るようになって安堵に体から力が抜ける。

「テメーら夏樹のダチじゃなかったのかよ」

 僕の後ろから、殺気の篭ったバリトンの声が響いた。
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