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僕はもともと壊れてた
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「八鬼く」
船寺が青ざめて後ろに下がる。八鬼は一歩で机を乗り越えて向かいに立ってた船寺に蹴りを入れた。巨体から繰り出された蹴りに船寺は軽く飛ばされ、奥のテーブルともども床に倒れる。
「がっ……!」
逃げ出そうとする貝崎にも背中に蹴りを入れてふっ飛ばす。貝崎の手から落ちたスマートフォンを八鬼が踏みつけると、一撃で液晶の割れる音がした。
「八――鬼、」
八鬼だ。
来てくれた。
よかった。
八鬼。
名前を呼ぼうとした口に肉の味が充満して、気持悪さによろけながら走る。
トイレまで持たずに、手洗い場で、せり上がってきた胃液を吐く。
吐くものなんて何も無いのに、不快感に胃が痙攣して喉が鳴り、胃液の最後の一滴までを吐き出した。
苦しい。
気持ち悪い。
胃が痛い。
喉が焼ける。
苦しくて蛇口を上向かせて口をすすぐ。焼けた喉を冷やすために水を胃に流し込む。
「おい、大丈夫か?」
八鬼。
「八鬼……」
来てくれた。
「あ――会いた、かった、八鬼、こわ、かった」
「おい」
「もういやだ……どうしてこんな……!」
手洗い場に縋りついたまま膝が折れる。
ち、と舌打ちの音が上で響く。
指が白くなるぐらいすがり付いてたのに、八鬼は簡単に僕をそこから引き剥がして抱き上げた。
暖かい。心配してくれた人の温もりに力一杯縋り付く。
「八鬼……八鬼……!」
「くそ、この馬鹿が」
八鬼は荒れた食堂を振り返りもしないで僕を腕に抱いたまま歩き出す。
階段にさしかかる頃、八鬼の腕に力が篭って僕をきつく抱き締めた。
そうして抱き締めたまま、階段を段飛ばしで上っていく。
「お前を返してやったってのに玩具にしやがって……。あいつらはお前のダチじゃなかったのか?」
船寺達は八鬼に蹴飛ばされて食堂に転がってる。八鬼の力は半端じゃないからしばらくは立ち上がることも出来無いだろう。かつての友人達が遠くなるのに安心する。
「友達だと思ってた……」
船寺の言葉がフラッシュバックしてくる。僕から媚びてきた癖にって言われた。ビッチって言われた。金持ちに乗り換えたって言われた。
僕はそんなことしてない。媚びた事もない。ビッチどころか、誰かと付き合った事すらない。
でも。
八鬼も、同じことを言ってた。
『男欲しくて堪んねぇって面しやがって』――って。
ここにきてようやく理解した。
「僕……男を欲しがってる顔をしてたんだね」
ぎゅって、八鬼に強く抱きつく。
「男の人に媚びた、物欲しそうな顔をしてたんだね」
媚びて、男の愛情を得るためなら簡単に体を差し出しそうな、物欲しげな顔をしているんだって、ようやく自覚ができた。
涙が溢れてきて、笑い飛ばそうとしたのに駄目で、それでも無理に笑おうとしたら口の中に涙が入ってきて気持ち悪くなった。
「僕、ほんとに、男の人が好きだって思ったことないんだ。男の人にすきって言われた事もないんだ。大好きな女の子が居たけど、告白したら、迷惑だって、ストーカーになるなって言われたもん」
精一杯の言い訳をして、八鬼の服をきつく握りなおす。
でも、本当にそうなんだろうか。僕は、本当に、男の人を好きじゃなかったんだろうか?
心に重たい石がのしかかる。
自分の心を探る。
(僕は男に媚びたりなんかしない――男の人を恋愛対象にするなんて、考えた事もない。男の人に傍に居て欲しいなんていちども――――)
あれ?
男の人に、傍に居て欲しいなんて考えた事無い?
いや、ある。一杯、ある。男の人に傍に居て欲しかった。心のどこかが悲鳴を上げた。
これは何?
これは――――? あ、そうか。
僕が男の人に媚びる理由は、驚くぐらいにすぐに見つかってしまった。
船寺が青ざめて後ろに下がる。八鬼は一歩で机を乗り越えて向かいに立ってた船寺に蹴りを入れた。巨体から繰り出された蹴りに船寺は軽く飛ばされ、奥のテーブルともども床に倒れる。
「がっ……!」
逃げ出そうとする貝崎にも背中に蹴りを入れてふっ飛ばす。貝崎の手から落ちたスマートフォンを八鬼が踏みつけると、一撃で液晶の割れる音がした。
「八――鬼、」
八鬼だ。
来てくれた。
よかった。
八鬼。
名前を呼ぼうとした口に肉の味が充満して、気持悪さによろけながら走る。
トイレまで持たずに、手洗い場で、せり上がってきた胃液を吐く。
吐くものなんて何も無いのに、不快感に胃が痙攣して喉が鳴り、胃液の最後の一滴までを吐き出した。
苦しい。
気持ち悪い。
胃が痛い。
喉が焼ける。
苦しくて蛇口を上向かせて口をすすぐ。焼けた喉を冷やすために水を胃に流し込む。
「おい、大丈夫か?」
八鬼。
「八鬼……」
来てくれた。
「あ――会いた、かった、八鬼、こわ、かった」
「おい」
「もういやだ……どうしてこんな……!」
手洗い場に縋りついたまま膝が折れる。
ち、と舌打ちの音が上で響く。
指が白くなるぐらいすがり付いてたのに、八鬼は簡単に僕をそこから引き剥がして抱き上げた。
暖かい。心配してくれた人の温もりに力一杯縋り付く。
「八鬼……八鬼……!」
「くそ、この馬鹿が」
八鬼は荒れた食堂を振り返りもしないで僕を腕に抱いたまま歩き出す。
階段にさしかかる頃、八鬼の腕に力が篭って僕をきつく抱き締めた。
そうして抱き締めたまま、階段を段飛ばしで上っていく。
「お前を返してやったってのに玩具にしやがって……。あいつらはお前のダチじゃなかったのか?」
船寺達は八鬼に蹴飛ばされて食堂に転がってる。八鬼の力は半端じゃないからしばらくは立ち上がることも出来無いだろう。かつての友人達が遠くなるのに安心する。
「友達だと思ってた……」
船寺の言葉がフラッシュバックしてくる。僕から媚びてきた癖にって言われた。ビッチって言われた。金持ちに乗り換えたって言われた。
僕はそんなことしてない。媚びた事もない。ビッチどころか、誰かと付き合った事すらない。
でも。
八鬼も、同じことを言ってた。
『男欲しくて堪んねぇって面しやがって』――って。
ここにきてようやく理解した。
「僕……男を欲しがってる顔をしてたんだね」
ぎゅって、八鬼に強く抱きつく。
「男の人に媚びた、物欲しそうな顔をしてたんだね」
媚びて、男の愛情を得るためなら簡単に体を差し出しそうな、物欲しげな顔をしているんだって、ようやく自覚ができた。
涙が溢れてきて、笑い飛ばそうとしたのに駄目で、それでも無理に笑おうとしたら口の中に涙が入ってきて気持ち悪くなった。
「僕、ほんとに、男の人が好きだって思ったことないんだ。男の人にすきって言われた事もないんだ。大好きな女の子が居たけど、告白したら、迷惑だって、ストーカーになるなって言われたもん」
精一杯の言い訳をして、八鬼の服をきつく握りなおす。
でも、本当にそうなんだろうか。僕は、本当に、男の人を好きじゃなかったんだろうか?
心に重たい石がのしかかる。
自分の心を探る。
(僕は男に媚びたりなんかしない――男の人を恋愛対象にするなんて、考えた事もない。男の人に傍に居て欲しいなんていちども――――)
あれ?
男の人に、傍に居て欲しいなんて考えた事無い?
いや、ある。一杯、ある。男の人に傍に居て欲しかった。心のどこかが悲鳴を上げた。
これは何?
これは――――? あ、そうか。
僕が男の人に媚びる理由は、驚くぐらいにすぐに見つかってしまった。
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