僕は美女だったらしい

寺蔵

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僕はもともと壊れてた

「お前を壊したのは俺なのに」

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 口に出そうとして、声を飲み込む。

 自分自身でも情けなくなるぐらいに惨めな理由だった。

 これを言えば、全世界の人間に嫌われる。
 全世界の人間が、僕の幼稚さに呆れる。

 情け無い言い訳だ。

 それでも、口に出さずにいられなかった。

「り、理由、わかったよ、八鬼」

 八鬼に言い訳したかった。
 八鬼も、船寺と同じよう、僕を、金持ちに乗り換えたビッチだと思ってる。
 9人もの男相手に体を売った淫売だと思ってる。

 違うんだ。

 僕がモノ欲しそうな顔をするのは、理由があるんだ!

「――――お――お父さんに、認めて欲しかったんだ。一回でいいから抱っこしてもらいたかったんだ。褒めてもらいたかったんだ。――――だから、ぼく、みっともなく、男の人相手にモノ欲しそうな顔をして、八鬼も、船寺も、誘ったんだ――ごめんなさい、ごめんなさい――……!!」

 僕を見て欲しかったんだ。

 お父さんは長男である兄さんばかりを贔屓して僕を見ようとしなかった。

 兄さんが進学もせずに家を出て行った時、今度こそ僕を見てくれるって思ったのに、圧し掛かってくるのは負担ばかりで、兄の失敗を繰り返すまいとますます躾が激しくなっていった。

 僕は兄さんの代用品。

 でも、父にとっては出来そこないの代用品。

 僕はがんばってきたのに、父の評価は「情け無いほど自立が出来てないみっともない息子」だった。
 僕はがんばってきたのに、周りからの評価も、男に媚を売る最低の人間だった。

 僕は。
 僕のがんばりは、何の意味もない、くだらないものだった。

 僕の十五年は本当にくだらない、何の価値も無い何の意味も無い物だった。
 それどころか、無償の愛を得るために媚を売る、最低の人間に成り下がってた。

 なんて情け無い、みっともない。
 堰を切ったみたいに涙が溢れた。

「――――ぁ…………」

 悲鳴を上げてしまい両手で口を押さえる。
「ぅ――――くぅ」

 なんて浅ましい。



 なんて汚い。

「謝ってんじゃねえよ。お前は被害者だろうが」

 違う!!
 声が出せない。声を出したら大声で泣いてしまう。力一杯頭を振って否定した。

 八鬼は暴君で。

 暴力で僕を支配して、性欲の処理に使う加害者だと思ってた。

 でも、違った。
 男を誘う態度を取っていた僕の相手をしてくれた人だ。

 八鬼が居なかったら、入学式の日に九人もの男に襲われてズタズタにされてた。
 それだけじゃない。僕が八鬼の女じゃなかったら、今日だって、お風呂場で船寺に犯されてた。貝崎にも、小島にも海藤にも襲われたかもしれない。

 八鬼が、「八鬼の女」にしてくれたから、僕は、八鬼だけで済んでいた。
 八鬼は、僕を、守ってくれていた。

 いつの間にか自室に到着していた。
 僕を抱っこしたままベッドに座って、両手で、ぎゅって、抱き締めてくれた。
 苦しくない、痛くない。ただ、守られていると――この腕の中にいてもいいんだと錯覚する強い力で。

「泣くな。親の関心が欲しくてどうしょうも無いのは、俺もちゃんと理解できるから。……っつっても、ガキの頃の話しになるけどな」

 え?

 とんとん、って、背中を叩かれる。

「俺の母親は親父の愛人だったんだよ。昔は正妻の嫌がらせが酷くてその日暮らしていくのもやっとだった。ゴミ溜めみたいな場所で食うモンも無くて、飢えてる俺達に、親父は一度も会いに来なかった。けど、いい子にしてればいつかは会いに来るって信じてたんだ。結局、一回も会いにはこなかったけどな」
 僕の髪に頬を擦り寄せてくる。

「で、正妻と息子が事故死して……。慌てて、俺を産んでた愛人のお袋を正妻に迎えたって訳だ。馬鹿馬鹿しい話だ」

「…………」

「お袋はお袋で、正妻になった途端宝石だのブランド品だの漁りだした挙句、男を作って家に引っ張りこみやがるし……」

 また、とんとん、と僕の背中を叩く。
「親なんてしょうもねえよ。お前がどう足掻こうと変わるもんでもねえ。諦めろ」

 涙も拭えないまま、八鬼を見上げてしまう。

 八鬼にそんな過去があったなんて想像も出来なかった。
 お金持ちだっていう先入観で、甘やかされて育ってきたとばかり思ってた。 八鬼は、ぼうっと見上げる僕の頬に手を添えて、触れるだけのキスをした。

 涙を拭うみたいに唇が頬を辿り、呆然とする僕の前で唇で受けた雫を舌が舐め取る。

 顔を離して僕の顔を見て、困ったみたいに笑ってからまたキスをくれた。
 今度は唇を吸われ、ちゅ、じゅ、って厭らしい音が上がった。

 八鬼、八鬼。

 僕の貧弱な首とは違う、しっかりとした首に腕を回して体を寄せる。

 顔と顔が合わさる角度が無い。八鬼ともっともっと近くなりたいのに、顔のパーツはパズルみたいにくっつかない。

 それでも、一番近くなれる角度を探して顔が傾いてたせいで鼻が当たってしまった。

 舌が僕の口に入ってきて、びっくりして目を見開く。「ひ」って叫んだ声が八鬼の口の中に吸われていった。

 僕からくっついたはずなのに首に回していた腕が浮く。
 それでもどうにか逃げなかった。
 舌と舌が触れた衝撃にまた小さく悲鳴を上げてしまう。
 ぬるっと交わった粘膜と粘膜から脳の奥まで痺れが走った。

 今度こそ八鬼から離れてしまった。
 離れたといっても二センチ程度。

 つ、って、お互いの唇から伸びた糸さえ切れない距離。

 八鬼は動かない。

 浮かせていた腕を逞しい肩に乗せて、今度は僕からキスをした。
 みっともなく体を振るわせながら八鬼の口に舌を入れる。
 途端に、舌の先っぽをちろって舐められて下半身が熱くなった。

「ひぅ……」
「本当にバカだなお前は……。お前を壊したのは俺なのに、俺に懐いてどうするんだよ」

 違うよ。八鬼。僕はもともと壊れていた。

 八鬼の肩に乗せていた手を一纏めにされる。右手だけで両手を握りこんで押さえると、八鬼は僕の後ろ頭に手をやって完全に逃げられないように固定してから深く舌を入れてきた。
 きつく拘束してるくせ、優しく舌を触れ合わせるキスに体の熱がどんどん上がる。

 キスがこんなに気持良いなんて知らない。

 頭を抑えてたはずの掌がいつの間にか腰に下りていた。
 八鬼の上に跨っていた僕の腰を引き寄せる。八鬼のお腹に、僕の股間が当たった。
 制服のシャツ越しに感じる八鬼のお腹の硬い筋肉の感触。キスの刺激に。

「――――っ!?」

 ガクガク体が震えて頭の中が真っ白になった。
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