僕は美女だったらしい

寺蔵

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前倒しで、クリスマスの話

靴下の中のプレゼント

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 翌朝。

「う……。」

 体痛い……。あちこち筋肉痛……。
 肌に当たるシーツの感触が気持ちい……、僕、裸で寝てたんだ……。
 サンタ服どうなったかな……ってもう捨てるしかないよね、アレ。
 ヒロト君に謝っておかなきゃ……。

 そだ、八鬼のスマホを風呂に放り込まなきゃ!
 横向きの状態からコロンとうつぶせに転がって、起き上がる。

 ――――と。

「わぁ!」

 枕元に赤い靴下が吊るしてあった!
 こんなの初めて見た。
 中に四角のふくらみがある。プレゼントだ!

 漫画でなら見たことあるけど現実にこんなのしてくれる人が居たなんて……!

「八鬼、ひょっとしてこれ僕の!?」
「お前以外に誰がいるんだよ」

 すごいすごい、嬉しい!
 靴下の中からプレゼントボックスを取り出す。

「わあああ……」

 赤いリボンがかかった、それこそ童話にでも出てきそうな箱だった。
 開けるのがもったいない。このまま飾っておきたいぐらいだよ……!

 あ。

「どうした?」
「ぼ、僕、プレゼント用意してない……ごめん……」

 言い訳になるけど、クリスマスにプレゼントなんて一度も貰ったことなかった。だから、頭からすっかり抜け落ちてた。

「いらねえよ。その変わりケーキ焼け」
「そんなことでいいならいくらでも焼くよ」

 随分ケーキにこだわってるんだな。甘いもの嫌いなのにどうしたんだろ。そんなに美味しかったのかな? ちょっと嬉しいぞ。

 そっとリボンを解いて包み紙を開く。

 何が入ってるのかな?
 サイズ的にお菓子かな?
 食べない僕の為に選んでくれたのかも。

 箱を開く――――――。

 中に入っていたのは優しい色をしたカップケーキだった!

 生地は淡い黄色でバニラチョコの層がある。乗ったクリームはイチゴ味かな? それともピーチかな? 綺麗な薄桃色に銀色の小さなボールみたいなお菓子がちりばめられていた。

 ケーキだ! ……あれ? なんだか違う……?

 これ、陶器で出来てる????

 置物……?

 掌に載せると、ぱかっと蓋が開いた。

「あ」



 カップケーキでも陶器の置物でもなかった。
 掌に乗るサイズのそれは、指輪ケースだった。


 柔らかそうなクッションにシンプルな指輪が差し込まれている。


 細いリングで真ん中に青い宝石がはまった指輪だ。







 とても綺麗だけど――――。







「がっかりしてんじゃねーよ」



 八鬼にもわかるぐらいに露骨に肩を落としてしまった。



「僕だって男なんだからアクセサリーを送られても微妙だよ……。それに、これ、本物の宝石だよね」

 八鬼のことだからイミテーションじゃなく本物の宝石に決まってる。
 多分、八鬼の耳にはまってるピアスと同じものだ。

「こんな高いのは貰えない。僕の為に選んでくれたんだろうけど……ほんとにごめん……」

 誕生日に貰った時計も高価な品だったのに、更に宝石なんて受け取れるはずもない。


「あぁ?」

 八鬼がベッドに座った。体重があるからベッドに傾斜が出来て八鬼の方に体が傾いてしまう。

 僕の手から指輪をケースごと奪い、僕の左手を引っ張る。

 そして、左手の薬指に指輪を通した。

「これはただの指輪じゃねーよ。婚約指輪だ」

「えっ。…………――――えええ!?」

 一瞬意味が分からなくて、次の瞬間に理解して大声を出してしまった。

「こ。ここ、こんやく、」

 ひ、左手の薬指って結婚指輪をはめる指だ……!

「余計な虫が付かないように先約」

 頭が空っぽになってしまったみたいに、自分の考えが浮かんでこない。
 八鬼の言葉だけがいっぱいに溢れ返る。

「俺が十八になったら結婚指輪を贈るからな」

 薬指で宝石が光った。
 宝石には触れないからリングを右手の指でたどる。

「八鬼ってほんと物好きだよね。八鬼がいないとご飯も食べられないような面倒な人間に、こんな」

 あはは、と、笑おうとしたのに、

 濁流みたいに制御できない感情が押し寄せ、一気に目から涙が零れ落ちた。

「うぁ……う、うぐ、うぁああ……! ひ、ぐ、ぅ、」
「おい、なんで泣くんだよ。嫌がってんのか喜んでんのかどっちだ?」

「あぐ、あぅ、う……! ひ、う、うれ、じいに、ぎまって、」
 八鬼に抱きついて必死に声を絞り出す。

 でもやっぱり嫌がってるのか喜んでるのかわからない潰れた声になってしまった。
 こんなんじゃ八鬼に伝わらない。
 それよりもまず、可愛くない。
 僕は普段でも可愛くないけど、こんな時ぐらいは愛想よくしたいのに、それすらできない。

 ぎゃあぎゃあ泣き喚いて八鬼に縋りつくことしかできない。
 なのに。

「お前ってほんと可愛いよな」

 呆れたみたいな笑ったみたいな声が聞こえた気がした。



☆☆☆


「じんぐーべー、じんぐべー、じんぐーおざーうべぇー」

 鼻歌を歌いつつスポンジにクリームを塗っていく。

「なんだよその歌」

 八鬼が声を上げて笑った。珍しい。

「聞いてのとおりジングルベルです」
「どう聞いてもジングルベルには聞こえねぇな。英語の発音は正確のくせに、なんでんな変な歌詞になるんだ?」

 誰かと同じことを言われてしまった。

 よし、これで完成……!

「はい、どうぞ!」
「ひでぇ形だな」

 八鬼がまた、くくく、と喉の奥で笑う。

 前回鍾乳洞だったケーキは、当然のように今回も鍾乳洞で完成した。
 どうしてこの形になるのかな? 逆に難しいと思うんだけど。

「味は前と一緒だよ。無理して食べないでいいからね。残ったら薫君達に手伝ってもらうから」

「残ったらな」
「え?」


 当たり前みたいに残ると思っていたんだけど。

 ……八鬼は一人で完食してくれたのだった。




 そして、胸やけに苦しんだのでした。

 ベッドにうつ伏せで横たわる八鬼の隣に正座する。

「やっぱり甘い物苦手だったんだよね? 無理しなくてよかったのに」

「うるせえ」
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