彼女の音が聞こえる (改訂版)

孤独堂

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第九話 スタートライン

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 今日を入れて四日間会わない事がこんなに辛い事とは、元秋は思わなかった。
 きっと奈々も同じ気持ちに違いない。
 安藤の話だと奈々は元秋に一目惚れだと言う。
 ずるい話だけど、それが元秋の気持ちを大きくさせた。彼女との関係が自分次第なんだと。
 そう思いながら元秋は川原へと走った。

 川原に着いた時、いつも奈々がいた場所に一人の女の子が、川の方を見て立っていた。
 川は夕焼けが映り込みオレンジ色に輝いていた。
 「奈々・・・」
 元秋はそう小さく呟きながら、土手を下りて女の子の方に近づいて行く。
 しかし後ろから見たその子はいつものポニーテールではなく、髪を短く切ったショートボブの様に見えた。
 二人の距離が一メートルを切った時、急に女の子が振り向いた。
 「髪切ったの。中学生に戻ったみたい」
 奈々だった。
 「何聞いてるの?」
 元秋が尋ねた。
 奈々は耳に付けていたイヤホンを外した。
 「7!!のスタートライン」
 元秋は知らない曲だった。
 「そう・・・あのね」
 「待って、私先」
 元秋が話し始めたのを遮るようにして、奈々が話し始めた。
 「私に先に話させて」
 「うん」
 元秋は頷いた。
 「四日会ってないだけなのに、随分会ってなかったみたいな感じ。佐野君私の噂とか、何か聞いた?」
 「え」
 「木曜日の佐野君おかしかった」
 「ああ、聞いた。奈々ちゃんの噂、聞いた」
 「やっぱり」
 奈々の言葉に佐野は黙っていた。
 「地元から離れた街に来てもやっぱり噂とか漏れちゃうんだね」
 そう言うと奈々は一度下を向き自分の靴の方を見てから、再び正面を向き、元秋の目を見ながら言い出した。
 「私、佐野君にはちゃんと言おうって、決意したから。ちゃんと説明するから、まず聞いて」
 噂についての話を聞いてから決めてくれという事なのか。
 元秋は少し身震いしながら、奈々の話を受け止め様と黙って奈々の顔をじっと見つめた。

 「ごめんね。遅くなって」
 安藤が笹野舞のいるカラオケボックスの部屋に入って来た。
 待ち合わせしていたのだ。
 「こんにちはー」
 「はじめまして~」
 安藤の後ろから大内と佐藤が顔を出して言った。
 「ごめんね。こいつらどうしても付いて来るって言うもんだから」
 安藤は舞ともう一人いる女の子の方に向かって頭を下げた。
 「いいですよ」
 「大丈夫でーす」
 舞ともう一人の子が言う。
 安藤達は中に入り、ドアを閉めると、女の子達の向かいに座った。
 「本当に佐藤と大内は此処での話は誰にも言うなよ。舞ちゃんと和希ちゃんも絶対内緒でね」
 安藤がそう言うと、そこにいた一同が全員コクリと頷いた。
 「それじゃあ、会議を始めます。先ずは和希ちゃんの紹介。彼女は東女の一年で、奈々ちゃんと同じ中学出身の子です」
 安藤の言葉を受け、和希が話し始めた。
 「安藤さん以外は初めましてかな?和希です。えーと、中学校の時の奈々の噂についてですよね」

 「中三の夏の終わり頃、幼馴染の男の子が交通事故に遭って、両足切断したの」
 「両足!?」
 奈々の話に驚いた元秋は思わず声を出した。
 「そう」
 奈々が言った。


   つづく
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