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第二十五話 やさしい旅 その⑥ ~YES/NO (最終回)
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二人はバスを降りた。
正面の道路の右側に中学校があり、少し行った左側に公園の入り口が見えた。
「あの中学校廃校なの。あそこにアニメの会社が入ったんだよ。ミュージアムとかあるんだって。それでこの道を左に下りていくと公園の芝生があるの。この道真っ直ぐ行くと有名な桜もあるよ」
「へー、こんな所に色々あるんだね」
「うん」
「そう言えば聞くの忘れてたけど、幼稚園で劇やるって言ってたの、どうだった?金曜だったよね。確か」
「うん、大丈夫だった。絶好調。トランペット上手く吹けた」
「へー、そりゃ良かった」
「うん、神様、元秋様のおかげだよ」
「違うよ、自分の力だよ。奈々はもっと自信持った方が良いよ。誰でもない、自分が頑張ったんだ。でも、あのトランペット、奈々の心と連動してたのかな?」
「なんだそりゃ」
奈々は楽しそうに言い、スキップして元秋の前を左に曲がり、ダム公園への道を下って行った。
入り口の方にあった店屋や建物を通り過ぎ、ドンドン下へ向かうと芝生の公園が見え、その先に大きな貯水池が見えた。
「大きいなぁ、まるで湖みたいだ」
思わず元秋が声をあげた。
「でしょ。ちょっと良いでしょ」
そう言うと奈々は池の五メートル程手前で立ち止まり、トートバックからレジャーシートを出して、敷き始めた。
「用意いいね」
「だって楽しみにしてたもん、今日。曇ってるけど雨降らないといいな」
「大丈夫だよ。きっと」
そう言うと元秋は奈々の敷いたレジャーシートの上に腰を下ろした。
奈々は使い捨てのフードパックに入れて持って来たサンドイッチを出した後、小走りに坂を駆け上がり近くの自動販売機で飲み物を二本買って戻って来た。
「ホントにサンドイッチ作って来たんだ」
「へへへへ」
「こういうの初めてだ。楽しいね」
「うん。下の方まで来る人あんまりいないし、見た感じ、私達の貸切だよ」
「いいね。二人でゆっくり出来る」
「さあどうぞ。食べてみて下さい」
奈々はそう言ってフードパックの蓋を開けた。
「いただきまーす」
奈々は美味しそうに食べる元秋の顔をニコニコして見ていた。
「夢見たい」
「美味しい。夢じゃないよ」
サンドイッチを一つ食べ終わり、飲み物を一口飲んで、元秋が口を開いた。
「あのさ、俺も川原で奈々に会った時、本当は一目惚れしてたんだ。でも、好きになってフラれると嫌だから、黙ってた。俺の秘密。ズルイね」
「知ってたよ」
奈々がニヤリと笑って言った。
「知ってた?」
「うん。様子が可笑しかった日の元秋君、私の事なんとも思ってなかったら、あんな態度とらないでしょ。それに後ろから抱きついた時、元秋君の心臓、ドキドキドキドキ、凄く速く動いてた」
「知ってたのかぁ」
「二人とも一目惚れして、相性が合って、そして付き合ってるんだよ。何か嬉しくならない?」
奈々は目を輝かせて言った。
三十分程して二人は食事を終えると、レジャーシートの上に座り、池の方を眺めていた。
「静かでいいね」
奈々が言った。
「ああ。ところでさ、抱き付いて来た時、奈々の心臓も凄い速く動いてたんだよ」
「知ってる。元秋君にも聞こえてるだろうなって、恥ずかしかった」
「今もドキドキしてる?」
「元秋君といる時はいつもドキドキしてるよ」
「聞いてもいい?変な事しないから」
「えっち」
元秋は横に座る奈々の胸の少し上辺りに耳をあてた。
ドクドクドクドク・・・
奈々の速い鼓動が聞こえた。
「ホントだ、今も速い」
奈々は顔を赤くして恥ずかしそうな表情をしていた。
「恥ずかしい?」
元秋が聞く。
「もう、恥ずかしいよ。今度は元秋君の聞かせて」
「え、俺の?」
「うん」
そう言うと奈々は元秋の胸に耳をあてた。
「どお?速い?」
元秋が聞く。
「うん、速い。ドクドク言ってる。まだ私にときめいているんだね。付き合い初めだから、二人共こんなにドキドキしてるのかな」
「どうだろう。でも時間が経てば経ったで、情とかまた違う絆が出来るんじゃないかな」
「いつまでも、ドキドキしていたいな。してて貰いたいな」
奈々は嬉しそうに言いながら、頭を胸から下へ下げて行き、元秋の膝の上に頭を降ろした。
「あ、気持ちいい」
「膝枕!ズルい」
奈々は元秋の膝を膝枕にして、少し体を丸めた。
猫みたいだ。と、元秋は思った。
「少しこのままでいさせて」
「しょうがねえな」
元秋は正面の池を眺めながら言った。
「あのね、元秋君。死なないでね。何処にも行かないでね」
膝枕で目を閉じたまま奈々が言った。
「何処にも行けないよ。これじゃ」
そう言いながら元秋は奈々の髪を撫でた。
ポツ ポツ ポツ
雨がポツポツと降って来た。
「奈々、雨」
元秋が言う。
「もう少し」
膝枕で丸くなったままの奈々が言う。
雨粒が元秋の頭や肩に当たる。
奈々の髪や頬、服や足にポツポツと当たる。
「ああ、気持ちいい」
奈々が呟いた。
おわり
ザーザーザー
「雨酷くなって来たぞ。いつまで横向いて寝てるんだ?」
「こっちの顔だけ見ていてください」
「ん?」
「だって元秋君、昔の富田靖子に似てるって言ったからレンタルで借りて見たんだよ~。こういう台詞あったでしょ?」
「それ違う映画だよ。俺言ったの『アイコ16歳』っての」
「え・・・・」
※オマケ
出来れば最後の番外編まで読んで頂けると嬉しいです。
ショートボブにした時の奈々、描いてみました。(笑)
「また会おうね♪」
正面の道路の右側に中学校があり、少し行った左側に公園の入り口が見えた。
「あの中学校廃校なの。あそこにアニメの会社が入ったんだよ。ミュージアムとかあるんだって。それでこの道を左に下りていくと公園の芝生があるの。この道真っ直ぐ行くと有名な桜もあるよ」
「へー、こんな所に色々あるんだね」
「うん」
「そう言えば聞くの忘れてたけど、幼稚園で劇やるって言ってたの、どうだった?金曜だったよね。確か」
「うん、大丈夫だった。絶好調。トランペット上手く吹けた」
「へー、そりゃ良かった」
「うん、神様、元秋様のおかげだよ」
「違うよ、自分の力だよ。奈々はもっと自信持った方が良いよ。誰でもない、自分が頑張ったんだ。でも、あのトランペット、奈々の心と連動してたのかな?」
「なんだそりゃ」
奈々は楽しそうに言い、スキップして元秋の前を左に曲がり、ダム公園への道を下って行った。
入り口の方にあった店屋や建物を通り過ぎ、ドンドン下へ向かうと芝生の公園が見え、その先に大きな貯水池が見えた。
「大きいなぁ、まるで湖みたいだ」
思わず元秋が声をあげた。
「でしょ。ちょっと良いでしょ」
そう言うと奈々は池の五メートル程手前で立ち止まり、トートバックからレジャーシートを出して、敷き始めた。
「用意いいね」
「だって楽しみにしてたもん、今日。曇ってるけど雨降らないといいな」
「大丈夫だよ。きっと」
そう言うと元秋は奈々の敷いたレジャーシートの上に腰を下ろした。
奈々は使い捨てのフードパックに入れて持って来たサンドイッチを出した後、小走りに坂を駆け上がり近くの自動販売機で飲み物を二本買って戻って来た。
「ホントにサンドイッチ作って来たんだ」
「へへへへ」
「こういうの初めてだ。楽しいね」
「うん。下の方まで来る人あんまりいないし、見た感じ、私達の貸切だよ」
「いいね。二人でゆっくり出来る」
「さあどうぞ。食べてみて下さい」
奈々はそう言ってフードパックの蓋を開けた。
「いただきまーす」
奈々は美味しそうに食べる元秋の顔をニコニコして見ていた。
「夢見たい」
「美味しい。夢じゃないよ」
サンドイッチを一つ食べ終わり、飲み物を一口飲んで、元秋が口を開いた。
「あのさ、俺も川原で奈々に会った時、本当は一目惚れしてたんだ。でも、好きになってフラれると嫌だから、黙ってた。俺の秘密。ズルイね」
「知ってたよ」
奈々がニヤリと笑って言った。
「知ってた?」
「うん。様子が可笑しかった日の元秋君、私の事なんとも思ってなかったら、あんな態度とらないでしょ。それに後ろから抱きついた時、元秋君の心臓、ドキドキドキドキ、凄く速く動いてた」
「知ってたのかぁ」
「二人とも一目惚れして、相性が合って、そして付き合ってるんだよ。何か嬉しくならない?」
奈々は目を輝かせて言った。
三十分程して二人は食事を終えると、レジャーシートの上に座り、池の方を眺めていた。
「静かでいいね」
奈々が言った。
「ああ。ところでさ、抱き付いて来た時、奈々の心臓も凄い速く動いてたんだよ」
「知ってる。元秋君にも聞こえてるだろうなって、恥ずかしかった」
「今もドキドキしてる?」
「元秋君といる時はいつもドキドキしてるよ」
「聞いてもいい?変な事しないから」
「えっち」
元秋は横に座る奈々の胸の少し上辺りに耳をあてた。
ドクドクドクドク・・・
奈々の速い鼓動が聞こえた。
「ホントだ、今も速い」
奈々は顔を赤くして恥ずかしそうな表情をしていた。
「恥ずかしい?」
元秋が聞く。
「もう、恥ずかしいよ。今度は元秋君の聞かせて」
「え、俺の?」
「うん」
そう言うと奈々は元秋の胸に耳をあてた。
「どお?速い?」
元秋が聞く。
「うん、速い。ドクドク言ってる。まだ私にときめいているんだね。付き合い初めだから、二人共こんなにドキドキしてるのかな」
「どうだろう。でも時間が経てば経ったで、情とかまた違う絆が出来るんじゃないかな」
「いつまでも、ドキドキしていたいな。してて貰いたいな」
奈々は嬉しそうに言いながら、頭を胸から下へ下げて行き、元秋の膝の上に頭を降ろした。
「あ、気持ちいい」
「膝枕!ズルい」
奈々は元秋の膝を膝枕にして、少し体を丸めた。
猫みたいだ。と、元秋は思った。
「少しこのままでいさせて」
「しょうがねえな」
元秋は正面の池を眺めながら言った。
「あのね、元秋君。死なないでね。何処にも行かないでね」
膝枕で目を閉じたまま奈々が言った。
「何処にも行けないよ。これじゃ」
そう言いながら元秋は奈々の髪を撫でた。
ポツ ポツ ポツ
雨がポツポツと降って来た。
「奈々、雨」
元秋が言う。
「もう少し」
膝枕で丸くなったままの奈々が言う。
雨粒が元秋の頭や肩に当たる。
奈々の髪や頬、服や足にポツポツと当たる。
「ああ、気持ちいい」
奈々が呟いた。
おわり
ザーザーザー
「雨酷くなって来たぞ。いつまで横向いて寝てるんだ?」
「こっちの顔だけ見ていてください」
「ん?」
「だって元秋君、昔の富田靖子に似てるって言ったからレンタルで借りて見たんだよ~。こういう台詞あったでしょ?」
「それ違う映画だよ。俺言ったの『アイコ16歳』っての」
「え・・・・」
※オマケ
出来れば最後の番外編まで読んで頂けると嬉しいです。
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「また会おうね♪」
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