未成熟なセカイ 

孤独堂

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第一部 未成熟な想い (小学生編)

第22話

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 水口の席から自分の席へと戻って来た美紗子は、音もなく椅子を引くと、そこに座った。
 それから机の上に置きっ放しになっていたランドセルの蓋を開けると、教科書やノート、文房具類を机の中に移し始めた。
 幸一はその間ずっと、横を見て眺めていた。
 美紗子は幸一の視線を感じつつも、決して今日は、そちらを見ようとはしなかった。
 だから幸一は、ちょっとした違和感を感じ始めていた。
 一通り机の中に移し終わると、美紗子は空になったランドセルを持って立ち、教室の後ろの棚の方に向かった。ランドセルを自分の置き場に置いて来る為だ。
 幸一は椅子に座りながら、後ろを振り返り、そんな美紗子の後姿を追った。
 普段なら、学校に来ると直ぐに、昨日の夜にでも読んだ何かしらの本の話を、とにかく話したくて、周りの目も気にせず嬉しそうに幸一の方を向いて話す美紗子が、今日はいなかった。
 そしていつもその事で冷やかされるのが嫌だった幸一にとっては、今日の様な朝は本来嬉しい筈なのだけれど、何故か妙に胸がざわつき、変な違和感しか感じられなかった。
 

 ランドセルを棚に置き、振り向いた美紗子は一瞬後ろを見ていた幸一と目が合った。

(マズい!)

 慌てて美紗子は誰かを探す様に周りをキョロキョロ見渡して、近くに仲の良い悠那と数人の友達を見つけると、直ぐにその輪の方へと向かって行った。
 もう直ぐチャイムが鳴り、クラスの朝の朝礼が終ると、一時限目が始まる。
 美紗子は初日からさっき決めた事を破って、幸一と話す訳にはいかなかった。


 結局その日は、美紗子は一言も幸一とは話さなかった。
 幸一も妙な違和感の中に、自分から美紗子に話し掛ける事も出来ず、放課後図書室で会えばいい。その時に本を返そう。などと考えていた。
 しかし、何時まで待ってもその日、美紗子は来なかった。
 諦めて図書室を出て、階段を降りて、昇降口へと向かう。

(昨日図書室から突然出て行った後に、何かあったのだろうか? 突然僕を無視する様な理由。僕と美紗ちゃんとの事で、誰かに何か意地悪でもされたのかな? 冷やかし、それとも虐め? ああ、どうしよう。この本も返したいし。もし、誰かに何かを言われて、それで僕を避けているのならば、僕からも話したり近付いたりしない方がいいんだよな。んー)

 そんな事を考えながら昇降口に着いた幸一は、下駄箱から自分の靴を出して履き替えると、学校を一人後にした。


 そして次の日、ちょっとした事件がクラスで起こった。




       つづく
 

 
 
 
 
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