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第一部 未成熟な想い (小学生編)
第31話
しおりを挟む「黙ってて」
美紗子は紙夜里の顔を真剣な目で見ながらそう言った。
「私は一人で図書室に居たの。幸一君は居なかった。そういう事にしておいて」
「分った。美紗ちゃんがそう言うなら」
美紗子の瞳に引き込まれる様に、見惚れながら紙夜里は答える。
「それから…」
そこまで言って美紗子は伏せ目がちになって、言葉を切った。
「それから?」
俯いて目線の外れた美紗子の瞳を追う様に、紙夜里は少し美紗子の顔を覗き見る様にしながら尋ねた。
言い辛い話なのか、はたまた上手く伝えられない話なのか、美紗子は暫くそのまま黙っていた。
「何でも言って」
暫くして業を煮やした紙夜里が美紗子の耳元で囁く。
それに思わずピクンッ! と反応した美紗子は、考え込んでいた表情から一瞬普通の顔に戻った。
そして紙夜里の顔をまじまじと眺めると、意を決した様に話し始めた。
「あれから私、幸一君と話していないの。放課後の図書室にも行ってない。避けてるの。でも、幸一君は私が何故避けているのかは知らない。きっと、どうしたんだろう? 何があったんだろう? って思っている筈。だから…」
「うん」
紙夜里は状況を理解している事を表すかの様に頷いた。
それを受けて、美紗子は半ば諦めた様な声で続けた。
「だから、私の代わりに幸一君に伝えて欲しいの。どうして避けているのか。その訳を」
例えばこの状況が、美紗子と紙夜里で逆だったら、美紗子は思い悩み、直ぐには答えられないだろう。だから半ば諦めた口調で言ったのだが、紙夜里からの答えは、美紗子にとっては意外なものだった。
「いいよ」
紙夜里は微笑みながら簡単に即答した。
「いいよ。それで美紗ちゃんの気持ちが少しでも落ち着くなら。大丈夫。やってみる」
「ありがとう!」
あまりの嬉しさに美紗子は紙夜里の両手を掴み、嬉しそうにそう言った。
「本当にありがとう。紙夜里ちゃんはまるで私のダイアナね」
「ダイアナ?」
突然美紗子の口から出た横文字の名前に紙夜里は首を傾げた。
「ああ、『赤毛のアン』に出てくる主人公アンの大親友の事」
そんな紙夜里に美紗子は微笑みながら答えた。
「大親友かぁ。アンはなんとなく知っているけど、私その本は読んでなかったや、今度読んでみよう。流石美紗ちゃんね。その、幸一君も本が好きなんでしょ?」
「うん。私より色々知ってるよ」
幸一の話題に目をキラキラさせ、更に嬉しそうに話す美紗子。
「美紗ちゃんの中では、幸一君が今は一番なんだね。ちょっと羨ましい」
嬉しそうな美紗子の顔を微笑みながら見つめ、掴まれていた両手にギュッと力を入れながら紙夜里は言った。
「そんな。幸一君は男子だよ。紙夜里ちゃんとは違うよ。一番の友達はやっぱり紙夜里ちゃんだよ」
「本当! 嬉しい! じゃあさ、そろそろ授業始まるから教室の方に戻ろう。それから、お昼休みにまた此処で会おうよ。幸一君にどう説明するか。打ち合わせしなくちゃ」
「うん!」
紙夜里の言葉に美紗子は元気に頷くと、二人は片方の手を繋いだまま、階段を並んで降り始めた。
つづく
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