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第一部 未成熟な想い (小学生編)
第37話
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昼休み終了間際、それまで笑顔だった顔を引き締めて、美紗子はなるべく無表情を装って自分の教室へと入って行った。
するとそれまで話していた女子のグループの一つが話すのを止めて、入って来た美紗子の方を目で追った。
周りの他の人達はいつも通り友達と話をしたりしているので、そんな異変には気付かず、美紗子は黙ったまま自分の席へと向かった。
自分の席に座っていた水口も、美紗子が戻って来たのに気付いて目で追い始める。
そして回想。
「だからね。教科書を忘れて、二組の友達に借りたんだって。それを返しに来ないって二組のみっちゃんが放課後怒鳴り込んで来て。あ、借りたのはその子じゃないから。みっちゃんは貸した子の友達。実際貸した子はなんて言ったっけ? あの、その」
「橋本さん。橋本紙夜里さん」
水口を補足する様に松本が言った。
「そうだったそうだった。あんまりみっちゃんがムカついたから、そっちしか覚えてなかった」
昼休み、美紗子が紙夜里に会う為に教室を出た後、根本が数人の女子を連れて水口の机の前に現れた。その中には現在保健室で休んでいる斉藤和希を除いた、放課後に居合わせた残りの二人、中嶋美智子と松本理香もいた。
そして根本は多勢に無勢のこの状態で、再度水口に説明を求めたのだった。
水口も中嶋と松本もいる以上、説明しない訳にはいかなくなっていた。
「それで私と松本さんと中嶋さん、それから今保健室で休んでいる斉藤さんが、美紗子を探しに行ったんだけど。直ぐに靴がある事は分って。じゃあ学校の何処かでしょうって更に探したんだけど、全く見つからなくって」
ここで水口は一呼吸置いて、机の前に並んで立っている数人の女子の顔を、順番に眺めた。
皆んなは黙っていた。黙って水口の次の言葉を待っていた。
「結局美紗子は見つからなかったんだけどね。後からヒョコッと教室に戻って来て、『図書室に居たけど、頭が痛くなって、保健室に行って休んでた』って言うの。でも、さっき私が保健室に斉藤さんを連れて行った時の先生の感じだと、美紗子は保健室には行っていない。だから三時限目後の休み時間にその事を美紗子に問い詰めたの。けれどもあの子は、『保健室にいた』の一点張りだった」
「それで? それでそれを信じるの?」
水口の話に根本が噛み付く様に尋ねた。
水口はその質問に呆れた様な顔をして根本を眺めた。
「はあ? 何を言ってるの? 信じるも信じないもないじゃない。私はもうこの話には関らないの。興味もないし、関りたくもない。だから信じるも信じないもないの。さっきも根本さんに言ったでしょ。私は説明を求められたから答えただけ。確証のない事を私は言いたくない。兎に角それだけの話で、教科書も返したらしいし、もう終った話なの」
「男子と何処かで会ってて、それで出て来れなかったとかは?」
根本が連れて来た無関係な女子の一人が言った。
「ああ、ありそう。それってやっぱり山崎君かな~」
「だとしたらちょっと酷いよね」
「なんか男好きみたーい」
「ねーねー」
水口の机の前で、思い思いに想像して盛り上がって話し出す根本の連れて来た中嶋以外の女子達。
中嶋だけは黙って話を聞いていた。
「ちょっと!」
突然水口は睨んだ顔で叫んだ。
「そういう話は他所でしてくれない。私は関係ないんだから。美紗子にも、あんた達にも、関りたくないんだから」
昼休みを終えて教室に戻って来た美紗子は、相変わらず隣の席の幸一の方を一度も見ずに、真正面だけを見て、無表情のまま席に着いた。
それを見届けると、水口も美紗子から目線を前に戻した。
もう直ぐ五時限目が始まろうとしていた。
つづく
するとそれまで話していた女子のグループの一つが話すのを止めて、入って来た美紗子の方を目で追った。
周りの他の人達はいつも通り友達と話をしたりしているので、そんな異変には気付かず、美紗子は黙ったまま自分の席へと向かった。
自分の席に座っていた水口も、美紗子が戻って来たのに気付いて目で追い始める。
そして回想。
「だからね。教科書を忘れて、二組の友達に借りたんだって。それを返しに来ないって二組のみっちゃんが放課後怒鳴り込んで来て。あ、借りたのはその子じゃないから。みっちゃんは貸した子の友達。実際貸した子はなんて言ったっけ? あの、その」
「橋本さん。橋本紙夜里さん」
水口を補足する様に松本が言った。
「そうだったそうだった。あんまりみっちゃんがムカついたから、そっちしか覚えてなかった」
昼休み、美紗子が紙夜里に会う為に教室を出た後、根本が数人の女子を連れて水口の机の前に現れた。その中には現在保健室で休んでいる斉藤和希を除いた、放課後に居合わせた残りの二人、中嶋美智子と松本理香もいた。
そして根本は多勢に無勢のこの状態で、再度水口に説明を求めたのだった。
水口も中嶋と松本もいる以上、説明しない訳にはいかなくなっていた。
「それで私と松本さんと中嶋さん、それから今保健室で休んでいる斉藤さんが、美紗子を探しに行ったんだけど。直ぐに靴がある事は分って。じゃあ学校の何処かでしょうって更に探したんだけど、全く見つからなくって」
ここで水口は一呼吸置いて、机の前に並んで立っている数人の女子の顔を、順番に眺めた。
皆んなは黙っていた。黙って水口の次の言葉を待っていた。
「結局美紗子は見つからなかったんだけどね。後からヒョコッと教室に戻って来て、『図書室に居たけど、頭が痛くなって、保健室に行って休んでた』って言うの。でも、さっき私が保健室に斉藤さんを連れて行った時の先生の感じだと、美紗子は保健室には行っていない。だから三時限目後の休み時間にその事を美紗子に問い詰めたの。けれどもあの子は、『保健室にいた』の一点張りだった」
「それで? それでそれを信じるの?」
水口の話に根本が噛み付く様に尋ねた。
水口はその質問に呆れた様な顔をして根本を眺めた。
「はあ? 何を言ってるの? 信じるも信じないもないじゃない。私はもうこの話には関らないの。興味もないし、関りたくもない。だから信じるも信じないもないの。さっきも根本さんに言ったでしょ。私は説明を求められたから答えただけ。確証のない事を私は言いたくない。兎に角それだけの話で、教科書も返したらしいし、もう終った話なの」
「男子と何処かで会ってて、それで出て来れなかったとかは?」
根本が連れて来た無関係な女子の一人が言った。
「ああ、ありそう。それってやっぱり山崎君かな~」
「だとしたらちょっと酷いよね」
「なんか男好きみたーい」
「ねーねー」
水口の机の前で、思い思いに想像して盛り上がって話し出す根本の連れて来た中嶋以外の女子達。
中嶋だけは黙って話を聞いていた。
「ちょっと!」
突然水口は睨んだ顔で叫んだ。
「そういう話は他所でしてくれない。私は関係ないんだから。美紗子にも、あんた達にも、関りたくないんだから」
昼休みを終えて教室に戻って来た美紗子は、相変わらず隣の席の幸一の方を一度も見ずに、真正面だけを見て、無表情のまま席に着いた。
それを見届けると、水口も美紗子から目線を前に戻した。
もう直ぐ五時限目が始まろうとしていた。
つづく
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