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第一部 未成熟な想い (小学生編)
第40話
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五年の男子トイレに入ると、幸一は直ぐに周りを確認した。
小便器の列の真ん中に男子が一人いた。
それを見て幸一は、少し恥ずかしかったが大の方の個室へと向かい入った。
三つあるうちの一番端の窓側だ。
ドアを閉めて、握っていた手を開く。
掌の上では、クシャクシャになった二つ折りの紙が、圧力から開放されて少しだけ広がる様に動いた。
ガサガサ
紙の擦れる音を少しだけ響かせ、幸一は紙を開いた。
-今日の放課後、図書室の奥のテーブルで待っていますー
橋本 紙夜里
紙に書かれていたのはそれだけだった。
しかし幸一はその一文から重要な事を知る事が出来た。
(待ち合わせ場所が奥くのテーブルって事は、美紗ちゃんがあの子にあの場所の事を話したに違いない。だとしたらこれは、美紗ちゃん本人から頼まれた事なのか?)
幸一は最近の美紗子の不穏な態度に疑問を感じていたし、昼休みの太一の事も。
(全ての疑問が解ける…)
幸一は紙夜里の指定通りに従おうと思った。
全ての授業が終わり、放課後になると、美紗子は相変わらず幸一の方を見る事もなく、そそくさと帰り支度をして、教室を後にした。
幸一はゆっくりと帰り支度をして、美紗子が帰るのを待っていた。
そして美紗子が教室から出て行くのを見ると、急いでランドセルを背負い、手提げバッグを持つと立ち上がり、同じく教室から出て行き、図書室を目指した。
図書室へと向かう道すがら幸一は、もしかしたらそこに美紗子もいるかも知れない。さっきの子は二人をこっそり会わせる為に先程の紙をよこしたのかも知れない。等と考えては、直ぐにその考えを打ち捨てた。
もし同じ所へ向かっているのであれば見える筈である美紗子の後姿が、幾ら廊下を歩いても、決して遥か先を見渡しても、見えなかったからだ。
(やはりあの子だけなのかな?)
ほとんど知らない女の子とこれから図書室で二人きりで会う。
より現実味のあるこちらのパターンを考えた時、幸一は少し緊張を覚えた。
美紗子とは実際良く話をしていたが、他の女子とはそれ程深く話をしてはいなかったからだ。
そもそも本来は男子とドッヂボールやサッカーをしている方が、今の幸一にはまだ楽しかったのだ。女子を見て可愛いと思う気持ちはあっても、例えば美紗子との場合、話していてとにかく楽しくて、見ていて確かに可愛かったけれど、恋愛感情というものが湧く事はまだなかった。ただ、仲の良い友達として優しくしてあげたかっただけだった。
だから馴れていない他の女子とこれからわざわざ会って話すというのは、考えると相当面倒で、緊張する事だった。
そんな事を考えながら歩いていると、幸一は図書室の前に着いた。
図書室の入り口の引き戸の前には、紙夜里に頼まれたのか、みっちゃんが壁にもたれながら立っていた。
「君は、入らないの?」
先程紙夜里と一緒にいた子だと直ぐに気付いた幸一は、話しかけた。
「此処で待っていてと言われた」
如何にも不満そうに仏頂面をして、みっちゃんは答えた。
「そう」
何と言えば良いのか分らず幸一はそれだけを言う。
「いいから。紙夜里が待ってる。早く入って」
みっちゃんのその言葉に幸一は今度は無言で頷き、そして図書室の引き戸を引いた。
つづく
小便器の列の真ん中に男子が一人いた。
それを見て幸一は、少し恥ずかしかったが大の方の個室へと向かい入った。
三つあるうちの一番端の窓側だ。
ドアを閉めて、握っていた手を開く。
掌の上では、クシャクシャになった二つ折りの紙が、圧力から開放されて少しだけ広がる様に動いた。
ガサガサ
紙の擦れる音を少しだけ響かせ、幸一は紙を開いた。
-今日の放課後、図書室の奥のテーブルで待っていますー
橋本 紙夜里
紙に書かれていたのはそれだけだった。
しかし幸一はその一文から重要な事を知る事が出来た。
(待ち合わせ場所が奥くのテーブルって事は、美紗ちゃんがあの子にあの場所の事を話したに違いない。だとしたらこれは、美紗ちゃん本人から頼まれた事なのか?)
幸一は最近の美紗子の不穏な態度に疑問を感じていたし、昼休みの太一の事も。
(全ての疑問が解ける…)
幸一は紙夜里の指定通りに従おうと思った。
全ての授業が終わり、放課後になると、美紗子は相変わらず幸一の方を見る事もなく、そそくさと帰り支度をして、教室を後にした。
幸一はゆっくりと帰り支度をして、美紗子が帰るのを待っていた。
そして美紗子が教室から出て行くのを見ると、急いでランドセルを背負い、手提げバッグを持つと立ち上がり、同じく教室から出て行き、図書室を目指した。
図書室へと向かう道すがら幸一は、もしかしたらそこに美紗子もいるかも知れない。さっきの子は二人をこっそり会わせる為に先程の紙をよこしたのかも知れない。等と考えては、直ぐにその考えを打ち捨てた。
もし同じ所へ向かっているのであれば見える筈である美紗子の後姿が、幾ら廊下を歩いても、決して遥か先を見渡しても、見えなかったからだ。
(やはりあの子だけなのかな?)
ほとんど知らない女の子とこれから図書室で二人きりで会う。
より現実味のあるこちらのパターンを考えた時、幸一は少し緊張を覚えた。
美紗子とは実際良く話をしていたが、他の女子とはそれ程深く話をしてはいなかったからだ。
そもそも本来は男子とドッヂボールやサッカーをしている方が、今の幸一にはまだ楽しかったのだ。女子を見て可愛いと思う気持ちはあっても、例えば美紗子との場合、話していてとにかく楽しくて、見ていて確かに可愛かったけれど、恋愛感情というものが湧く事はまだなかった。ただ、仲の良い友達として優しくしてあげたかっただけだった。
だから馴れていない他の女子とこれからわざわざ会って話すというのは、考えると相当面倒で、緊張する事だった。
そんな事を考えながら歩いていると、幸一は図書室の前に着いた。
図書室の入り口の引き戸の前には、紙夜里に頼まれたのか、みっちゃんが壁にもたれながら立っていた。
「君は、入らないの?」
先程紙夜里と一緒にいた子だと直ぐに気付いた幸一は、話しかけた。
「此処で待っていてと言われた」
如何にも不満そうに仏頂面をして、みっちゃんは答えた。
「そう」
何と言えば良いのか分らず幸一はそれだけを言う。
「いいから。紙夜里が待ってる。早く入って」
みっちゃんのその言葉に幸一は今度は無言で頷き、そして図書室の引き戸を引いた。
つづく
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