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第一部 未成熟な想い (小学生編)
第42話
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「どれからって、そんなに話す事あるの?」
幸一は紙夜里の言葉に少し面倒臭そうに尋ねた。
「面倒臭い? 実は上手く話せないと思って、授業中、紙に書いてた」
そう言うと紙夜里は、授業中ノートに書いていた部分を破いて、四つ折りにしたのをスカートのポケットから取り出した。
「そんな事ないよ。面倒だなんて」
幸一は紙夜里の言葉に思わずギクリとした。
「ふふ、図星みたい」
逆にそんな幸一の様子を見て、紙夜里は自分の見立てが当たっていたと満足気に微笑む。
「まいったな~」
幸一は椅子の背もたれに背中を付けて、少し反る様にして、頭を掻きながらそう言うしかなかった。
「いいの。私も面倒だろうなと思うから。男の子が訳も分らず呼び出されて、これから私が美紗ちゃんの代わりに話す事を聞かなきゃいけない。幸一…君の立場で考えれば、美紗ちゃんの事をよっぽど好きじゃなきゃ、やっていられない事よね」
「そんな事…」
美紗子の事を周りから好きだと思われる事にはもううんざりしていた幸一は、つい紙夜里の言葉にも反応した。
「そうなの? なら良かった」
それには紙夜里は、本当に嬉しそうに一瞬笑った。
それから目線を、開いた手紙の方に向ける。
「私、人と話すの苦手なの。特に男の子は。名前呼ぶのも、思わずさっきも躊躇っちゃったけど、意識し過ぎなのかも知れないけど、駄目なの。そういう理由もあるの。紙に書いてきたのは」
「うん」
幸一は自分の方を向かず、手紙に視線を落としたまま話す紙夜里の横顔に、素直に頷いた。
「じゃあ読むね」
そう言ってから一瞬の静寂があった。緊張しているのか、暫くの間があって紙夜里は手紙を読み始めた。
「最初に、二日前に起こった事。美紗ちゃんは、私から音楽の教科書を借りて、それを返すのを忘れて図書室で過ごしていた。その間に私達が美紗ちゃんを探していた事で、四組の女子の数人も美紗ちゃんを探し始めた。私達は昇降口に靴があるのを知っていたから、学校の何処かには居るはずだと思って探していた。そして探すのを諦めた頃、美紗ちゃんはひょっこりと現れた。それも図書室に居たけど頭が痛くなったから保健室に行っていたと言う嘘を付いて。でも本当はあなたと、幸一君と居た。そこで問題。美紗ちゃんはなんでそんな嘘を付いたと思う?」
「えっ?」
突然の想像もしていなかった質問に、幸一は本気で驚いた。
「何? 質問とかあるの?」
咄嗟に答えなど浮かぶ筈もなく、とりあえず話しながら考えようとする幸一。
「あるの。答えて。考えて答えて」
手紙から目線を上げず、冷静に淡々と言う紙夜里。
その姿に真剣さを感じて、幸一は「まいったなぁ」と、苦笑いをするしかなかった。
「分らない? 幸一君が冷やかされるのを嫌がるから。二人で図書室にいた事がクラスの人に分ったら、きっと今まで以上に激しく冷やかされるだろうから。そんな目に幸一君を合わせたくなかったから。だって」
そこまで手紙を見ながら、読み上げる様に言った紙夜里は、そこで初めて顔を上げて幸一の方を向いた。その目は、鋭く憎しみのこもった様な目だった。
そして再び尋ねる。
「何でだと思う? なんで美紗ちゃんは、幸一君が冷やかされない様に、そんな自分がクラスの女子に嫌われるかも知れない様な嘘を付いたんだと思う」
「それは…」
その質問の答えは、何となくは分っていても、口に出す事が出来なかった。
つづく
幸一は紙夜里の言葉に少し面倒臭そうに尋ねた。
「面倒臭い? 実は上手く話せないと思って、授業中、紙に書いてた」
そう言うと紙夜里は、授業中ノートに書いていた部分を破いて、四つ折りにしたのをスカートのポケットから取り出した。
「そんな事ないよ。面倒だなんて」
幸一は紙夜里の言葉に思わずギクリとした。
「ふふ、図星みたい」
逆にそんな幸一の様子を見て、紙夜里は自分の見立てが当たっていたと満足気に微笑む。
「まいったな~」
幸一は椅子の背もたれに背中を付けて、少し反る様にして、頭を掻きながらそう言うしかなかった。
「いいの。私も面倒だろうなと思うから。男の子が訳も分らず呼び出されて、これから私が美紗ちゃんの代わりに話す事を聞かなきゃいけない。幸一…君の立場で考えれば、美紗ちゃんの事をよっぽど好きじゃなきゃ、やっていられない事よね」
「そんな事…」
美紗子の事を周りから好きだと思われる事にはもううんざりしていた幸一は、つい紙夜里の言葉にも反応した。
「そうなの? なら良かった」
それには紙夜里は、本当に嬉しそうに一瞬笑った。
それから目線を、開いた手紙の方に向ける。
「私、人と話すの苦手なの。特に男の子は。名前呼ぶのも、思わずさっきも躊躇っちゃったけど、意識し過ぎなのかも知れないけど、駄目なの。そういう理由もあるの。紙に書いてきたのは」
「うん」
幸一は自分の方を向かず、手紙に視線を落としたまま話す紙夜里の横顔に、素直に頷いた。
「じゃあ読むね」
そう言ってから一瞬の静寂があった。緊張しているのか、暫くの間があって紙夜里は手紙を読み始めた。
「最初に、二日前に起こった事。美紗ちゃんは、私から音楽の教科書を借りて、それを返すのを忘れて図書室で過ごしていた。その間に私達が美紗ちゃんを探していた事で、四組の女子の数人も美紗ちゃんを探し始めた。私達は昇降口に靴があるのを知っていたから、学校の何処かには居るはずだと思って探していた。そして探すのを諦めた頃、美紗ちゃんはひょっこりと現れた。それも図書室に居たけど頭が痛くなったから保健室に行っていたと言う嘘を付いて。でも本当はあなたと、幸一君と居た。そこで問題。美紗ちゃんはなんでそんな嘘を付いたと思う?」
「えっ?」
突然の想像もしていなかった質問に、幸一は本気で驚いた。
「何? 質問とかあるの?」
咄嗟に答えなど浮かぶ筈もなく、とりあえず話しながら考えようとする幸一。
「あるの。答えて。考えて答えて」
手紙から目線を上げず、冷静に淡々と言う紙夜里。
その姿に真剣さを感じて、幸一は「まいったなぁ」と、苦笑いをするしかなかった。
「分らない? 幸一君が冷やかされるのを嫌がるから。二人で図書室にいた事がクラスの人に分ったら、きっと今まで以上に激しく冷やかされるだろうから。そんな目に幸一君を合わせたくなかったから。だって」
そこまで手紙を見ながら、読み上げる様に言った紙夜里は、そこで初めて顔を上げて幸一の方を向いた。その目は、鋭く憎しみのこもった様な目だった。
そして再び尋ねる。
「何でだと思う? なんで美紗ちゃんは、幸一君が冷やかされない様に、そんな自分がクラスの女子に嫌われるかも知れない様な嘘を付いたんだと思う」
「それは…」
その質問の答えは、何となくは分っていても、口に出す事が出来なかった。
つづく
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