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第一部 未成熟な想い (小学生編)
第63話
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「はぁ~」
紙夜里はガッカリした様に力なく溜息を付いた。
それから、ニコニコしているみっちゃんを一瞥すると、口を開いた。
「今日は早速スカート履いて来たんだね。似合ってるよ」
「あ、気付いてくれてた! ありがとう! 紙夜里に言われてさ、急いで家に帰ってから探して見たんだ。そしたらウチに三枚しかなくて、スカート。良かった~似合っていたんなら」
「うん、似合ってる」
喜んで更にご機嫌なみっちゃんを他所に、紙夜里は何処か詰まらなさそうに言った。
「ところでさぁ、まだ時間大丈夫だよね? 屋上のドアの所に行かない?」
教室の前の廊下で立ち話をしていた紙夜里は、みっちゃんの後ろへと続く廊下、その先の階段の方を見ながら、そう言った。
「え、あそこ?」
「そう」
紙夜里の言葉にみっちゃんは一瞬戸惑った。
そこは紙夜里が四組の美紗子と会っていた場所だ。
此処ではなくて、わざわざそこで話をしたいというのは、何か周りに聞かれたくない話に違いなかった。人には言えない内緒の話。そう思うと、みっちゃんの気持ちは重かった。
隠し事は嫌だった。
みっちゃんは、友達の順位付けとか、クラス内の自分の順位とか、そんな事は結構気にしていたけれど、裏でコソコソ何かを画策する様な事は嫌いだった。
だから本当は、紙夜里が『美紗子が図書室で男子に会っている』と言った時も、それを言いふらして貰いたがっているのは気付いていたのだが、そうはしなかったのだ。
今度もまた、そんな話じゃないのかと思うと、何とかはぐらかしたい気持ちになった。
しかし、紙夜里は『そう』と言うと、みっちゃんの顔も見ず脇を通り過ぎ、廊下を端の階段の方に向かって既に歩き出していた。
「ちょっと」
仕方なく、嫌々ながらもみっちゃんは後を付いて行った。
廻り階段の踊り場の所を過ぎて、更に上ると、屋上扉のはめ込みの網入りガラスから漏れてくる陽射しが、階段最上段の辺りを照らしていた。
鉄筋コンクリートで閉ざされた空間でも、少しの採光があれば、意外と全体に明るい昼間の空間になるのだなと、閉ざされた空間に初めて上って来たみっちゃんは思った。
「意外に明るいんだね。もっと暗いと思ってた」
「うん。でも行き止まりだから、空気は悪いよ。ちょっと埃っぽい」
階段の上振り向かず、みっちゃんの前を上がりながら、紙夜里は言った。
屋上への扉がある最上階に上ると、紙夜里は扉に背を向ける様に立ち、みっちゃんと向かい合う形をとった。
「最近さぁ、本当に最近、紙夜里、急に変わったよね。前から倉橋さんの事好きだったのは分るけど、こんなにべったりじゃなかったよね。二組で打ち解けて、皆んなと上手くやっていると思っていたんだけどな。私とも」
最初に口を開いたのはみっちゃんの方だった。
嫌な話なら聞きたくないという気持ちと、ここ数日気になっていた事を訊くなら今しかないという思いからだった。
「そのことなの」
それに答える様に、しんみりと、紙夜里は口を開いた。
つづく
紙夜里はガッカリした様に力なく溜息を付いた。
それから、ニコニコしているみっちゃんを一瞥すると、口を開いた。
「今日は早速スカート履いて来たんだね。似合ってるよ」
「あ、気付いてくれてた! ありがとう! 紙夜里に言われてさ、急いで家に帰ってから探して見たんだ。そしたらウチに三枚しかなくて、スカート。良かった~似合っていたんなら」
「うん、似合ってる」
喜んで更にご機嫌なみっちゃんを他所に、紙夜里は何処か詰まらなさそうに言った。
「ところでさぁ、まだ時間大丈夫だよね? 屋上のドアの所に行かない?」
教室の前の廊下で立ち話をしていた紙夜里は、みっちゃんの後ろへと続く廊下、その先の階段の方を見ながら、そう言った。
「え、あそこ?」
「そう」
紙夜里の言葉にみっちゃんは一瞬戸惑った。
そこは紙夜里が四組の美紗子と会っていた場所だ。
此処ではなくて、わざわざそこで話をしたいというのは、何か周りに聞かれたくない話に違いなかった。人には言えない内緒の話。そう思うと、みっちゃんの気持ちは重かった。
隠し事は嫌だった。
みっちゃんは、友達の順位付けとか、クラス内の自分の順位とか、そんな事は結構気にしていたけれど、裏でコソコソ何かを画策する様な事は嫌いだった。
だから本当は、紙夜里が『美紗子が図書室で男子に会っている』と言った時も、それを言いふらして貰いたがっているのは気付いていたのだが、そうはしなかったのだ。
今度もまた、そんな話じゃないのかと思うと、何とかはぐらかしたい気持ちになった。
しかし、紙夜里は『そう』と言うと、みっちゃんの顔も見ず脇を通り過ぎ、廊下を端の階段の方に向かって既に歩き出していた。
「ちょっと」
仕方なく、嫌々ながらもみっちゃんは後を付いて行った。
廻り階段の踊り場の所を過ぎて、更に上ると、屋上扉のはめ込みの網入りガラスから漏れてくる陽射しが、階段最上段の辺りを照らしていた。
鉄筋コンクリートで閉ざされた空間でも、少しの採光があれば、意外と全体に明るい昼間の空間になるのだなと、閉ざされた空間に初めて上って来たみっちゃんは思った。
「意外に明るいんだね。もっと暗いと思ってた」
「うん。でも行き止まりだから、空気は悪いよ。ちょっと埃っぽい」
階段の上振り向かず、みっちゃんの前を上がりながら、紙夜里は言った。
屋上への扉がある最上階に上ると、紙夜里は扉に背を向ける様に立ち、みっちゃんと向かい合う形をとった。
「最近さぁ、本当に最近、紙夜里、急に変わったよね。前から倉橋さんの事好きだったのは分るけど、こんなにべったりじゃなかったよね。二組で打ち解けて、皆んなと上手くやっていると思っていたんだけどな。私とも」
最初に口を開いたのはみっちゃんの方だった。
嫌な話なら聞きたくないという気持ちと、ここ数日気になっていた事を訊くなら今しかないという思いからだった。
「そのことなの」
それに答える様に、しんみりと、紙夜里は口を開いた。
つづく
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