色のない季節ー早苗、ふたたびー ~彼女の音が聞こえる 1.5 番外編~

孤独堂

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色のない季節ー早苗、ふたたびー(四) ~彼女の音が聞こえる 1.5 番外編~

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    ブーーー
        ブーーーー
 スマホのバイブが机の上で響き続けていた。
 元秋は抱きついて離れない早苗を、力一杯跳ね除けて、急いで机の方へと向かった。
 電話を掛けて来る人は限られている。
 元秋は急いでスマホの画面に大きく映し出された名前を確認した。
 「ひどーい」
 元秋に突き飛ばされた早苗は起き上がり、そう言いながらベッドに腰掛けた。
 「奈々からだ」
 「彼女からの電話?出なければいいじゃん」
 微笑みながらそう言って、早苗は立ち上がり、元秋の方へと歩き出した。
 「黙ってて!」
 「なに?電話に出るつもり?電話なんか出たらバレちゃうよ。お酒も、私も」
 酔ってふらふらした足取りで、元秋の側まで来た早苗は、そう言いながら元秋の肩に手を掛けた。
 「電話には出るよ。一番聞きたい声だ。鈴鳴さん、邪魔するなら出てってくれ」
 「・・・・・」
 そう言われ、早苗は何も言わず、元秋の肩から手を引っ込めた。
   ブーーー
      ブーーーー
 スマホのバイブ音はまだ元秋の手の中で響いていた。
 通話を押し、耳に当てる。
 
 「はい」
 『あ、元秋君。奈々ちゃんだよ~!もしかして寝てた?』
 「ううん。まだ起きてた」
 『なかなか出ないんだもん。心配しちゃった。サプライズの電話でーす。嬉しい?』
 「うん。嬉しいよ」
 『ホント?なんか元秋君、いつもと感じ違うような』
 「え、そんな事ないよ。勉強してて、ちょっと暗い気分なだけだよ」
 『そう?だから声のトーンがいつもと違うのかなぁ』
 「あー、疲れてるからかな」
 『あんまり無理しないでね。私は元秋君がいればいいんだから』
 「奈々」
 元秋は、奈々が何かに気付いているのではないかと思った。
 『私ね、さっきお風呂から上ったの。今はパジャマ』
 「へー」
 『そこで問題です!今私が付けているブラは何色でしょう~』
 「へ?」
 『頑張ってる元秋君へのサプライズクイズで~す。当てて。へへ』
 「奈々、あの・・・俺」
 元秋がそう言った時、後ろから早苗が、元秋の空いている方の手を掴んだ。
 驚いて振り返る元秋。
 ギュッと強く手を握りながら、酔って頬を赤らめたまま、早苗は真剣な顔で元秋を見つめていた。
 「あ、あの」
 言いながら、早苗に背を向ける。
 「白かな?」
 奈々は直感が鋭い。もしかすると部屋に誰かいるのを、感づいているのではないかと、元秋は思った。
 早苗は元秋の手を握ったまま、直ぐ斜め後ろで黙って、静かに電話の声を聞いていた。
 『ぶぶー!ピンクでした~!元秋君想像してみて。ピンクのブラ。可愛いと思う?』
 「あ、ああ。きっと奈々に似合って可愛いと思うよ」
 『ホント?私の事抱きしめた時の感触とか覚えてる?服の上からだけど、胸の感触とか覚えてるかな?柔らかかった?』
 間違いない。奈々は何かに気付いて、自分を奈々の方に引き戻そうとしている。元秋はそう確信した。
 「奈々・・・覚えてるよ。柔らかかった。いい匂いがした」
 『へへへ、有難う。じゃあ、元秋君は奈々ちゃんの事好き?』
 「そりゃあ好きだよ。大好きだよ!」
 『私も元秋君の事大好き。だから、受かっても落ちても、大学生でも専門学校生でも、予備校生でも。近くても遠くても。気持ちは変わらないからね』
 「奈々・・・」

 「馬鹿みたい」
 小声でそう言うと、早苗は元秋の手を離した。そして背中に背を向けて、ベッドの方へと歩き出した。
 ベッド脇に落ちていた紙袋を拾う。
 まだ開けていない缶ビールをその中に入れた。
 そして相変わらずのふらふらした足取りで玄関の方に向かった。
     バタンッ!
 大きな音を立てて、ドアを閉める。

 『なーに?今の音?』
 「ああ、参考書が落ちたんだ。机から」
 『そお』
 本当はその前の早苗の声も聞こえていたのかも知れない。
 しかし、奈々は何も言わなかった。
 「あのさー奈々」
 『なーに?』
 「今奈々を、抱きしめたい」
 『わー。私も抱きしめられたい』

 頬を僅かに赤く染めて、ふらふらと廊下を歩き、早苗は自室に向かっていた。
 「馬鹿みたい」
 立ち止まりそう言って、廊下の壁に手を付き、それから壁に背をもたせ掛けた。
 虚ろな瞳で向かいの壁と天井の境を眺める。
 「でも・・・あーゆー恋、したい」
 少し悔しそうな表情で、そう言った。

 『明日モーニングコールしてあげようか?』
 「え、いいの?」
 『嬉しい?奈々ちゃんの声で起きるの?』
 「そりゃ嬉しいよ!じゃあ、頑張って勉強するよ!」
 『へへへ。じゃあ明日起こしてあげるね!』
 「うん。ちゃんと奈々早起きしてよ」
 『分った。ママに起こして貰える様に頼んどくね』
 「え?」

 その日の夜の元秋の部屋の灯りは、消えなかった。


      おわり
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