彼女の音が聞こえる

孤独堂

文字の大きさ
11 / 25

第十一話 髪型と安藤会議

しおりを挟む
 元秋は奈々の手を取り、川原の土手を上がっていた。
 「電車だろ?駅まで送るよ」
 「え、覚えてたの?」
 奈々は元秋の言葉にビックリしてから喜んで聞いた。
 「覚えてるよ。この前ファミレス、舞ちゃんと安藤と行った時、言ってたじゃない」
 「あ、そっち」
 「そっちって?」
 「何でもない」
 奈々は少し寂しそうに言った。
 「変な、奈々」
 どうしたんだろうといった感じで元秋が言った。
 奈々は何かを思い出した様に言った。
 「ねーねー、この髪型どお?似合う?中学校の時みたいな髪型。今日午後から学校サボって行って来たの。ちゃんと見て。どお、広瀬すずみたい?」
 そう言われて元秋は立ち止まって、奈々の顔を見た。
 「どっちかって言うと、若い頃の富田靖子かな?この前、映画見た」
 そう言うと前を向き、奈々の手を引きながら土手をまた登り始めた。
 「え?知らない」
 奈々は知らなかったので想像出来ず困った声で言った。
 「褒め言葉だよ。可愛いって事だよ」
 元秋は奈々の方を見ず、前を向いたまま言った。
 奈々は途端に笑顔になり、
 「ありがとう!元秋君!」
 と、言った。
 丁度その時川原の土手を登り終えた元秋は奈々の手を離しながら、
 「元秋君?何で急に?佐野君じゃないの?」
 ビックリして聞いた。
 「だって、さっき元秋君、奈々って呼んだよ。だから、元秋君」
 ニヤニヤしながら奈々が言った。
 「ホントに変な事は良く気付くし、記憶力良いんだなぁ。それを一般教養とか勉強に活かせれば」
 元秋は呆れた顔をしてそう言うと、また奈々の手を取り、二人で駅の方へ歩き出した。
 「あれ、自転車は?」
 「へへへ、色々考え込んでて歩いて来ちゃった」
 奈々が照れ笑いしながら言った後、続けてボソッと言った。
 「やっぱり覚えてないかぁ」

 カラオケボックス。
 「奈々ちゃんてさ、あんまり頭良さそうじゃないんだけど、男心を掴むのが上手いっていうか。ワザとなのかな?天然なのかな?他にも気になる事あるし、どっかで会った様な気もするんだよ」
 「えーーー」
 安藤の言葉にそこにいた一同はどよめいた。
 「じゃあ何、奈々ちゃんて子は佐野の事も元々知ってたって事?」
 佐藤が聞いた。
 「そうかも知んない。何処で会ったか覚えてないんだ。佐野がその時いたかどうかも」
 「奈々は計算して何か出来る子じゃないですよ。多分天然だと思います。佐野さんの事は、一目惚れって私に嬉しそうに言ってたし、嘘付いてるとは思えません」
 安藤の話に舞が言った。
 「ん~分らない。結構謎の多い子だな。和希ちゃんさ、その北村颯太さんの事もう少し調べてくれない?クラスは違かったんだっけ?」
 「はい。北村君とも野沢さんとも違うクラスです。今度アルバム持って来ましょうか?」
 和希が言った。
 「そうして」
 安藤が言った。
 「あのさ、安藤、舞ちゃんは分ったけど、こちらの和希ちゃんはどんな関係?お前の」
 大内が申し訳なさそうに安藤に聞いた。
 「和希ちゃん?俺のファンクラブの子」
 「ファンクラブ!?」
 佐藤と大内がビックリして声を上げた。
 「そうですよ。安藤さんこの街では人気あって、ファンクラブあるんですよ」
 和希が言った。
 「言ってなかったっけ?」
 安藤が惚けた顔をして言った。
 「聞いてないよ?お前そんなにモテてたの?じゃあ、舞ちゃんも入ってるの?ファンクラブ」
 「私は入ってないです」
 佐藤の問いにちょっと困った顔をして舞が答えた。
 「とにかく、奈々ちゃんが気になるんだ。佐野が傷付くのは見たくない」
 安藤が言った。
 「お前、そんなにモテてるのに、男にも手を出す気か」
 笑いながら大内が言った。
 「お前らには分らねえよ」
 小さな声で安藤が言った。


     つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

処理中です...