低級精霊も積もれば神となる~最弱の俺がいつの間にか最強パーティの中心です~

遖なリ

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「誰だ!!?」

怒号が森に響いた。

同時に、結界の外で足音が止まる。
剣を抜いた冒険者が一人、その後ろにローブ姿の男――回復術師らしき人物が息を切らして立っていた。

「その結界を解け! そいつは俺たちの仲間だ!」

警戒の視線が俺とヴェント、そしてアクアへ向けられる。

「待ってください!」

アクアが一歩前に出て、必死に声を上げた。

「今、治療中です。解いたら……!」

「治療だと?今ここに来てくださっている方を誰だと…」

冒険者の一人が嘲るように言いかけ――
その言葉が、途中で止まった。

「……な、なんだ、あれは……」

視線の先。
アクアの手元で、淡い水色の光が脈打っている。

水が流れるように、しかし一滴も零れず、
裂けていた傷口を内側から縫い合わせていく。

血はすでに止まり、
皮膚と筋肉が“元あった形”を思い出すように再生していた。

「ば、馬鹿な……」

回復術師が、前のめりになる。

「……これは……回復魔法?」

信じられない、という顔だった。

「水、属性……?」

震える声。

「回復魔法は聖属性だ。例外はない。
 水属性は補助、せいぜい傷の悪化を防ぐまでだ……!」

一歩、また一歩と近づき、
食い入るようにその魔法を見つめる。

「なのに……再生している。
 しかも、魔力の流れに一切の無駄がない……」

息を呑み、はっきりと言い切った。

「……洗練されすぎている。
 王都の大神殿でも、ここまで“綺麗な回復”は見たことがない」

周囲が、静まり返る。

冒険者の顔から、敵意が消え、
代わりに困惑と畏怖が浮かんでいた。

「……助かる、のか?」

仲間の冒険者が、かすれた声で尋ねる。

「は、はい。安定してきましたから…大丈夫…です」

「よ、よかった…よかった…」

その答えに、膝から力が抜けたように座り込む。

張り詰めていた空気が、ようやく緩む。

――そのとき。

俺は、違和感を覚えた。

(……動きが、不自然だ)

回復術師を連れてきた冒険者。
彼は無意識のうちに、右腕をかばうような姿勢を取っていた。

肩から先だけ、動きが遅い。
剣を持つ手に、微妙な力の抜け。

視線を落とす。

革の手甲。
縁の部分が、わずかに濡れている。

「……その腕、怪我してますか?」

「……気のせいだ。
 大したことは――」

「見せてください」

言葉を遮り、結界を抜けて一歩近づく。

周囲が、再び静かになる。

渋々といった様子で、冒険者は袖をまくった。

前腕に走る、斜めの裂傷。
深くはないが、皮膚は割れ、赤く腫れている。

「やっぱり…」

手をかざして水属性に集中。
裂けていた皮膚が、元の形を思い出すかのようにゆっくりと閉じていく。

腫れが引き、
痕も残らず消えていく。

「あ、ありがとう。もしかして今の魔法も…」

「?」

「水属性ですね。」

回復術師が口を挟む。

「私も長年回復魔法を学んできましたが…水属性の回復なんて聞いたことがありません。この結界はどなたが?」

結界をまじまじと見つめ、調べるように触りながらこちらに問いかけてきた。

「俺です…まだ未熟で、こんなものしか張れませんでした…」

俺は森の管理者から逃げる時に見た、セラの結界を思い出していた。
無駄のない綺麗で強固な結界だった。

数秒、回復術師はフリーズしていた。

「ば、馬鹿言っちゃいけませんよ!あなたは水属性の使い手でしょう?」

回復術師は、半ば怒鳴るように言った。

「水属性でその精度の回復ができるだけでも異常です。それに加えて聖属性の結界? そんな話、理論上あり得ない」

結界に触れていた指先を引っ込め、こちらをまっすぐ見据える。

「結界は、聖属性の中でも高度な分野です。属性適性があっても、十年単位の訓練が必要になる」

一拍置き、低い声で続けた。

「しかも、この結界……簡素に見えて、要点だけを完璧に押さえている。
防御範囲、魔力効率、持続性。どれも無駄がない」

ゆっくりと、首を横に振る。

「“こんなもの”などと、謙遜で済む代物ではありませんよ。学会に出せば、大騒ぎになります。大神殿に知られれば、司祭団が動くでしょう。」

俺の背中に、冷たいものが走る。

(……そんな、大ごとに?)

腕を治した冒険者の反応を見るに、本当のようだ。

口をはさむ隙もなく、回復術師は話を続ける。

「異端審問、という言葉を知っていますか」

空気が、ひやりと冷える。

冒険者たちの中から、息を呑む音が漏れた。

「公には“調査”や“保護”を名乗ります。
ですが実態は、力の没収か、管理下への隔離です」

俺の胸が、嫌な音を立てる。

(……捕まる?)

回復術師は、俺の反応を見て、はっきりと言った。

「あなたは、悪くない。
理論を壊したのは事実でも、罪ではない。少なくとも私はそう思っています。」

後ろを振り返ると、回復を終えたアクアが涙目でガクガクと震えていた。
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