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14 まずいことになりました
「誰だ!!?」
怒号が森に響いた。
同時に、結界の外で足音が止まる。
剣を抜いた冒険者が一人、その後ろにローブ姿の男――回復術師らしき人物が息を切らして立っていた。
「その結界を解け! そいつは俺たちの仲間だ!」
警戒の視線が俺とヴェント、そしてアクアへ向けられる。
「待ってください!」
アクアが一歩前に出て、必死に声を上げた。
「今、治療中です。解いたら……!」
「治療だと?今ここに来てくださっている方を誰だと…」
冒険者の一人が嘲るように言いかけ――
その言葉が、途中で止まった。
「……な、なんだ、あれは……」
視線の先。
アクアの手元で、淡い水色の光が脈打っている。
水が流れるように、しかし一滴も零れず、
裂けていた傷口を内側から縫い合わせていく。
血はすでに止まり、
皮膚と筋肉が“元あった形”を思い出すように再生していた。
「ば、馬鹿な……」
回復術師が、前のめりになる。
「……これは……回復魔法?」
信じられない、という顔だった。
「水、属性……?」
震える声。
「回復魔法は聖属性だ。例外はない。
水属性は補助、せいぜい傷の悪化を防ぐまでだ……!」
一歩、また一歩と近づき、
食い入るようにその魔法を見つめる。
「なのに……再生している。
しかも、魔力の流れに一切の無駄がない……」
息を呑み、はっきりと言い切った。
「……洗練されすぎている。
王都の大神殿でも、ここまで“綺麗な回復”は見たことがない」
周囲が、静まり返る。
冒険者の顔から、敵意が消え、
代わりに困惑と畏怖が浮かんでいた。
「……助かる、のか?」
仲間の冒険者が、かすれた声で尋ねる。
「は、はい。安定してきましたから…大丈夫…です」
「よ、よかった…よかった…」
その答えに、膝から力が抜けたように座り込む。
張り詰めていた空気が、ようやく緩む。
――そのとき。
俺は、違和感を覚えた。
(……動きが、不自然だ)
回復術師を連れてきた冒険者。
彼は無意識のうちに、右腕をかばうような姿勢を取っていた。
肩から先だけ、動きが遅い。
剣を持つ手に、微妙な力の抜け。
視線を落とす。
革の手甲。
縁の部分が、わずかに濡れている。
「……その腕、怪我してますか?」
「……気のせいだ。
大したことは――」
「見せてください」
言葉を遮り、結界を抜けて一歩近づく。
周囲が、再び静かになる。
渋々といった様子で、冒険者は袖をまくった。
前腕に走る、斜めの裂傷。
深くはないが、皮膚は割れ、赤く腫れている。
「やっぱり…」
手をかざして水属性に集中。
裂けていた皮膚が、元の形を思い出すかのようにゆっくりと閉じていく。
腫れが引き、
痕も残らず消えていく。
「あ、ありがとう。もしかして今の魔法も…」
「?」
「水属性ですね。」
回復術師が口を挟む。
「私も長年回復魔法を学んできましたが…水属性の回復なんて聞いたことがありません。この結界はどなたが?」
結界をまじまじと見つめ、調べるように触りながらこちらに問いかけてきた。
「俺です…まだ未熟で、こんなものしか張れませんでした…」
俺は森の管理者から逃げる時に見た、セラの結界を思い出していた。
無駄のない綺麗で強固な結界だった。
数秒、回復術師はフリーズしていた。
「ば、馬鹿言っちゃいけませんよ!あなたは水属性の使い手でしょう?」
回復術師は、半ば怒鳴るように言った。
「水属性でその精度の回復ができるだけでも異常です。それに加えて聖属性の結界? そんな話、理論上あり得ない」
結界に触れていた指先を引っ込め、こちらをまっすぐ見据える。
「結界は、聖属性の中でも高度な分野です。属性適性があっても、十年単位の訓練が必要になる」
一拍置き、低い声で続けた。
「しかも、この結界……簡素に見えて、要点だけを完璧に押さえている。
防御範囲、魔力効率、持続性。どれも無駄がない」
ゆっくりと、首を横に振る。
「“こんなもの”などと、謙遜で済む代物ではありませんよ。学会に出せば、大騒ぎになります。大神殿に知られれば、司祭団が動くでしょう。」
俺の背中に、冷たいものが走る。
(……そんな、大ごとに?)
腕を治した冒険者の反応を見るに、本当のようだ。
口をはさむ隙もなく、回復術師は話を続ける。
「異端審問、という言葉を知っていますか」
空気が、ひやりと冷える。
冒険者たちの中から、息を呑む音が漏れた。
「公には“調査”や“保護”を名乗ります。
ですが実態は、力の没収か、管理下への隔離です」
俺の胸が、嫌な音を立てる。
(……捕まる?)
回復術師は、俺の反応を見て、はっきりと言った。
「あなたは、悪くない。
理論を壊したのは事実でも、罪ではない。少なくとも私はそう思っています。」
後ろを振り返ると、回復を終えたアクアが涙目でガクガクと震えていた。
怒号が森に響いた。
同時に、結界の外で足音が止まる。
剣を抜いた冒険者が一人、その後ろにローブ姿の男――回復術師らしき人物が息を切らして立っていた。
「その結界を解け! そいつは俺たちの仲間だ!」
警戒の視線が俺とヴェント、そしてアクアへ向けられる。
「待ってください!」
アクアが一歩前に出て、必死に声を上げた。
「今、治療中です。解いたら……!」
「治療だと?今ここに来てくださっている方を誰だと…」
冒険者の一人が嘲るように言いかけ――
その言葉が、途中で止まった。
「……な、なんだ、あれは……」
視線の先。
アクアの手元で、淡い水色の光が脈打っている。
水が流れるように、しかし一滴も零れず、
裂けていた傷口を内側から縫い合わせていく。
血はすでに止まり、
皮膚と筋肉が“元あった形”を思い出すように再生していた。
「ば、馬鹿な……」
回復術師が、前のめりになる。
「……これは……回復魔法?」
信じられない、という顔だった。
「水、属性……?」
震える声。
「回復魔法は聖属性だ。例外はない。
水属性は補助、せいぜい傷の悪化を防ぐまでだ……!」
一歩、また一歩と近づき、
食い入るようにその魔法を見つめる。
「なのに……再生している。
しかも、魔力の流れに一切の無駄がない……」
息を呑み、はっきりと言い切った。
「……洗練されすぎている。
王都の大神殿でも、ここまで“綺麗な回復”は見たことがない」
周囲が、静まり返る。
冒険者の顔から、敵意が消え、
代わりに困惑と畏怖が浮かんでいた。
「……助かる、のか?」
仲間の冒険者が、かすれた声で尋ねる。
「は、はい。安定してきましたから…大丈夫…です」
「よ、よかった…よかった…」
その答えに、膝から力が抜けたように座り込む。
張り詰めていた空気が、ようやく緩む。
――そのとき。
俺は、違和感を覚えた。
(……動きが、不自然だ)
回復術師を連れてきた冒険者。
彼は無意識のうちに、右腕をかばうような姿勢を取っていた。
肩から先だけ、動きが遅い。
剣を持つ手に、微妙な力の抜け。
視線を落とす。
革の手甲。
縁の部分が、わずかに濡れている。
「……その腕、怪我してますか?」
「……気のせいだ。
大したことは――」
「見せてください」
言葉を遮り、結界を抜けて一歩近づく。
周囲が、再び静かになる。
渋々といった様子で、冒険者は袖をまくった。
前腕に走る、斜めの裂傷。
深くはないが、皮膚は割れ、赤く腫れている。
「やっぱり…」
手をかざして水属性に集中。
裂けていた皮膚が、元の形を思い出すかのようにゆっくりと閉じていく。
腫れが引き、
痕も残らず消えていく。
「あ、ありがとう。もしかして今の魔法も…」
「?」
「水属性ですね。」
回復術師が口を挟む。
「私も長年回復魔法を学んできましたが…水属性の回復なんて聞いたことがありません。この結界はどなたが?」
結界をまじまじと見つめ、調べるように触りながらこちらに問いかけてきた。
「俺です…まだ未熟で、こんなものしか張れませんでした…」
俺は森の管理者から逃げる時に見た、セラの結界を思い出していた。
無駄のない綺麗で強固な結界だった。
数秒、回復術師はフリーズしていた。
「ば、馬鹿言っちゃいけませんよ!あなたは水属性の使い手でしょう?」
回復術師は、半ば怒鳴るように言った。
「水属性でその精度の回復ができるだけでも異常です。それに加えて聖属性の結界? そんな話、理論上あり得ない」
結界に触れていた指先を引っ込め、こちらをまっすぐ見据える。
「結界は、聖属性の中でも高度な分野です。属性適性があっても、十年単位の訓練が必要になる」
一拍置き、低い声で続けた。
「しかも、この結界……簡素に見えて、要点だけを完璧に押さえている。
防御範囲、魔力効率、持続性。どれも無駄がない」
ゆっくりと、首を横に振る。
「“こんなもの”などと、謙遜で済む代物ではありませんよ。学会に出せば、大騒ぎになります。大神殿に知られれば、司祭団が動くでしょう。」
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空気が、ひやりと冷える。
冒険者たちの中から、息を呑む音が漏れた。
「公には“調査”や“保護”を名乗ります。
ですが実態は、力の没収か、管理下への隔離です」
俺の胸が、嫌な音を立てる。
(……捕まる?)
回復術師は、俺の反応を見て、はっきりと言った。
「あなたは、悪くない。
理論を壊したのは事実でも、罪ではない。少なくとも私はそう思っています。」
後ろを振り返ると、回復を終えたアクアが涙目でガクガクと震えていた。
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