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謎の依頼編
15 治癒魔法
しおりを挟むギルドに着くなりメルさんが大慌てでギルドにある医務室を開けてくれた。因みにお医者さんは週一で来てくれる程度らしく、不在だった。
「聞こえますか? 聞こえるなら手を握ってください」
そう私が声を掛ければ、弱い力だったけど指がギュッと握られた。
この人はギルドへ訪れた際に私達に謝罪してくれた人。
少しだけあのパーティで浮いていた印象があった。
「この人の怪我は他の方達よりも重傷です。まるで皆を攻撃から庇ったみたい」
「エデンさん。お医者さんがこちらに到着するまでかなり掛かると思います。あの、エデンさんは治癒魔法は使えないんでしょうか? 治癒魔法ならこの人を助けれるかもしれません!」
治癒魔法か……。
そう言えばフェリーヌが苦戦していた気がする。
本来魔法は呪文を唱える事が必要でその際に想像力も重要視されているのが治癒魔法。想像力があるほど効果が上がるとも言われいる。
魔法の中でも特に治癒魔法はかなり難しいらしく、そんな難易度が高い魔法を初めて使う身としてはかなり緊張する。なにせ失敗したらこの人の命は助からないと思っていいという事だから。
息を飲み、私は恐る恐る手を翳す。
炎魔法の時は呪文無しで成功した。
もしかしたら、と思い私は挑戦してみることにした。
「こ、この人の怪我を治して」
心の底から気持ちを込めて言えば、声が少し震えているのが分かった。
するとその人の体全体が眩い緑色の光に包まれた。
キラキラと光る暖かな光。
それが直ぐに治癒魔法だと気づき、私は嬉しさのあまりに飛び上がり隣に居たメルさんに飛び付いた。
治癒魔法を使うことが出来たことと、人を救う事ができたことがとても嬉しかったからだ。
「や、やっぱり凄いです! 治癒魔法成功してますよ!」
「私、他の人の治療もしてきますね!」
「はい。お願いします!」
私は他の冒険者さん達の治療を始めた。
*********
最後の一人の治療を終え、再び重傷を負った冒険者さんの所へ向かっていた。
パーティを襲ったあの謎の依頼主は大人しく部屋の隅っこに座り込んでいる。
ふと思ったけどこの依頼主主、私よりかなり背丈が低いんだよね。
それとあの話し方。
子供っぽく、大人のようには思えなかった。
「もう治療は終わった。貴方はもう少し此処で待ってて」
「…………うん」
小さな返事が返ってきた。
うん、逃げる気はなさそうね。
私は再び足を動かせた。
治療魔法は魔力の消耗が激しいとよく聞くけど、ビックリなことに全く体は疲れていない。
魔力のステータスはマックスの1000だからそりゃあ消耗しても底を尽きることは無さそうだから疲れないのは当たり前なのかもしれない。
「エデンさん!」
「メルさん、患者さんの具合は?」
「もう起きていらっしゃいますよ。エデンさんが他の方の所へ行って直ぐにお目覚めになりました」
治癒魔法の効果は抜群だったみたい。
「貴方が僕を助けてくれたんですか?」
「はい、エデンと言います。もう体は大丈夫ですか?」
「僕はゼアと言います。体はお陰様で大丈夫です。あの……他のメンバーは……」
「皆さんは貴方と比べて軽いものだったので今は村長さん……じゃなくてギルドマスターとお話中です」
私がそう言えばその人は安心したのか胸を撫で下ろした。
でも、私はまだ安心出来ていない。
それはこの人についてだ。
「私には貴方の怪我がまるで皆を庇っているように見えました。他の人は酷い人で骨折なのに、貴方だけは重傷。治療が遅ければ亡くなっていたと思います」
私の言葉に明らかに動揺をみせるゼアさん。
このパーティには何かしらあるなと私は思った。
あまり踏み込み過ぎるのは良くないとは思う。でも、この件に関しては別。もしかしたらパーティ内でいじめ、暴力的行為が及んでいるのかもしれないと思ったら放ってはおけなくなった。
「僕、あのパーティで足を引っ張ってて……それで何かに襲われた時に皆の役に経たないとって盾になってたんです。まぁ、結果盾になっても約立たずだったんですけどね」
「…………そうだったんですか」
聞いてよかった話なのか今更後悔した。
この人の言っていることが真実だとすればパーティ内でのいじめの可能性は無いだろうけど、本人が気づいていない事だって有り得る。
「取り敢えず……メンバーの方達の所へ案内しますね」
医務室を出ようとドアノブに手を掛ける。
「あの、エデンさん」
「はい?」
声を掛けられ、私は振り向く。
「……助けてくれて本当にありがとうございました。エデンさんは僕の命の恩人です」
深々と頭を下げられ私は目を見開く。
やっぱ御礼を言われるのは慣れないな……
少しばかり照れ笑いを浮かべる私。
うん、やっぱり御礼を言われるのは何だか恥ずかしいな。
ゼアさんの柔らかそうな桃色の髪がふわりと揺れる。
何処かで見覚えのある髪色だったけど、まさかね……。
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