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アンドレを連れ戻せ! 編
69 成長
しおりを挟むエルゼさんに連れられてやって来たのはアンくんのお家だった。
私の前に聳え立つ大きなお屋敷に私は思わず唖然としてしまった。
アンくんはもしかしたらお坊ちゃまなのかもしれない……。
いや、こんな豪邸なのだからそうに決まっている。
「安心しろ。ここの息子とは同期でな。いつも嫌だと言うほど顔を合わせ、そして共に戦ってきている仲だ」
私が緊張しているのを察してくれたのかエルゼさんが微笑みながら言った。
その言葉で一気に力が抜けた気がした。
なんと言うか、上に立つ竜騎士という感じがしたのだ。一言一言に籠る強い意思と安心感。カッコイイと正直に思った。
エルゼさんがお屋敷の扉をドンドンと叩く。
すると、扉が開いたかと思えば突然何かがこちらへと勢いよく何かが飛んできた。
思わず私はルカを抱き寄せ、それから避ける。
向かい側にあった石の塀に何かがぶつかり、塀があまりの衝撃に崩れ落ちた時だった。
「お師匠!?」
聞き慣れた声が聞こえ、私は弾かれたかのように振り返った。
振り返ればそこにはアンくんの姿があった。
頬を赤くし、息を切らすアンくんに一体何がどうなっているのか聞こうとした矢先、首筋に冷たい何かが当たった。
それが剣先だと分かった時には冷たい視線が私へと向けられていた。
「人間如きが……ここで何をしている!」
「アンくんを……アンドレを迎えに来ました」
「アンドレを? 何故人間が?」
「彼は私の弟子です。勝手に連れていかれては困ります。だから迎えに来たんです」
私がそう言い返せば、一層冷たい視線が向けられた。
怖くないって言ったら嘘になるけれど、逃げたら負けだ。
私は難いのいい竜人(恐らくアンくんのお父さんと思われる)を見つめ返す。
「お師匠は関係ない! その剣をお師匠から離せ!」
「…………アンドレ、見ないうちに強くなったな。この人間がお前のことを弟子と言った。本当なのか?」
「本当だよ! その人は俺の師匠だ! それに……もう勝負は着いただろ!」
二人の間で繰り広げられる会話。
一体何の話をしているのだろう? と不思議に思う私。
そんな中エルゼさんが
「もう止せ。第一上級竜騎士として恥ずかしくないのか」
と言い放ち私の首に当てられていた剣の先を握った。
「どうせアンドレに勝負を申し込んで自分が勝ったら大人しく竜騎士になれとでも約束したのだろう? そしてお前は負けた。違うか?」
「…………その通りだ。まさかあんな速い攻撃がくるとは思ってもいなかった。正直、俺にはアンドレの剣が見えなかった」
アンくんのお父さんはそう言うと、私の首から剣先を離した。
私は大きな息を吐く。
正直、死ぬかと思った。
緊張感に追い詰められて息をするのを忘れてしまいそうだったから。
先程まで剣先が当てられていた所がまだひんやりと冷たい。
「人間。名前を聞いてもいいか?」
「……エデンと申します」
「エデン、単刀直入に聞く。お前、アンドレをどう鍛えた」
「どう、とは?」
「確かに元々素質はある子だった。それが格段に上がり、今では私でさ手も足も出ない。一体どのようにアンドレを鍛えたんだ?」
確かにアンくんと鍛錬に励んだ。
ダンジョンに潜ったり、時には剣を一緒に交えたり。
あとは……
「私が魔法を放ってそれをアンくんが避けたり……ですかね?」
曖昧な答えになってしまったけど、後はこれしか思いつかなかった。
アンくんのお父さんは私の回答が意外だったのか、目を大きく見開いていた。そして次の瞬間、私へと深々と頭を下げた。
「人間は弱い生き物だと思っていた。だが……どうやら違ったみたいだ。久々にアンドレと剣を交えたが驚いた。これ程の力を持った息子を竜騎士に出来ないのは残念だが約束したからな。アンドレ、お前は好きに生きなさい。そしてもっと強くなるといい」
「父さん!」
親子の熱い絆を前に思わずホッコリしてしまった。
これで一件落着かな?
アンくんが着々と成長しているということも分かったし、師匠として嬉しい限りである。
「待ってください、父上」
けど、そんなホッコリした空気はその圧のかかった低い声によって掻き消され、空気が変わった。
金髪、金目の美しい顔立ちをした男性が黒いマントを翻しながら現れた。
せっかく綺麗な顔立ちが眉間に寄せられたシワによって台無しではあるが、直ぐに彼がアンくんのお兄さんだと分かった。だって顔立ちがそっくりなんだもん。
その人は鋭い目付きで私を睨みつけた。
竜人はよほど人間が嫌いみたい。
「お前も見ていただろう? アンドレの実力を」
「見ましたとも。ですが俺は信じられません」
「では彼女とお前とで剣を交えてみてはどうだ?」
アンくんのお父さんの突然の提案に私を含めアンくんもルカも驚いたらしい。
エルゼさんに助けを求めるべく視線を向けるが、「エデンは中々の強者だぞ」と止めてくれる様子は無い。
そんな中、アンくんのお兄さんと目が合った。
彼は小さく笑いながら
「エデンか……。俺はシキ。一戦、頼めるか?」
と言われたので、私は小さく頷いた。
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