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アンドレを連れ戻せ! 編
68 今度こそ竜の国へ
しおりを挟むエルゼさん曰くアンくんのお家は名の知れた竜騎士一家らしい。
先程エルゼさんの言っていた第一上級竜騎士。
これは竜騎士のランクらしく、上から『一級最上竜騎士』それに引き続き『第一上級竜騎士』と続き、合計六つのランクがあるらしい。
アンくんのお父さん、お母さんは数少ない最高ランクの方らしい。そしてアンくんにはお兄さんが居るらしい。エルゼさんの同期らしく、第一上級竜騎士であり『漆黒の騎士』という二つ名も持っているとか。
「よし……エデンのその弟子思いな心に私は感動した。さぁ、竜の国へ行こう。案内しよう」
「は、入っていいんですか?」
戸惑う私にエルゼさんは微笑んだ。
「あぁ。私の友人と言えば簡単に入れるさ。だが人間だと少し厄介でな。これを被ってくれ」
渡されたのは皮でできたローブだった。
「竜人の匂いが染み付いている。そう簡単には人間だとはバレない筈だ」
私はローブを受け取り早速羽織る。
確かに何か鼻にツンと匂いはしたが気にしない事にした。
ルカは元々ドラゴンなので入国出来るらしい。
こうして私とルカはエルゼさんの協力の元竜の国へと入国した。
********
「ここが竜の国! 凄く大きいんですね」
「まぁな。人間の国には劣らないと私も思っている」
エルゼさんの言う通り街並みは人間の暮らす住宅などとはあまり変わらないし、何より皆笑っている。とても幸せそうに暮らしているように見えた。
私はルカの手を引きながらエルゼさんの後に続く。
歩いている途中何度もエルゼさんは声を掛けられては立ち止まり笑顔を向けていた。エルゼさんはどうやら有名な竜騎士らしく子供達から大人の竜人の憧れの存在らしい。
ルカが分かりやすいほどに興奮している。
どうやら久々の竜の国に嬉しさを隠しきれていないみたい。
「エルゼさん。それで今から何処へ?」
「案ずるな。ちゃんとお前達を愛弟子の元へ連れて行く」
エルゼさんはそう言うと再び歩き出した。
今の私に出来ることはエルゼさんを信じて着いていくことだけだ。
一方その頃、私が知らない場所でアンくんは大変な事になっていた。
「アンドレ! 無事だったのね!」
泣きじゃくりながら俺へと飛びついてきたのは母親だった。
兄貴に連行されるなり家へと連れてこられた俺は現在に至る。
いつもは厳しくて怖い母さんが泣いて俺を抱きしめている。
一体どんな心境の変化なのだろうか。俺は不安で仕方が無い。
ガタガタ震える俺にお構い無しにこの母親は俺を力強く抱きしめてくる。
「アンドレが苦しがっているだろ!」
そんな時父親の声がし、俺は心底助かったと思った。
母親には自分の馬鹿力を理解して欲しいものである。
やっと開放された俺は小さく息を吐く。
今のでどっと体力を持っていかれた。
「……久しいなアンドレ。元気にしていたか?」
「まぁ……一応は。それと本当なんですか? 俺が竜騎士の試験に合格したというのは
恐る恐る尋ねる俺に父さんは頷いた。
「不合格だと私達も思いきっていた。しかし審査員によると人間の形をした化け物の妨害が入ったと聞いた。試験妨害もあり不合格は取り消されたんだ。アンドレ。お前は今日から下級竜騎士だ」
父さんはそう言うと俺に竜騎士である事を証明するブローチを差し出した。そのブローチは今まで俺が目指してきたもの全てが詰まったものだ。受け取ったら俺は今日から下級竜騎士として職務に就かなければならない。竜騎士の両親と兄を持つ俺にとって竜騎士とは必ず叶えなければならない壁だった。
だけど……今は違う。
「それは受け取れません」
「何を言ってるの、アンドレ!?」
「母さんに同意だ。アンドレ、お前本気か?」
母さんと兄貴が俺にそう尋ねてきた。
父さんは黙り込んだままである。
「はい。俺には戻らないといけない場所があるんです」
「馬鹿なことを言うな。お前の住む世界は竜の国以外の何処にある」
「俺もそう思ってました。けど……今は村の皆がルカがそしてお師匠が居る。人間は竜人が思っていたのとは違う! 優しい人間だっているんだ! 俺はお師匠の元でこれから沢山の事を学びたいんだ!」
い、言ってしまった……。
俺は拳を握り締めた。
体が震えているのが分かる。
なにせ俺は家族を裏切ったのだ。
「…………分かった。ならば勝負しようかアンドレ」
「勝負、ですか……?」
突然の父さんの言葉に俺は唖然とする。
「あぁ。真剣勝負をしよう。ルールはどちらかが降参するまで行う。先に降参させた方が勝ちとなる」
「俺と父さんでですか?」
「他に誰が居る」
今まで父さんとは稽古で剣を交えた事はあった。けど、実戦は無いし、何より父さんは一級最上竜騎士だ。俺に適う相手では無いことぐらい分かっている。でも、戦わないと何も始まらない。俺はお師匠の元で沢山のことを学んだ。今、それを活かすときがきたんだ。
「……その勝負、承ります。もし父さんが勝ったら俺は竜騎士としてここに残ります。けどもし俺が勝ったら好き勝手に生きます」
「あぁ。構わん」
こんな偉そうなこと言っといて何だけど正直なところ勝てる自信はほとんど無い。けど、ほんの少しだけだけど勝てそうな気もする。だって俺はあの全ステータス1000の最強の師匠の一番弟子なのだから。
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