女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人

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3 ルイスside

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 プレセアと出会って早くも十年程の月日が経った。

 人見知りなのかルカさんの後ろに隠れ、こちらの様子を伺っては隠れる。目が合えば顔を真っ赤にして瞬時にまた隠れて……可愛らしい女の子だと思った。

 けれど、少し話をするにつれ、お互い読書が好きだという共通点が見つかった。お互いに好きな本について語り合った。そして次第に貸し借りを初めて、互いの屋敷の書庫を行ったり来たり……なんて言う日々を送った。

 そんな日々が当たり前だったのに……いつからだろう。
 プレセアとの間に大きな溝が生まれたのは。

 恐らく、それは俺が一足先に高等部へ進学した事が切っ掛けだったと思う。
 学園の中等部と高等部の教室は棟自体が違う。登校時間も下校時間も違って……いつも通りやっていた登下校が出来なくなったのも原因だろう。
 だが、何よりも……。


『ルイス。こちらはアリア。高等部に進学して出来た友人なんです』

『ア、アリアと申します! プレセア様には大変良くして頂いていて……』


 恥じらいながら、ほんのりと頬を紅色に染めて言葉を紡ぐアリアの姿を見た時、心臓が高鳴った。
 こんな事、初めてだった。
 中々落ち着くことを知らないその胸の高鳴り。
 去っていく彼女の姿が視界から消えるその時まで。俺は彼女から目を離せなくなっていた。

 それからふと、アリアの姿を探すようになっていった。
 そして姿を見かければ、つい声を掛けてしまった。
 最初彼女は戸惑っていたが、だんだんと心を開いていってくれたのか自然体な姿を見せてくれるようになった。

 甘く優しいソプラノの声。
 柔らかなはちみつ色の髪を揺らし、まるで花が咲いた様に微笑む。
 困っている人を見かければ声をかけ、手を差し伸べる。
 特待生として学院に入学したアリアは、常に成績を維持しなければならない。
 だから毎日放課後、閉館するまで図書館に残り勉学に勤しむ。

 ......そんな姿を見ていくうちに、心の内に秘めて置こうと思っていた彼女への想いが溢れ出してしまった。


「勉強。一緒にいいかな?」

「アリア。君が好きだと言っていた物語を舞台としたミュージカルが公演されるらしい。一緒にどうかな?」

「アリアに勧められて例の壺を買ってみたんだが、中々味わい深いものだね。部屋が一気に明るくなったよ」


 気づけばアリアと共に過ごす時間が多くなり、逆にプレセアと過ごす時間が一気に減った。

 プレセアもそれには気づいていただろう。
 けれど、彼女は特に咎めることも無かった。



 ____なんだ。君も同じ気持ちだったんだな


 ____漸く離れられると。そう思っているだろう?


 アリアへ想いを告げると決めた日。俺の告白を受けてアリアはとても喜んでくれた。
 頬を赤く染めながら、喜びを浮かべたその表情。
 歓喜のあまりか、微かに震える声。
 そして……「私も」と返した時、涙を含んだその声に、気づけば抱きしめていた。
 華奢なその小さな身体は、いとも簡単に包み込んでしまうことができた。

 けれど彼女は、なぜかそれを拒むように俺を押した。


「あの……まだ心の整理がついていなくて。暫く一人にさせて頂けますか?」

「あ、あぁ? 分かった」

「申し訳ございません。失礼します」

涙を拭いながら去っていくアリアの背を見つめながら俺は今後のことを考えた。
とりあえず、プレセアに全てを伝えなければならない。
まぁ……彼女のことだ。ケロリと飲み込んで、婚約破棄さえも受け止めるのだろう。


結果的に言えば、プレセアは婚約破棄を受け入れた。
けど、その反応は俺が想像していたものとは違っていたように感じた。
今にも泣き出しそうな表情をしていた。
正直、驚いた。
まさか、そんなに辛そうな表情をされると思っていなかった。

それから宣言するように言葉を言い残して、プレセアは去っていった。

「……終わったのか」

すんなりと事は終わってしまった。
それが何だか気に入らないような。
いや、これで良かったんだ。
……そんな正反対の思いが頭の中にばらつく。

「雨が降りそうだな」

雲に覆われた暗い空を見つめながら、俺は呟いた。




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