婚約破棄から2年。元婚約者から結婚式の招待状が届きました。しかも、友人代表挨拶を頼まれまして。

流雲青人

文字の大きさ
6 / 24

結婚式まであと8日②

しおりを挟む


馬車に揺られながらイレーナはルカにバレないようにチラリと視線を向ける。


……とその瞬間、バッチリと目が合ってしまった。

思わずビクリと身体が浮き、その勢いで後頭部を天井にゴンっとぶつける。
ジンジンと響く鈍痛に悶えながら、ゆっくりと座ろうとすれば、突然馬車が揺れて体勢を崩し、今度は窓に頭をぶつけた。再び襲い掛かる痛みに更に悶えていると、視界の片隅にプルプルと小刻みに振るえているルカの姿が目に入った。


「申し訳こざいません。あまりにもその…」


そう言って顔を逸らし震えている……どうやら笑いを必死に堪えているらしいルカを見てイレーナは強ばっていた身体から一気に力が抜けた。

そして


「……凄く畏まってたから逆に緊張しちゃってたけど……その様子だと相変わらずみたいだね。ルカくん」


イレーナがそう言えばルカは顔を上げた。
そして目尻に溜めた涙を拭いながら言った。


「それはこっちの台詞だよ、イレーナさん」


そう言って微笑み、手を差し出すルカ。
イレーナはその笑みをみてホッと安堵すると共にその手をとった。


「学園を卒業してからだから2年ぶりだね。元気にしてた?」

「うん、ぼちぼち。イレーナさんは? 」

「最初は結構大変だったけど……今はもう慣れちゃったかな。けど驚いたよ。ルカくんがまさかパーツル伯爵家に仕えてるなんて」


イレーナとルカは同じ学び舎で過ごした所謂学友である。
王都にある学園……王国立ハビュレッタ学園は名門の中の名門校である。
身分など関係ない。ただ勉学、運動、芸術などの面に優れた者達のみが通う事が許される学園である。

在籍する生徒のほとんどが貴族の者たちばかりなのに対し、ごく稀に平民の者も居る。ルカもその1人であった。


「成績優秀なのは勿論知ってはいたけど、ルカくんの成績なら宮廷にだって仕える事が出来る筈だから宮廷に就職してるとばかり…」

「買い被りすぎ。別に俺はそこまで優秀な生徒じゃなかったって。それよりも俺の方が驚いたよ。まさかイレーナさんが体調不良で退学だなんて」


体調不良

その言葉にやはり周囲にはそう伝えられているのか、とイレーナは思った。
だからこそ、両親が描いたそのシナリオ通りにイレーナは演じる事にした。


「その件についてはごめんなさい。そ急に体調が悪くなって。ここでの療養生活も突然決まったことだったから」


セシルとの婚約が破棄された後、イレーナは両親へとその事実を告げた。
すると両親は憤怒すると同時にイレーナから子爵家の恥だと言い、身分を取り上げた。

「お前のような出来損ないは私たちの子どもでは無い!」
そう吐き捨て、頬に走った鈍い痛み。
いずれ婚約破棄された事は周囲に広がる。そうなれば、婚約者に見捨てられた哀れな令嬢として周囲が嘲笑う。そんな未来を予期した両親は、体調不良を理由にイレーナを学園から退学させたのだ。


貴族という立場。お上品に優雅に……周囲の人々が求める利口な子を演じることを強いられてきた。
ただでさえ出来の良い兄や姉と比べられ肩身が狭い人生。周囲がイレーナへと求める人物像を必死に演じた。


けれど、唯一演じた自分を見て違和感を覚え、そしてその違和感の正体を暴くと同時に「ありのまま」のイレーナを求めてくれた人物がいた。
……そう。それがルカだった。


「そっか…。今はもう大丈夫なの?」

「うん。心配してくれてありがとう」


イレーナがそう言い微笑めば、ルカは「なら良かった」と微笑んだ。

この話題は偽りで塗れている。
数少ない友人に偽りを紡ぎ続けるのはあまりにも心苦しく、イレーナは話題を変える。


「えっと……王都に向かう前に私の家に寄ってもいいかな?  一応準備はしてたの」


とは言っても滞在分の着替え等は持ち合わせていなかった。
無論、結婚式用のドレスや髪飾り、靴等も持ち合わせているはずも無く…。
そしてそれを言い訳に結婚式の出席断ろう。という算段だったのだが…。


「着替えとかドレスとかに関しては心配しなくていいよ。全部用意してあるから」

「そ、そっか…あ、ありがたいなぁ…」


呆気なく打ち砕かれた希望…。
イレーナはガクりと項垂れた。






しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

王子様への置き手紙

あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯ 小説家になろうにも掲載しています。

【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

もう演じなくて結構です

梨丸
恋愛
侯爵令嬢セリーヌは最愛の婚約者が自分のことを愛していないことに気づく。 愛しの婚約者様、もう婚約者を演じなくて結構です。 11/5HOTランキング入りしました。ありがとうございます。   感想などいただけると、嬉しいです。 11/14 完結いたしました。 11/16 完結小説ランキング総合8位、恋愛部門4位ありがとうございます。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

私のことを愛していなかった貴方へ

矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。 でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。 でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。 だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。 夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。 *設定はゆるいです。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

処理中です...