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最終話
しおりを挟むあまりにも予想外の事に、私の頭はついて行かない。て言うか、クラウスが私のことが愛おしくて仕方ない…って…え?
「ティア。君に大変失礼な行いをしてしまったこと、深く反省しています。しかし、まだ俺達は婚約者! なのにそんな見知らぬ男と抱き合って……! 俺だってまだティアを抱き締めたことないのにっ!!!」
勢いよく頭を下げて謝罪したかと思うと、次はハンカチを噛み締めるクラウス。
えっと…まさかそんな風にクラウスが思っていたなんて…
けど、まさか気づいてないのかしら?
そう思った時、隣からまた笑い声が聞こえてきた。
「ガハハハハハハハハッ!! いや、ほんと…あー、面白い!」
「あの、笑い方…」
思わずそう指摘する私。
だってこの子は……
「もしかしてその癖の強い笑い方は……メ、メアリーですかっ!?」
クラウスが漸くウサギ仮面の正体に気づいたらしい。
私は肩を竦めつつ、ウサギの仮面を剥ぎとる。
仮面の下から現れた素顔にクラウスは目を見開いて口をポカーンと開けて驚きを隠せない様子だ。
目じりに溜まった涙を指で救いながらメアリーは言う。
「いやぁー、久しぶりだね。元気にしてた?」
「ほ、本当にメアリーじゃなんですねっ!? ですが、随分と背が伸びましたね…。でも、相変わらず可愛らしい顔は母上似で安心したよ。あ、今はメモル…と呼んだ方がいいでしょうか?」
少し困った様にそして残念そうに言うクラウス。
その気持ちは私にも凄く理解出来た。
だってメアリーは本当は女の子なのだ。
けれど、女王陛下が亡くなったことで王配が女王陛下似のメアリーを見るだけで彼女を思い出し、悲しみに浸るから……と、男の姿をさせるようになったのだ。
しかし、私、クラウス、そしてエミルも知っている。それはメアリーが本当は可愛いものが大好きで私とエミルよりも遥かに女の子らしい心を持っている、という事を。
「…ほんと、ティアには驚かされたよ。だって、オレの…私の婚約者になってもいいって言うんだよ? ほんと、びっくりしちゃった」
「貴方が本気で男性として生きていきたいか…そう本気で貴方自身が思っているのか試したんです。まぁ、案の定違ったようですけど」
私はウサギ仮面をメアリーへと突き付ける。
そうすればメアリーは少し躊躇いながら、その仮面を受け取った。
ほんと、昔からウサギが好きなのは変わらないのね。
「俺からもちゃんと父上には話をします。だからメアリー。貴方は、自分の気持ちを大切にして下さい」
「………ありがとう、お兄様。ティアもありがとね」
「メアリーの友人として貴方が辛そうにしているのは見てられないもの」
そう私が言えばメアリーが私へと抱き着いてきた。
昔は私よりも小さくて抱きついて来ても受け止めてあげれていたけど……今は流石にきつい。
よしよし、と私が撫でてあげていると
「それにしてもお兄様さー来るの遅くない? 私なんてティア抱えて走ってたんだよ? 追いつけてもなかったよね? ダサいよ?」
久々の再会の筈なのに容赦なく言葉を突き付けるメアリーに、思わず私が苦笑を浮かべる。
「実は王都の市場でティアを救出した時のためにタオルや水、薬等を買い込んでいたら少々遅くなってしまいました。馬に乗って行こうとも思ったんですけど、馬よりも速く走れる自信がありましたし、ウサギの仮面のおかげで国民の皆さんの記憶に焼き付いて居たようで、皆さんが道案内してくれたんですよ」
「お兄様怖っ。馬よりも速く走れる自信とか普通人間にはないよ?」
いや、メアリー。貴方も馬よりも速く絶対に走ってたわよ。
そんな突っ込みを私は飲み込むんだ。
だって、クラウスは大きな包みを背負っていたのだ。
その包みからクラウスがタオルと水を取り出して私へと差し出した。
「せっかくの美しい顔が泥で汚れていますよ? あと、喉が乾いていらっしゃるのならこの水をお飲み下さい」
「あ、ありがとう…ございます」
さっきあんなに愛を叫ばれた後だから、妙に気恥ずかしくてクラウスの顔が見れない。
メアリーにもタオルと水を差し出すクラウスに、彼自身の分はあるのか疑問を抱く。
だから私は彼の頬に伝う汗を拭って、そして受け取ったばかりの水を差し出した。
「貴方の分はあるんですか?」
「え、俺の分ですか!?」
「もし無いのなら私の分を飲んで下さい。ここまで走ってきて疲れたでしょう?」
「か、か、間接…キス……です…か?」
「……私、まだ飲んでないのでそうじゃないです。……私のはそんなに飲みたくないんですか? ならメアリーのを飲ませて貰ってください」
「ご、誤解です!? ただ少し…いえ、かなり嬉し過ぎて死ぬそうなんですよ!!!」
顔を真っ赤にして言うクラウスに思わず私は吹き出してしまう。
この人にこんな一面があったなんて知らなかった。
新しい一面を知れて嬉しくて、私が微笑めばクラウスの顔が更に赤く染まった。
そんな私達をメアリーがニヤニヤと笑みを浮かべながら見ている。
「お兄様、私に感謝してよ? ティアから話を聞いたらあまりにもすれ違ってるんだもん。そんなお兄様に助け舟を出してあげたんだから」
「……内心、焦ってる俺を見て楽しんでましたよね? メアリー」
「うん! 凄く楽しかった!」
正直に天使の笑顔で答えるメアリー。
だけど中身は天使の皮を被った悪魔である。
そんな時、王家の印が入った馬車二台がやって来た。
どうやらクラウスが呼んでいたみたい。
そのうちの一台からエミルが顔を出す。そして盛大にため息をこぼした後、言った。
「勘違いは晴れた、お姉ちゃん?」
「まぁ、うん」
「そ。じゃあメアリー。あんたはこっちの馬車に乗って。お姉ちゃんと殿下はもう一つの方ね」
エミルはそう言うと、メアリーの首根っこを掴んで馬車へと引きずり込んで行った。
因みにあの二人は同い年で、幼馴染な為、エミルのメアリーへ対する行動は案外容赦無かったりする。
取り残された私とクラウスの間には沈黙が走る。けど、その沈黙を破ったのはクラウスだった。
「ティア。婚約の件ですけど……俺はまだ貴方の婚約者で居たいです!」
「………私も思い込みが激しかったと思いますけど、エミルの話ばかりするのは悪いと思いますよ」
「そ、それは……共通の話題をすると良い…とアドバイスを貰って。他にも共通の話題でお話したかったんですけど…緊張して全く浮かばなかったんです」
「そのアドバイス、もしかしてエミルからですか?」
「そ、そうです。よく分かりましたね」
パアッと表情を明るくさせるクラウス。
あんな自称恋愛マスターのアドバイスを鵜呑みにして健気に頑張っていたのだと思うと、何だかクラウスが大変可愛く思え、案外純粋な面もある事も知れた。
「でも、エミルになんで相談したんです? 他にもっと適任はいたのでは?」
「エミルが一番相談しやすくて。その、一番の男友達の様な関係ですから」
……女としても見られてないよ、エミル。
我ながら可愛い顔立ちをしていると思っていた妹だけど、やはり中身の改善の余地が必要だと心底思った。
「……殿下がエミルの話をしているのを聞いていて、いつもモヤモヤしてました。言わゆるヤキモチです」
「や、ヤキモチ……」?
「つ、つまり!! そ、そう言う事なんですっ! も、もう帰りますからっ!!」
私はそう言い放つと、馬車へと全力で走る。
ドレスだろうと構わない。今はこのリンゴみたいに真っ赤な顔をクラウスには見られたくなかった。
因みにエミルが女子力皆無な令嬢になったのは私の幼い頃の言動が原因である。
終わり
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