絶対に好きにならないと決めたのに。

流雲青人

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 時間は過ぎ、金曜日となった。
 夏休みまで残り二週間。あれだけまだ遠いと思っていた夏休みだったが、気付けばもう少しである。

 そして今日は陽茉莉と約束した部活見学に行く日だ。
 体育館へと入れば部員達の熱気に思わずビックリしてしまった。インターハイが終わってからというものレギュラー争いで気合いが入っていると蓮が言っていたが、ここまでだったとは……。

 蓮にバレー部の見学がしたいと言った時はとても驚かれたが、事情を説明したら「あー」と何かを察したらしい。

 体育館の隅っこで見学することになった二人。
 途中男子バレー部のボールが勢いよく飛んできたけど、その度に陽茉莉が弾いたり、キャッチしたりしてくれたおかげで時雨の元に飛んでくることは無かった。

 現在のマネージャーは二年生の一人しか居ないらしい。
 その為、二年生の先輩は新しいマネージャー候補が来てくれて嬉しいと喜んでいた。しかし、時雨はその期待に答えることは出来ないので申し訳なさを感じていた。

 休憩時間になれば部員達は次々に座り込んだり、または会話を楽しみ出した。

 そんな中、先輩マネから「ドリンクとタオル渡すの手伝ってくれる?」と頼まれてしまった。陽茉莉はなんの躊躇いも無いようで、ニコリと微笑みながら「お疲れ様です」と部員達にドリンクとタオルを渡し始める。

 一方、時雨はと言うとタオルを持ったまま辺りをキョロキョロと見渡していた。
 
 渡さなければ、と思ってはいるものの行動に出せない。
 先輩は何となく怖いし、同級生と言っても蓮以外の男子とはあまり話したことが無い。

 焦りと不安が込み上げてくる中、突如頭に何かがポンと置かれた。


 「おーい。マネージャーさん、タオル下さいよ」

 頭に置かれたのが手だと気づくのと同時にその手の主が蓮だと分かった時雨は小声で呟いた。

 「…………ありがとう」

 「ん」

 時雨は蓮へとタオルを渡した。
 蓮の声掛けが無ければきっとそのまま渡せずに終わっていたかもしれない。
 やはり人に話しかけるのは苦手だと改めて実感した。
 思い出せば中学の時も蓮に助けられてばかりだった。
 一人で落ち込んでいたり泣いていたりしたら傍に居てくれた。一度、母親と大喧嘩した時には家に匿ってくれた。
 物心が着いた時から一緒にいる幼馴染。
 中一の春までは時雨の方が高かった身長も気付けば追い越されてしまっていた。

  「時間の流れって早いね」

 ふと時雨が呟いた。

 「……そうだな」

 蓮は頷きながらそう言った。



 〇◇〇◇〇◇〇◇



 時計の長い針が八を指した頃、時雨は体育館を出ようとした時だった。

 「待って。俺も帰る」

 そう言って隣に現れた蓮に時雨はビクリと肩を揺らした。
 
 「そんなに驚くか?」

 「驚くよ! 部活はいいの?」

 「今日は家の手伝いしなきゃいけないんだよ」

 蓮はそう言い放つと、先に体育館を出て行ってしまった。
 外履きに履き替えた時雨だったが驚きのあまりその場に立ち尽くしていた。

 家の手伝いをするだなんてどういう風の吹き回しなのだろうか? と正直、時雨は思った。なにせ蓮はバレー馬鹿なので家の手伝いをする時間があるならばバレーに費やすとまで言っていたのに…。

 時雨は直ぐに蓮に何か裏があると悟った。


 二人は校門を潜る。
 こうして一緒に帰宅するのは初めてだ。

 「私、あんこ迎えに行かなきゃだから」

 「俺も行く」

 「……家の手伝いあるんでしょ」

 「はて? 何のことでしょう?」

 わざとらしい蓮の返しに時雨はムッとした。
 これは確実に何か裏があると確信した。

 この様子じゃ蓮は確実に一緒に来るだろう。
 けれど保育園まで着いてこられてはその後公園で伊織と話すことが出来なかなってしまう。なにせ公園には藍も居るだろう。初めて伊織と話した時に約束したのだ。誰にも言わないと。

 チラリと横目で蓮の方を見れば、目が合った。

 「な、何……?」

 「ほんと、分かりやすいよな。時雨は」

 「別に何も隠してないけど?」

 「いーや。隠してるな。幼馴染なめんなよ」

 そう蓮に言われ、思わず「うっ」と唸ってしまった。
 けれどもこれに関しては絶対に隠し通さなければいけない。
 もしバレてしまったらきっともう二度と伊織とは話せなくなってしまうだろう。

 …………それだけは絶対に嫌だった。

 「時雨、変わったよな」

 「え?」

 突然の話題の切り替えに戸惑う時雨だったが、そんな時雨をお構い無しに蓮が話を続ける。

 「前まではなんか苦しそうに家の手伝いしてたのに今は心の底から楽しそうにしてる。もしかしてあの槙野伊織と何かあった?」

 「えっ!?」

 「何か脅されてるんじゃないかって聞いた時、時雨は否定した。そしてその後に凄く優しい声で言ってたじゃん。槙野先輩はいい人だって」

 「そ、それは……」

 「別に無理しては言わなくていい。けど」

 蓮はそう言うと、時雨の耳元に口を寄せ

 「なんか、妬ける」

 そう呟いた。

 その声は今までに聞いたことが無いくらい落ち着いていて、そして優しい声だった。

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