絶対に好きにならないと決めたのに。

流雲青人

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 その日の放課後。
 衣装班の仕事を無くなったのでいつも通りの帰宅時間で帰れることになった。最初は違う班の人達に手伝うと言ったのだか断られてしまった。なんでも「衣装班はよく頑張った! あとは任せて!」とのことである。今日もさくらにあんこのお迎えは頼んでしまっていたので、このまま家に直行する予定だ。
 公園で衣装と話せないのは残念だが仕方ない。
 なにせもうさくらのお迎えによってあんこは家に居る頃だろう。なので特に保育園方面に用事はない。それなのに伊織に会うためだけに行くだなんて……。

 ほんのり頬に熱が溜まるのが分かった。


 時雨は校舎を出て、校門を出る。
 すると男子生徒と女子生徒が仲良く手を繋いで帰っているのが見えた。


 ───おぉ、恋人だ


 思わず時雨はその二人を凝視した。
 別に付き合っている人が珍しい訳ではないのだが、ただ何となく凝視してしまったのだ。

 もし自分にとって特別な存在となる人が出来たなら手を繋いでみたい。
 そんな夢を時雨は幼い頃から持っている。

 特別な存在。それは正しく伊織のことだ。
 けれど彼と手を繋ぐだなんて……想像するだけで顔から火がでそうだ。

 緑の葉をしていたはずの木々が茶色や赤へと葉の色を変えている。
 秋の訪れを感じつつ、時雨は少し肌寒くなったなと半袖の上から羽織ったカーディガンを摩る。そろそろ中間服に着替えて良い頃合かもしれない。


 ───やっぱり、公園に寄っていこう……


 あんこは? と尋ねられたら妹が迎えに行く予定だったことをすっかり忘れていたとでも言って誤魔化せば大丈夫なはず。

 時雨は決意し、保育園方面の道へと曲がろうとした時だった。

 「おーい、時雨」

 「え? 蓮?」

 突然後ろから声を掛けられ振り向けばそこには蓮の姿があった。
 鞄を持っていることから蓮もこれから帰宅するのだろう。
 予想外の展開に時雨は慌てる。

 「後ろ姿見えたから急いで走ってきた。一緒帰ろ」

 「う、うん! いいよ。帰ろっか」

 少し残念ではあるが今回は諦めよう。

 時雨は蓮の隣に並び、家へと帰った。



 〇◇〇◇〇◇〇◇



 家へと帰宅した時雨は直ぐに制服を脱ぎ、お店の制服へと着替えた。
 これまでお手伝い出来なかった分、今日はめいいっぱい働くつもりだ。

 意気込む時雨だったが、母親に夕飯の買い出しを頼まれたことにより近くのスーパーまで向かうことになった。
 着替えるのが面倒だったので、和菓子屋きしだの制服のままだが誰とも会うことは無いだろうと思いそのままの格好で行ったのが運の尽き。
 スーパーに入るなり安売りになっていた惣菜をカゴに入れ、スーパーを歩き回っていると、ふと見慣れた後ろ姿を見かけ、思わず時雨は隠れた。

 見間違えるはずが無い……。
 こっそりとその人が居た場所を見つめる。
 するとやはりそこには伊織が居た。
 野菜コーナーで野菜を見つめる伊織。
 まさか彼もここのスーパーの利用者だったとは……。

 取り敢えず目的の物を買って、直ぐにスーパーから出よう。

 しかし、そんな願いは呆気なく打ち砕かれた。
 なにせ目的の商品は玉ねぎ、じゃがいもといった野菜類なのだ。

 
 ───槙野先輩、お願いします。今すぐ違う所へ行ってください。お願いします!


 時雨は心の底から願う。
 決して伊織と会いたくない訳では無い。
 ただ今の自分はお店の制服を着ているため、どうしても見られたくないのだ。別に和菓子屋の制服は至って普通の和菓子屋の制服である。色も紺色でワンポイントに赤い線が一本入っているぐらいだ。店では白いエプロンをつけるが、今は外している。

 どうか早く何処かへ行ってください。
 そう心から願う時雨だったが、そんな願いは叶わなかった。


 「時雨ちゃーん。何? かくれんぼ?」

 「ま、槙野先輩!?」

 気づけば野菜コーナーにいた筈の伊織の姿は無くなっており、辺りを見渡していると突然後ろから声を掛けられた。しかも声の主は伊織で不意に後ろを付かれた事により時雨は思わず飛び上がりそうになってしまった。

 慌てふためく時雨に対し、伊織は時雨をジーッとを見つめている。

 「あの、槙野先輩?」

 そんな伊織に時雨が首を傾げてそう言えば、ハッとした様子で伊織が微笑む。

 「……あ、ごめん。なんか見慣れなかったから。それお店の制服? 」

 「はい。けど驚きました。槙野先輩と会うだなんて」

 「俺もびっくり。それと、公園に今日時雨ちゃんが来なくてそれも驚いたよ。衣装作りは終わったって言ってたし。だから俺……もしかしたら時雨ちゃんに嫌われちゃったかな?って不安になっちゃった」

 突然の言葉に時雨は思わず「え?」と言葉をこぼした。
 伊織はと言えば無自覚で言っていたらしく、数秒後顔を少し赤く染めた。

 そんな貴重すぎる伊織の表情に時雨は前のめりになってしまった。

 「あの、どうして不安になったんですか?」


 知りたい。

 時雨はその一心で聞いてみた。


 「……やっと頼れる人が出来たから。時雨ちゃんは俺が唯一本音で話せる相手なんだ。今まで本当に苦しかった。息苦しい世界だった。けど、時雨ちゃんと出会ってからはそんな世界がまるで無かったかのように毎日が楽しくて……だからかな? よく分かんないや」

 へにゃりと笑う伊織に時雨は頬が引き攣るのを感じた。

 分かっていた。
 伊織にとって自分はただの後輩。いや、頼れる後輩だということを。
 けど、少し期待してしまったんだ。
 伊織と自分はもしかしたら同じ気持ちを抱いているんじゃないかって……。


 ───自意識過剰過ぎだよ、私


 今のこの関係を絶対に崩したくない。

 その為にこの思いは絶対にバレてはいけない。

 そう改めて実感した。

 
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