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しおりを挟む「皆ー! 遂に文化祭だぁぁぁ!」
文化祭当日。
一の一の教室では陽茉莉の活気のある声が響いていた。
現在の時刻八時五十五分。
九時に学校の門が開き、文化祭が遂に始まるのだ。
時雨は早速接客を行うことになるのだが、心臓がドキドキしっぱなしでソワソワしていた。
高校最初の文化祭。
まさかコスプレ喫茶を行うことになって、尚且つ自分がコスプレすることになるとは……。
項垂れつつ、時雨は教室の端っこで蹲っていた。
手のひらに何度も人という字を書き、口へと投げ込み飲み込む。
接客も勿論緊張するが、何より今の自分の格好が何より恥ずかしくて緊張の原因をつくっているような気がした。
時雨の作ったアリスの衣装。最初は膝より少し長めの水色のワンピースだったのだが急な変更により膝丈ぐらいの長さになり、かつシンプルな白いエプロンがフリル付きになったのだ。
衣装のジャンルで言えばロリータ衣装に当てはまるだろう。
衣装を着ることに対し吹っ切れていたはずだった
けれど、いざこうして身につけ接客をするとなると恥ずかしさが勝ってしまうのだ。
幸いカツラのおかげで誰がコスプレをしているのかまでは分からないのが唯一の救いであった。
三角座りをし、足に顔を埋め、小さく唸っていると気づけば九時になっていて遂に文化祭が始まった。
おまじないのおかげで緊張は少しだけ薄れた気がしたが、やはりまだ緊張している。
文化祭実行委員長である陽茉莉の指示に従い、配置に着く。
すると一気に廊下から声が聞こえ始め、教室の扉が開いた。
二人組の他校の制服に身を包む女性客と他クラスの生徒がやって来たようだ。
「可愛い!」「癒される」「パンケーキ食べたい!」などなどお客さんの反応も中々である。
お客さんを席に案内した後、直ぐに「店員さーん」と呼ばれ、テーブルへと駆け足で向かえば予想外すぎることを言われた。
「ねぇ、アリスさん。ここって商品の写真撮っていいの? あと、出来れば店員さんとも撮りたいな」
「えっと……取り敢えず聞いてみます。それと店員と写真を撮りたいといのは?」
首を傾げる時雨にもう一人の女性客が言った。
「決まってるじゃん。アリスさんとだよぉー!」
「私とですか!?」
まさかのお誘いである。それにこんなこと初めての経験で戸惑っていると、横から陽茉莉が割り込むように入ってきた。
「そういうサービスいいね! 文化祭実行委員長として許可します! けど、写真はお会計終わらせた後で。写真はネットにアップしないようにお願いします」
陽茉莉の言葉に二人組の女性客は頷いた。
そしてそのままホイップパンケーキを二つ注文してくれた。
本当に助かったと思い胸を撫で下ろす。
陽茉莉に「ありがとう」と伝えれば無視されてしまった。
相変わらず二人は気まずい雰囲気である。
時雨は注文をメモし、調理班の所へと向かう。
教室のほとんどはお店として利用しているが、そのうちの余った少しのスペースは調理班によるスペースとなっていてそこで調理を行う。接客担当の者達はお客さんから注文を受けた後、調理班のスペースに行き、注文の品を知らせる。
因みに店とは可愛らしい桃色のカーテンで仕切ってあるので見えないようになっている。
店のテーマは『夢みたいな一時を』
もちろん、文化祭実行委員長である陽茉莉の意見だ。
最初は特に男子からの不満はあったが、「モテるかもよ」という誰かが零した発言によりほとんどの男子生徒がやる気に満ち溢れ、このテーマに決まった。
開店して十分もしないうちにもうお店のテーブルは埋まってしまった。
店の前にはもう列が出来ており、この様子だと午後からはかなり大変そうだな、と思った。
そこで、一番客の二人組の女性客がパンケーキを食べ終えたらしく、会計を済ませた後、時雨の元へと駆け寄ってきた。写真をせがまれ、渋々と承諾し時雨は控えめなピースをして写真に写った。
女性客達は満足そうに帰って行った。何だか恥ずかしいが、仕方ない。そう言い聞かせ、時雨はまた次のお客さんの所へと駆け足で向かった。
他校性から他クラスの生徒、または先輩から先生まで様々な人がお店にはやって来た。その度に冷や冷やしつつ時雨は接客をすること三時間後の事だった。顔見知りが店にやって来たことにより、時雨はビクリと肩を揺し驚く。
そんな時雨を見てかその人はわざとらしく微笑む。
「アリスさん。席、案内してもらえる?」
わざとらしい笑みを浮かべるその人は伊織だった。
眼鏡をかけた男子生徒と共にやって来た伊織に時雨は困惑しつつ、平然を装いながらテーブルへと案内した。メニュー表を渡し、テーブルから離れようとすると、眼鏡をかけた見覚えのある男子生徒……祐希に呼び止められた。
「ここって、店員さんと写真撮っていいんだよね?」
どこかで見覚えのある顔立ちに時雨は少し悩んだ末、遂に思い出した。
彼は全生徒会長だということを。
「は、はい! ですが、ネットにアップするのは禁止となっていますのでそこを注意して頂ければ……」
「じゃあ後でお願いしようかな」
祐希はそう言うと、ニッコリ笑った。
まさか元ではあるが生徒会長と話す日が来るとは……と時雨は驚いていた。
そしてそれと同時に安堵していた。
だって伊織は女の子とでは無く祐希と店にやって来たのだ。
時雨は足取りが軽くなるのを感じた。
注文を承り、調理班へと知らせる。
開店してからというもの写真をねだられることが多い。
恥ずかしいし断りたいのが本心ではあるが、店の評判を落とす訳にはいかないし、何より文化祭実行委員長である陽茉莉がノリノリなのだ。断れるわけが無い。
「写真、お願いしまーす」
祐希にそう声を掛けられ、時雨は頷く。
時雨を真ん中に左に蓮、右に一樹といった配置でカメラを撮ることとなり、カメラ担当は陽茉莉に任せられた。
そして写真撮影後、祐希から
「コスプレとか普段やってるの?」
と聞かれ、首を降れば驚かれた。
時雨に興味津々な祐希に伊織が言った。
「それ以上はセクハラで訴えられるんじゃない?」
黒い笑みを添えて。
伊織の言葉に祐希は顔を顰め、眉を下げた。
「槙野。お前ってほんと時々怖いこと言うよな……」
「そう?」
「無自覚なのか? まぁ、いいや。取り敢えず、次行くか。この店混んでるし」
祐希はそう言うと、一足先に教室を出て行った。
しかし、伊織はそのまま時雨の方をへと体を向けた。
時雨のいる方向と扉とでは逆方向である。
忘れ物かな? と不思議に思っていると
「似合ってるから自信もっていいよ」
そう呟かれ、カァッと頬に熱が溜まった。
小声だったので、恐らく周りには聞こえてはいないだろう。
伊織は微笑むと、教室を出て行った。
そんな彼の後ろ姿を見送った後、時雨は熱くなった頬を軽く抑え、息を吐いた。
───あんまり、期待させないでくださいよ。槙野先輩
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