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しおりを挟むアリスと帽子屋の衣装に身を包み、二人は文化祭を満喫した。
もちろん、クラスのお店の宣伝も忘れずにだ。
廊下を歩けば勿論沢山の視線を向けられた。
けれどコスプレをしているのが時雨だということも伊織だということもバレず、気ままにのんびりと回ることが出来たのは事実だ。
「時雨ちゃん。他に行きたい所ある?」
「えっと、幼なじみが劇してるみたいで。行きたいんですが、いいですか?」
時雨がそう言えば一瞬伊織の表情が曇った。
「……幼なじみってあのバレー部の?」
「あ、はい。野崎蓮って言うんです」
「そっか。うん、行こうか。確か劇って男女逆転シンデレラだよね? なんか面白そう」
悪戯っ子のような笑みを浮かべる伊織に、思わず時雨は釣られて笑った。
〇◇〇◇〇◇〇◇
体育館へとやって来ると、丁度劇が始まった頃だった。
「昔、昔……シンデレラがいましたー」
という棒読み過ぎるナレーションが入り、幕が上がる。
するとステージに突如現れたのは恐らく柔道部だと思われる難いのいい男子生徒。ちゃんと女装はしているものの似合わなさ過ぎて思わず笑いが出てしまった。
「シンデレラは父を亡くし、継母と義理の姉たちに虐められる日々を過ごしていましたー」
またまた棒読みのナレーションが体育館に響き渡る。
「あぁ。お父さん、何で私を一人にしたの……?」
野太い声に再び笑い巻き起こる。
シンデレラは感動ものだと時雨の脳内では記憶していたので、今目の前で繰り広げられるシンデレラには混乱しつつもついつい笑ってしまっていた。
蓮は劇に出るのだろうか? と少し期待をして待ち続けていると遂にその時が来た。
シンデレラは魔法使いよって綺麗なドレスに身を包み、ガラスの靴を履いて舞踏会へとやって来た。
そんな舞踏会の会場で王子の婚約者候補である隣国の王女様が登場した。
それが蓮だったのだ。
「に、似合いすぎ……」
明らかにシンデレラとは違う手の込んだ化粧に衣装。
それに何より整った顔立ちの蓮はドレスを赤と黒の着こなしていた。
男女逆転シンデレラなので王子はもちろん女子である。
ある意味王子は隣国の王女を選ぶのではないかとヒヤヒヤしてしまった。
するとそんな考えがフラグだったのか……
「王子は迷いました。難いのいいシンデレラを選ぶのか、麗しい隣国の王女を選ぶのか」
とナレーションが語り始めた。
そして結果的に王子はシンデレラを選んだ。
最初は隣国の王女を選ぼうとしてたが、シンデレラからの物理的に愛の攻撃に王子は恋に落ちさせられた王子はシンデレラと末永く幸せに暮らしました……という原作を無視した飛んでもないシンデレラだった。
「「ありがとうございましたー」」
その言葉と同時に拍手が巻き起こる。
時雨も拍手をし、後で蓮に劇の感想を伝えようと思った。
劇が終わったのと同時に文化祭終了まであと十分となった。
伊織は慌てて衣装から制服へと着替える。
時雨も今から教室へと戻らなければいけないので、ここでお別れとなる。
「槙野先輩。今日は本当にありがとうございました」
「俺の方こそ、ありがとう。楽しかったよ」
時雨は伊織へと頭を下げると、教室へと急いだ。
〇◇〇◇〇◇〇
教室へ戻ってきた時雨は理恵を呼び、紙袋を見せる。
伊織は洗って返すと言っていたが、無理矢理奪い取ってきたものだ。
理恵は眉間にシワを寄せて言った。
「で、何が言いたいの?」
「私と槙野先輩の関係、どこまで知ってるの?」
恐る恐る、と言った様子で時雨が尋ねれば理恵はそっぽを向いた。どうやら知らない振りを貫き通すつもりでいるらしい。
「私、理恵ちゃんがよく分からない。冷たかったり優しかったり。中学の時から一緒なんだし……私は仲良くしたいな」
時雨の言葉に理恵は目を見開いた。
そしてフン、と鼻を鳴らした後紙袋を時雨から奪い取り言い放った。
「お断りよ!」
それだけ言うと、理恵は行ってしまった。
一人取り残され、やっぱり嫌われてるなーと思っていると「時雨」と聞き慣れた声に名前を呼ばれ時振り返る。
「あ、蓮。劇見たよ。すごく変わったシンデレラだったね」
そう劇の感想を伝えれば、蓮が心底嫌そうな顔をした。
「見たのかよ……」
「見たよ。蓮、隣国の王女様役。すごく似合ってた」
「嬉しくない」
蓮はそう言うと、大きなため息を吐き、ジーッと時雨を見つめた。
最初はなぜこんなに見られているのか分からなかった時雨だが、気づいた時には遅かった。今、自分はアリスのコスプレをしているのだとようやく思い出した時には時雨の顔は真っ赤に染まり今にも爆発してしまいそうだった。
長年ずっと一緒に過ごしてきた幼なじみにこんな姿を見られるなんて……! と頭の中は一気に恥じらいだらけになる。
「み、見ないで!」
「いや、もう遅いだろ……」
慌てて胸元に腕をクロスさせる時雨。
衣装を隠しているつもりらしいが全く隠れきれていない。
蓮は笑いを堪えているが笑い出すのは時間の問題である。
そんな中、ふと時雨は疑問に思い尋ねた。
「よく私だって分かったよね。鬘も被ってるしクラスの子も私だって分かる人あんまり居なかったのに」
「だって時雨は時雨だし。すぐ分かる」
幼なじみの勘、というやつだろうか?
だとしたら凄いな、と思いつつ時雨は鬘を取った。
正直頭の違和感が半端ではないし、何よりやはり落ち着かない。
「もう辞めるのか、アリス?」
「楽しめたからね」
そう言って笑った時雨の笑顔はとても優しく、甘いもので……思わず蓮は手を伸ばしていた。
頬に触れる蓮の手に、時雨は戸惑った。
「あ、あのさ蓮! き、聞きたいことがあるんだけどいいかな!?」
時雨は敢えて大きな声で言った。
我に帰ったのか蓮が小さく頷く。
「えっと、理恵ちゃん分かる?」
「平城のことだろ。知ってる」
「私、理恵ちゃんに嫌われてて……どうやったら仲良く出来ると思う?」
時雨の言葉に蓮は「え」と驚いた声を上げた後、大きなため息を吐き、うーんと唸った。
「……本当は口止めされてたけど、言う」
「く、口止め?」
一体誰に? と聞こうと思ったが遅かった。
「こらぁ!? 何勝手に話そうとしてんのよ、野崎ぃ!?」
それは突如響いた声……理恵によって阻止されたからだ。
蓮は心底面倒くさそうな顔をした後、大きなため息を吐き言った。
「俺は不器用な誰かの代わりに言ってやろうと思っただけなんだけど?」
「頼んでない!」
「だとしてもだ。仲良くなりたいなら素直に接すればいいじゃん。平城ってツンデレなのか?」
「ツンデレじゃないから!」
目の前で繰り広げる会話に時雨は唖然としていた。
まさか二人に面識があったとは驚きだ。それにこんなに女子と話す蓮を見るのは初めてだし、理恵もまたこうして誰かとしっかり話しているのを見るのは初めてかもしれない
「時雨。平城はお前と友達になりたいんだと。だから仲良くしてやって」
「言ってない!」
「ずっと仲良くなりたいって言ってたじゃんか」
「言ってないからぁ!?」
顔を真っ赤にさせて言う理恵。
全く説得力が無い言葉に思わず時雨は笑った。
まさか理恵にこんな可愛らしい一面があるとは……。
けれど、ギロりと睨みつけられてしまったので直ぐに笑いを堪えた。
「私は……ただヘラヘラしてるあんたが気に食わないだけ! 無理して笑ってやり過ごすあんたが! 私はあんたが大っ嫌いよ!」
理恵はそう言い捨てると、ギロりと伊織を睨みつけ、行ってしまった。
時雨はなぜ自分がここまで罵倒されるのか理由が分からず首を傾げていると蓮が言った。
「ずっと時雨を助けようとしてたんだ、あいつ」
「私を?」
蓮の言葉はあまりにも突然すぎるものだったので更に頭が混乱しそうであった。
けれど突然声を掛けられたり、陽茉莉と空き教室で討論になった際は助けに入ってくれたことを思い出す。そして帽子屋の衣装の件についても。
もしかしたらそれは全て自分を助けようとしてでの行動だったとしたら……?
そう思った瞬間、時雨はある決意を固めた。
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