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しおりを挟む時雨の高校初めての文化祭がが幕を閉じて三日後が経った。
しかし、今度は体育祭があるため、まだまだ収まらない賑やかさの中、 一の一の教室の隅っこでお弁当を持った時雨が理恵へと声を掛けていた。
「理恵ちゃん。お昼、一緒にどうかな?」
「……ほんと何なのよ」
文化祭が終わって以来時雨はこうして理恵をお昼に誘ったりするようになっていた。
「私、決めたんだ。 理恵ちゃんとしっかり向き合って仲良くなろうって」
時雨の言葉が意外だったのか理恵は唖然としていた。そして小さく笑った。
「なんか……本当に変わったね。これは私の予想だけど槙野伊織と仲良くなってからあたりからかな。どう、当たってる?」
ニヤリと微笑む理恵に、時雨は顔を顰めた。
「……やっぱり知ってたんだ」
「まぁね」
隠す気もない様だ。
机をくっ付け、向かい合うように座る。
「どうしてあそこまでしてくれたの?」
「気まぐれ」
そう言うと理恵はサンドイッチを頬張った。
結局理恵の本当の意思が分からないままだったが、どうやら二人の仲を邪魔したい訳では無さそうだ。
時雨もお弁当箱を開き、おかずを頬張る。
「岸田は、さ。何で私と向き合おうって思ったの?」
「……理恵ちゃんと仲良くなりたからかな」
「ナニソレ……」
「本当だよ。せっかく中学も一緒で高校も一緒になったんだから仲良くなりたいなって。理恵ちゃんは私の事嫌いかもしれないけど……」
シュンと項垂れる時雨に理恵は「うっ」と言葉を詰まらせた。
実際、理恵は時雨のことが嫌いな訳では無い。逆に嫌う理由などない。けれど理恵はいわゆるツンデレなのだ。どうしても正直になれないのだ。
───私は、ずっと岸田仲良くなりたかったよ……
中学の頃から肩身の狭そうな時雨を見てきた。
苦しくないのか? といつも思っていた。
助けるつもりがいつも中々上手くいかなかった。
でも、今なら……
「岸田」
素直になれる気がする。
〇◇〇◇〇◇〇◇
あんこの迎えの帰り、通りかかった公園には伊織と藍の姿はなかった。
保育園に藍の姿は既になかったし、ならばもう先に帰ってしまったのだろうか?
時雨は鞄からスマホを取り出し、伊織へとメールを送ろうか迷った。
けど勿論送る勇気などなくて、そのまま家に帰った。
翌日。
偶然職員室で祐希と会った時雨は思い切って聞いて見た。
すると予想もしなかった返事が祐希からは返ってきた。
「槙野の奴、文化祭の日以来学校休んでるんだよ。メールしても返事来ないし、先生は体調不良って言ってるけど……その様子じゃ岸田さんも何も知らないみたいだな」
まさか学校を休んでいるとは思ってもいなかったので、学校内ではスマホ使用禁止にも関わらずトイレに篭ってまで時雨は伊織へと連絡を入れた。
そして放課後。
学校を出た時雨は急いで連絡がきてないかを確認した。
けれど伊織からの返信はきていなかった。
今日もまたあんこと二人で公園の前を通る。
あんこの話によれば藍は保育園に来ているらしい。けど、元気が無く、今にも泣き出してしまいそうなんだとか。
──槙野先輩、大丈夫かな?
不安は募る一方、伊織の行方が分からなくなってから一週間たったある日のことだった。
店の手伝いを終え、自室に戻った時雨だったがスマホに届いたメールを見るなり一目散に家を出た。
メールの主は伊織だった。
内容はたったの『俺は大丈夫だよ』だけだった。
けれどその文字を見た瞬間、時雨は店の制服のまま家を飛び出した。
あまり走るのは得意ではない。
けれど無我夢中で走り続け、時雨は公園へとやってきた。
伊織から届いたメールを見た瞬間、いても経ってもいられなくなった。たった七文字の言葉だったが、そのたった七文字の言葉から『助けて』という悲痛な思いを感じたのだ。
季節は秋となり、肌寒くはなかったものの走ってしまえば話は別だ。
頬に伝う汗を拭うことも忘れ、時雨はいつもの公園へとやって来た。
もう日は落ち始め、辺りはオレンジ色に染まっている。
「見つけた……」
そうポツリと呟くと、時雨はベンチに座りボーッと遠くを見つめる伊織の元へと駆け寄った。伊織は時雨が来たことに気づいていないらしく、まだ遠くを見つめていた。
「槙野先輩」
そう一声掛けると、伊織は我に返ったらしい。
大きく目を見開いた後、乾ききった笑みを浮かべて言った。
「時雨ちゃんは……本当に優しいね」
「先輩だって優しいです」
「……ありがとう。にしても、どうしてここに? あんこちゃんのお迎え……って訳じゃないよね」
伊織は至っていつも通りを装っているようだったが、時雨には今の伊織はあまりにも違和感がありすぎた。
時雨は少しムキになってしまう自分を何とか抑えつつ、話す。
「槙野先輩と連絡が全く取れなくなって心配しました。それにやっと連絡がきたかと思えば、俺は大丈夫。全然大丈夫じゃないですか!」
思わず声を上げてしまった。
抑え込んでいた感情が一気に溢れ出し止まらなくなった。
「私、槙野先輩には笑っていて欲しいんです! 作り笑いじゃなくて、心の底から正直に笑っていて欲しいんです!」
大好きだから。
大好きな人には笑顔でいて欲しいから。
そんな言葉が出て来きそうになり、慌てて飲み込んだ。
まるで自分の事のように一生懸命な時雨に伊織は改めて岸田時雨という人間の優しさと強さを実感した。
「この一週間、母さんの実家に帰ってたんだ。理由は正人さんと母さんの喧嘩が長引いてるせい。ほんと、母さんには振り回されてばかりだよ」
「……仲直りはされたんですか?」
「それがまだなんだよね。このままじゃ離婚するかもって母さんは言ってた」
徐々に小さくなっていく声。
すかさず時雨は伊織へと尋ねた。
「……槙野先輩はどうしたいんですか?」
真っ直ぐ伊織を見つめる時雨の瞳は曇りひとつない。
「もう、離れ離れになるのは嫌だ。それに正人さんの優しさにずっと逃げてた自分も嫌だ。ちゃんと向き合うって決めたんだ」
「じゃあ……槙野先輩がするべき事はもう決まってるじゃないですか」
時雨はそう言うと、伊織の手をそっと握る。
そしてその手を両手で包み込み、白い歯をにっと見せて言った。
「私もずっと将来のことから、友達関係のことから逃げてきました。けど、槙野先輩のおかげで逃げずに向き合えることが出来ました。私に出来たんです。槙野先輩に出来ないわけがありません。だから……お母さんに、お父さんに先輩の気持ちを伝えてみて下さい」
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