絶対に好きにならないと決めたのに。

流雲青人

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 公園へと向かう途中、時雨はばったりとある人物と出くわした。
 それは部活帰りの蓮だった。

 蓮は時雨を見るなり何かを察したのか目を見開く。
 しかし何も言わず、ただ時雨を見ていた。
 そんな蓮を時雨も見つめ返す。
 そうしたら同時に二人は吹き出し、笑いあった。

 「今日は店休みだっけ」

 「うん。だからちょっと寄り道してたんだ」

 「そっか」

 幼なじみとは言っても二人の会話はいつもこんな感じだ。
 特に話すことも無く、かと言って気まずい雰囲気にはあまりならない。
 互いに互いを信頼し合っているからだろうか。

 「急いでるのに引き止めて悪かった」

 「謝る必要なんて無いのに」

 時雨は蓮に見送られ、急いで公園へと向かった。
 こんな時間に伊織が公園に居るとは思えない。しかし、今この胸の高鳴りが収まらないうちにどうしても伊織に伝えたいと思った。

 とは言ったものの、現実はそこまで甘くはなかった。
 公園にたどり着いた時雨だったがもうそこには伊織の姿は無い。
 静まり返った公園で、時雨はベンチではなくブランコに腰を下ろした。
 久々に乗ったブランコはもの寂しげに時雨を乗せ、ゆらゆらと動き出す。

 小さく息を吐き、ブランコから立ち上がった時だった。

 「時雨」

 「お母さん」

 公園の入口の前でひらひらと手を振る母親の姿に驚きつつ、時雨は駆け寄る。

 「どうしてここに?」

 「迎えに来たのよ。遅いし、心配したんだから」

 母親はそう言うと、時雨の頭を優しく撫でた。
 一体何事? と頬を少し赤く染め時雨は思ったが、母親はそんな時雨お構い無しに今度は激しく頭をわしゃわしゃと撫で回した。

 「お、お母さん!?」

 驚く時雨に母親は白い歯をニッと見せて言った。

 「お姉ちゃんは頑張ってるからね。そのご褒美?」

 「ご褒美が頭を撫でるってどういうことなのー!」

 思わず声を上げてしまう時雨に更にわしゃわしゃと頭を撫で回され、やっと開放されたと思いきや今度は頬を引っ張られた。

 「にゃにするの!?」

 「昨日、元気なさそうだったから心配してたんだけどその様子だと大丈夫そうね」

 まさか先程までの行動が自分を元気付けるためのものだとは思っておらず、時雨は驚いた。そして自分はどこまで分かりやすいのだろうと焦ってもいた。

 二人は肩を並べ、家へと向かう。
 こうして一緒に帰るだなんていつぶりだろうか。

 「お母さんね、時雨が家を継ぐって言ってくれた時嬉しかったよ」

 「え……」

 「無理して継がせるつもりはなかった。けどね、貴方から家を継ぎたいって言ってくれた時は私もお父さんもお爺ちゃんもお婆ちゃんも凄く嬉しかったのよ。弱虫な時雨はもう居ないんだって思った。それに何だか寂しい気もしたわ」

 「あのね、お母さん。私に成長する切っ掛けをくれた人がいてね、その人はとても優しくて、私に勇気をくれた人でその人のおかげで私は家を継ぐっていう決心が出来たの」

 「……そう。その人は時雨にとって大切な人なのね」

 ”大切な人”
 その言葉が胸にじーんときた。
 時雨は小さく頷き、小さく笑った。

 
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