君と私の物語 短編集

向こう側のあなた

「再会を祝してかんぱーい」
 東京で仕事をしていた私は地元での仕事で久しぶりに地元に戻ってきていた。そこで私は高校の時の親友と飲みに来ていた。
「やぁーでもあんたが今では国民的女優になるなんてあの頃あいつ以外誰も信じなかったのに凄いよほんと、あっでももちろん私も信じてたよ」
「ふふっ分かってるってありがとうね凜」
 それから過去の思い出話に花を咲かせていると唐突にその話題は現れた。
「で、例の記事のことだけど神楽坂享とはいつ頃から付き合っているの？」
「はぁ？神楽坂さんと付き合ってる、ないない絶対あり得ない私彼のこと俳優としては慕ってるけど恋愛感情とか一切ないよ」
「とぼけないでよほらこれ見て」
 親友の凜は持ってきていたカバンの奥の方から一冊の週刊誌を取り出して私に見せた。その記事には夜の料亭から二人が一緒に出てくるところの写真が納められていた。
「えっこれ何？私知らない」
「じゃあ神楽坂さんと付き合ってないの！」
「う、うん」
「なら早く否定しなきゃ、事務所が本人に確認が取れないって昼間のテレビでもやってたよ」
 自分の折り畳み式ケータイを開くとどうやら充電切れを起こしていたみたいでそのおかげで全く気づかなかったようだ。
「あっ充電切れてる…」
「ハァーこりゃー当の本人が今の今まで知らないわけね」
「えへへへ」
 仕方がないのでマネージャーへの連絡はホテルに戻ってからする事に決めた私は親友との食事を楽しむことにした。
 追加でワインを頼んだ私の手元に新しいワインがグラスに注がれた時凜が溢した一言を私は聞き逃さなかった。
「そのワイン加藤君も好きなの知ってた」
「凜、凜が今言った加藤君って高校三年で一緒のクラスだったあの加藤君」
「そうそう唯一すみれが女優に成れると言ったあの加藤君。最近も同窓会で会った時にあなたの話をしたのよ」
 加藤君その言葉を聞いただけで胸の鼓動が速く脈を打ち顔が火照っているのを私は感じた。
「てまさかすみれ加藤君のことまだ好きだったの…」
「うん……好き」
 少しもじもじしながら恥じるように答えた。
 すると凜は悩むように腕を組み何か考え事をし始めた。
「今でも本当に好きなの？ライクじゃなくてラブ？」
「えぇ間違いなくラブよ」
 私は迷わず即答した。
「仕方ないわね」
 凜はそう言うと鞄から一枚のメモ用紙を取り出すとどこかの住所を書き出した。
「はいこれ加藤君の住所、今すぐ行きなさい」
「えっありがとうでも今から行っていいの」
「親友の恋を応援しない人が何処にいるって言うのよ。それにきっと落ち込んでいるわよ彼だって必ず貴女の恋愛報道は見てるだろうしね。だからさっさと行けすみれそして掴んでこい幸せを」
 「本当にありがとう」
 私はレストランを後にし夜の道をひたすら走った。




 彼の部屋の前まで来ると一度深呼吸を行い息を整えていざインターホンに手をかけた。
「はーい今開けますから待っていて下さい」
 どうやら彼は声のトーンから察するに私のチャイムを宅急便かなにかと勘違いしているように感じられた。
 扉を開けた彼は私が目の前に立っている事実に目をまん丸にして声も出ずにいるようだった。
 そして私の第一声は昔から彼にもう一度会えたら伝えようとしていた言葉を口にした。
「愛しています」