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五話 十年前の思い出
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その日は夏の日の中でもいつにも増して暑い日だった記憶を、十年後の今でも鮮明に思い出せる。
だって亜香里と始めて出会った大切な日だから。
十年前の夏 とある日
陽射しが照りつける真夏の朝から俺は父さんと二人庭の草むしりをして昼過ぎに漸く終わることが出来た。
家の中に戻ってくると母さん特製の冷やし中華が家族の全員分テーブルに並べられており、俺と父さんは早速冷やし中華に手を出し味わって食す。
「そういえばお隣さん今日引っ越しだったみたい。家に戻ってくるとき引っ越し業者の人たちが建ったばかりの隣の家に家具を入れ込んでいるのを見かけたぞ」
「あらそうなの一体どんな方が引っ越してきたのかしらね」
隣の家に引っ越してきた住人について親が想像しているのを端から聞いていただけで特に誰が引っ越してきたかなどまだ七歳になったばかりの俺には興味は無かった。
ただ興味があったのは目の前の食事だけ。
完食し横になろうとした時家のインターホンが鳴り誰かがやって来た。
俺は母さんが立ち上がるより早く玄関へと向かい玄関の戸を真っ先に開けた。
「どうも初めまして隣に引っ越してきました白石麻衣と申します。そして隣にいるのが夫の亮太郎です」
「どうもこんにちは麻衣の夫の白石亮太郎と言います」
「……………………」
玄関前に居たのは、麻衣さんと名乗る見たこともない大人で言葉を失い何も言えなかった。
「あら初めまして私は本堂美佐と申します」
「初めまして本堂さん。これつまらないものですがご家族で召し上がって下さい」
大人の女性が母さんに、大きな包み紙に包まれた箱を手渡されていた。
「ありがとうございます。そちらの女の子はお子さんですか?」
麻衣さんが手を繋いで横に立っていた女の子に母さんは気づき、目線を女の子の高さに合わせる。
「娘の亜香里です」
「初めまして亜香里ちゃん」
「はぢめまちて亜香里、七歳です」
「あら奇遇ね、実は私にも亜香里ちゃんと同い歳の息子がいるのよ。ほらっあきらも自己紹介しなさい」
「どうも本堂あきらです」
「そうだよかったら今夜息子の誕生日を祝って庭でバーベキューをしようと思っていたのですがご一緒にどうですか?」
「そんな家族水入らずの時間をお邪魔するようなこと出来ませんよ」
「別にかまいませんそれに多い方が楽しいですし、白石さんの歓迎会も兼ねてということでやりませんか?」
「そこまで仰るのでしたらお言葉に甘えさせて貰います」
挨拶を終えた白石家は、夕方頃また来ることを告げると隣の家に帰っていった。
同日 午後九時
「ご馳走様でした、いやぁ~バーベキューとても美味しかったです。」
「いえいえ麻衣さんこそ、ケーキやあきらにプレゼントまでありがとうございます」
「そんな、お呼ばれしたのですからこれくらいは当然です。ただ親御さんからの誕生日プレゼントが望遠鏡だなんてあきらくんは余程星を観察するのが好きなのですね」
「ええ。でもなんであんなに星が好きになったのか皆目見当もつきません」
「そうですか?私はなんとなく分かる気がしますよ」
麻衣さんは空を見上げながら今日知り合ったばかりの母さんと楽しく語り合い、すっかり意気投合している。
ただ母さん達がそんなやり取りをしていた事など露知らず、家族から少し離れたところで俺は新品の望遠鏡を使って早速星の観察をしていた。
両親に買って貰っその望遠鏡の素晴らしさに感動しながら。
「ねぇねぇあきら君私にもそれ使わしてよ」
いつの間にか、あの女の子の顔が近づきその距離僅か数センチ。
思いもかけず戸惑いをみせた。
何故なら今日初めて会った女の子白石亜香里と今まで目も合わせることが出来ずにいて、なのにいきなり目が合ってしまってからに他ならない。
実はあまり女子と接したことも無かった為恥ずかしがってしまい、どのように接するのが彼女にとって正しいのか分からずつい避けてしまっていた。
だが彼女はそんなことお構いなく話しかけてくるがその度に視線を合わせないよう今までは逸らして話していた。
急な接近に不意を突かれてしまうと何故だか彼女はとてもキラキラと目を輝かせてコッチを見ている。
「えっ~~~と、いいよ使っても」
「本当に!やったぁ~」
喜びを全身で表現するように飛び跳ねる。
「わぁーきれい。ねぇあきら君星を観察するのってなんだかわくわくするね」
彼女が星を観察している姿を見ていて今まで恥ずかしがってた自分がなんだか情けなく思えてくる。
今度は勇気を持って一歩踏み出してみようと思い立った。
「だろう星を見るのって楽しいんだよ」
「やっと目を合わせてくれた。初めましてあきら君」
俺は頬笑みながら嬉しそうに喋る彼女の姿に見とれてしまった。
それが亜香里との出会いだ。
十月十七日月曜日 午前七時
「懐かしい夢だったな」
奇々怪々な現象が現在進行形の形で起きているせいなのか、幼き日亜香里と初めて会った日の出来事を俺は夢としてみた。
昨日あった出来事が全てまやかしで、今日も今まで通りの普通の日常が続くことを願ったが、そんな陳腐な願いは自分の部屋のベランダに出た時点で呆気なく打ち消された。
今まではそこにあったはずの幼馴染みの自宅しかし今そこは空き地と化していて今は何もない。
部屋のベランダから見える俺が知らない景色は、昨日知らされた話が真実であり、本当のことだとの現実を俺に突きつけてくる。
落ち込む心情を表に出さないよう平常心を心がけ、一階のリビングに降りるとそこにはいつもの光景が広がっていた。
テーブルには朝食が並べられており、自分が通っている中学校の制服に着替え朝食を食べている唯とキッチンで調理器具を念入りに洗っている母さんの姿があった。
「おにぃおはよう昨日はよく眠れた?」
咥えていたパンを、食器の上に置き降りてリビングに入ってきた俺に一言質問する。
「ああばっちり眠れたよ。ところでその格好、唯は通常通り学校があるんだな」
母さんの話から、俺の高校は未だに政府関係者が調査しているとのことで、休校が決まっていると聞いていたが唯の中学校は制服に着替えている辺りあるみたいだ、
「そうだよ、おにぃと違って私は学校があるの。私も学校休みたぃー」
「こらっ唯早く朝食済ませなさい。そろそろ出ないと学校に間に合わないんじゃないの」
「は~い。そしたら行ってくるね」
唯は床に置いていた通学用鞄を手に取るとリビングから退出した。
「あきらは今日どうするの?学校も無いみたいだし」
「午後から恭子ちゃん家に行く予定」
「そう、体の方はもう大丈夫?」
「ほらっ平気だよ」
腕を大きく回して見せ元気な姿をアピールすると安堵の表情を浮かべた。
同日 午後一時
権兵衛と恭子の二人は恭子の部屋にいた。
それは権兵衛があきらと約束した時刻よりも一時間も早い集合だ。
「あれあきらは一緒じゃなかったの?」
恭子は何故あきらが来てないのか、不審に思う。
あきらには自分から明日の集合については連絡すると事前に連絡を貰っていたからであり、てっきりあきらは権兵衛と二人で来るものだと勝手に認識していた為であった。
「いや恭子ちゃんと先に話したいことがあってわざと集合時間をずらして教えたんだ。それと哲平にも連絡を入れていたが来られないと返事がきたからあいつは来ないぞ」
「そう。それで私と話したい事って何?」
「恭子ちゃんには少し酷な話になるかもしれないが最後までしっかり聞いてくれ」
「酷な話?」
「あぁ」
昨日の夕方頃あきらの母親の美佐さんから権兵衛のもとに一本の電話があった。
そこで現在のあきらの状態について教えられたことを権兵衛は恭子に伝えた。
「そんなことってある、悲しすぎるよ。なんであきらばっかり…………。変な形で亜香里のこと思い出すなんて、やっと克服出来たって言うのに」
恭子は悲壮感を覚え、この展開を生み出した落ちてきた彗星に憎しみを持つ。
「それでだがあきらには亜香里の事を聞かれても、アイツが落ち着くまではシラを通し続ける。白石亜香里はいなかったそれでいいか?」
「それがあきらの為になるの……」
「医者の話だと今のあきらに伝えればどんな反応を起こすか分からない。伝えることで変な気を起こしかねないとまで言われたそうだ」
だって亜香里と始めて出会った大切な日だから。
十年前の夏 とある日
陽射しが照りつける真夏の朝から俺は父さんと二人庭の草むしりをして昼過ぎに漸く終わることが出来た。
家の中に戻ってくると母さん特製の冷やし中華が家族の全員分テーブルに並べられており、俺と父さんは早速冷やし中華に手を出し味わって食す。
「そういえばお隣さん今日引っ越しだったみたい。家に戻ってくるとき引っ越し業者の人たちが建ったばかりの隣の家に家具を入れ込んでいるのを見かけたぞ」
「あらそうなの一体どんな方が引っ越してきたのかしらね」
隣の家に引っ越してきた住人について親が想像しているのを端から聞いていただけで特に誰が引っ越してきたかなどまだ七歳になったばかりの俺には興味は無かった。
ただ興味があったのは目の前の食事だけ。
完食し横になろうとした時家のインターホンが鳴り誰かがやって来た。
俺は母さんが立ち上がるより早く玄関へと向かい玄関の戸を真っ先に開けた。
「どうも初めまして隣に引っ越してきました白石麻衣と申します。そして隣にいるのが夫の亮太郎です」
「どうもこんにちは麻衣の夫の白石亮太郎と言います」
「……………………」
玄関前に居たのは、麻衣さんと名乗る見たこともない大人で言葉を失い何も言えなかった。
「あら初めまして私は本堂美佐と申します」
「初めまして本堂さん。これつまらないものですがご家族で召し上がって下さい」
大人の女性が母さんに、大きな包み紙に包まれた箱を手渡されていた。
「ありがとうございます。そちらの女の子はお子さんですか?」
麻衣さんが手を繋いで横に立っていた女の子に母さんは気づき、目線を女の子の高さに合わせる。
「娘の亜香里です」
「初めまして亜香里ちゃん」
「はぢめまちて亜香里、七歳です」
「あら奇遇ね、実は私にも亜香里ちゃんと同い歳の息子がいるのよ。ほらっあきらも自己紹介しなさい」
「どうも本堂あきらです」
「そうだよかったら今夜息子の誕生日を祝って庭でバーベキューをしようと思っていたのですがご一緒にどうですか?」
「そんな家族水入らずの時間をお邪魔するようなこと出来ませんよ」
「別にかまいませんそれに多い方が楽しいですし、白石さんの歓迎会も兼ねてということでやりませんか?」
「そこまで仰るのでしたらお言葉に甘えさせて貰います」
挨拶を終えた白石家は、夕方頃また来ることを告げると隣の家に帰っていった。
同日 午後九時
「ご馳走様でした、いやぁ~バーベキューとても美味しかったです。」
「いえいえ麻衣さんこそ、ケーキやあきらにプレゼントまでありがとうございます」
「そんな、お呼ばれしたのですからこれくらいは当然です。ただ親御さんからの誕生日プレゼントが望遠鏡だなんてあきらくんは余程星を観察するのが好きなのですね」
「ええ。でもなんであんなに星が好きになったのか皆目見当もつきません」
「そうですか?私はなんとなく分かる気がしますよ」
麻衣さんは空を見上げながら今日知り合ったばかりの母さんと楽しく語り合い、すっかり意気投合している。
ただ母さん達がそんなやり取りをしていた事など露知らず、家族から少し離れたところで俺は新品の望遠鏡を使って早速星の観察をしていた。
両親に買って貰っその望遠鏡の素晴らしさに感動しながら。
「ねぇねぇあきら君私にもそれ使わしてよ」
いつの間にか、あの女の子の顔が近づきその距離僅か数センチ。
思いもかけず戸惑いをみせた。
何故なら今日初めて会った女の子白石亜香里と今まで目も合わせることが出来ずにいて、なのにいきなり目が合ってしまってからに他ならない。
実はあまり女子と接したことも無かった為恥ずかしがってしまい、どのように接するのが彼女にとって正しいのか分からずつい避けてしまっていた。
だが彼女はそんなことお構いなく話しかけてくるがその度に視線を合わせないよう今までは逸らして話していた。
急な接近に不意を突かれてしまうと何故だか彼女はとてもキラキラと目を輝かせてコッチを見ている。
「えっ~~~と、いいよ使っても」
「本当に!やったぁ~」
喜びを全身で表現するように飛び跳ねる。
「わぁーきれい。ねぇあきら君星を観察するのってなんだかわくわくするね」
彼女が星を観察している姿を見ていて今まで恥ずかしがってた自分がなんだか情けなく思えてくる。
今度は勇気を持って一歩踏み出してみようと思い立った。
「だろう星を見るのって楽しいんだよ」
「やっと目を合わせてくれた。初めましてあきら君」
俺は頬笑みながら嬉しそうに喋る彼女の姿に見とれてしまった。
それが亜香里との出会いだ。
十月十七日月曜日 午前七時
「懐かしい夢だったな」
奇々怪々な現象が現在進行形の形で起きているせいなのか、幼き日亜香里と初めて会った日の出来事を俺は夢としてみた。
昨日あった出来事が全てまやかしで、今日も今まで通りの普通の日常が続くことを願ったが、そんな陳腐な願いは自分の部屋のベランダに出た時点で呆気なく打ち消された。
今まではそこにあったはずの幼馴染みの自宅しかし今そこは空き地と化していて今は何もない。
部屋のベランダから見える俺が知らない景色は、昨日知らされた話が真実であり、本当のことだとの現実を俺に突きつけてくる。
落ち込む心情を表に出さないよう平常心を心がけ、一階のリビングに降りるとそこにはいつもの光景が広がっていた。
テーブルには朝食が並べられており、自分が通っている中学校の制服に着替え朝食を食べている唯とキッチンで調理器具を念入りに洗っている母さんの姿があった。
「おにぃおはよう昨日はよく眠れた?」
咥えていたパンを、食器の上に置き降りてリビングに入ってきた俺に一言質問する。
「ああばっちり眠れたよ。ところでその格好、唯は通常通り学校があるんだな」
母さんの話から、俺の高校は未だに政府関係者が調査しているとのことで、休校が決まっていると聞いていたが唯の中学校は制服に着替えている辺りあるみたいだ、
「そうだよ、おにぃと違って私は学校があるの。私も学校休みたぃー」
「こらっ唯早く朝食済ませなさい。そろそろ出ないと学校に間に合わないんじゃないの」
「は~い。そしたら行ってくるね」
唯は床に置いていた通学用鞄を手に取るとリビングから退出した。
「あきらは今日どうするの?学校も無いみたいだし」
「午後から恭子ちゃん家に行く予定」
「そう、体の方はもう大丈夫?」
「ほらっ平気だよ」
腕を大きく回して見せ元気な姿をアピールすると安堵の表情を浮かべた。
同日 午後一時
権兵衛と恭子の二人は恭子の部屋にいた。
それは権兵衛があきらと約束した時刻よりも一時間も早い集合だ。
「あれあきらは一緒じゃなかったの?」
恭子は何故あきらが来てないのか、不審に思う。
あきらには自分から明日の集合については連絡すると事前に連絡を貰っていたからであり、てっきりあきらは権兵衛と二人で来るものだと勝手に認識していた為であった。
「いや恭子ちゃんと先に話したいことがあってわざと集合時間をずらして教えたんだ。それと哲平にも連絡を入れていたが来られないと返事がきたからあいつは来ないぞ」
「そう。それで私と話したい事って何?」
「恭子ちゃんには少し酷な話になるかもしれないが最後までしっかり聞いてくれ」
「酷な話?」
「あぁ」
昨日の夕方頃あきらの母親の美佐さんから権兵衛のもとに一本の電話があった。
そこで現在のあきらの状態について教えられたことを権兵衛は恭子に伝えた。
「そんなことってある、悲しすぎるよ。なんであきらばっかり…………。変な形で亜香里のこと思い出すなんて、やっと克服出来たって言うのに」
恭子は悲壮感を覚え、この展開を生み出した落ちてきた彗星に憎しみを持つ。
「それでだがあきらには亜香里の事を聞かれても、アイツが落ち着くまではシラを通し続ける。白石亜香里はいなかったそれでいいか?」
「それがあきらの為になるの……」
「医者の話だと今のあきらに伝えればどんな反応を起こすか分からない。伝えることで変な気を起こしかねないとまで言われたそうだ」
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