21 / 24
二十一話 サヨナラの日常
しおりを挟む
安全エリアの地下には、何台もの車が列になって並んでいた。
どうしてここまでの設備が備わっている家を、個人が保有しているのか柿さんの存在が謎過ぎる。
だがその事には誰も触れる気配はない。
「そこの二台を使ってください。どちらも馬力はありますし、銃弾防止の加工も済んでいます」
「銃弾って物騒ですね」
「管理局は、そこまで本気ってわけです。まぁ俺が電子銃を盗んだのも原因の一つですけどね」
そう言って彼が、ひけらかす銃は近未来を舞台にした映画に出てきそうな最先端の武器に思えた。
「自衛のためとはいえ素人に銃を渡すわけにもいかないので、お二人にはこれを」
「これは?」
「警棒みたいに見えますけど、取っ手のところにある赤いボタンを押せば電力が流れます。それを当てれば、相手は気絶しますのでその間に逃げてください」
「分かりました」
「では、これからは二手に分かれます。俺は囮となって管理局を惹き付けますのでその隙に深緑山へ向かってください」
「何故深緑山へ?」
「俺もよく聞かされてないんですがそのポイントが、彼を元の世界に帰せる場所だからだそうです。ただその前にこの場所に寄ってください」
街外れの倉庫群の一角より離れた何もない山道が地図に記されていた。
「ここは?」
「説明不足でしたね。その場所は哲平君たち、協力者との合流場所です。彼らと共に目的地へ向かってください、じゃないと帰すことが出来ませんので」
「分かりました」
納得した暮人の隣にいた、勘九郎に車の鍵を放り投げ、勘九郎は反射的にのけ反ってしまったが鍵は落とさなかった。
「勘九郎さんはトラック、運転出来ますよね」
「あぁ免許は取ってるぞ」
「なら安心です。あれ使ってください。それとウィングの開閉ボタンは中にありますので、機材を搬入する際は使ってくれと阿笠博士に伝えてます」
最後一方的に用件だけを伝えると自分は別の車に先に地上への坂を駆け上っていく。
そして柿さんが示す中型トラックは地下駐車場の奥にひっそりと止まっていた。
何を最後言っていたのか皆がちんぷんかんぷんだったが、仕事の関係でトラックに乗り慣れている勘九郎だけは理解していた。
トラックの後方、バンボディ部分の両側面が開く箇所その部分を柿はウィングと呼んだのだと。
「じゃ出発するぞ」
勘九郎だけが運転席に乗り込み、助手席には誰も乗せない方針で、残りの深緑山に向かうメンバーは本来荷物を詰め込む目的で使われるバンボディに乗車していく。
「あきら!」
呼び止められ振り返ると、俺に声をかけたのは母さんであった。
いや正確にはもう一人の母さんか。
「さっきはごめんなさいあんな態度を取ってしまって。あなたは私の息子に変わりないのにね」
母さんの優しい温もりが、伝わってくる。
俺が別の世界の住人だと知ってから、顕著に避けたのは母さんだっただけに戸惑う。
だが仕方ないことなんだと割り切り、必要以上こちらから近づこうとはしなかった。
「ぜっっっっったいに!自分のしたいことを貫きなさい。そして二度と私の前に現れないで頂戴ね」
一見すれば突き放す物言いは、これから起こる騒動のことを考えると少しだけ弱気になっていた自分の心を激しく奮い立たせてくれる力強い言葉だ。
「必ず約束する」
「なんかさ別の世界の人だって言われても私にとっておにぃはおにぃ。だからね格好いいおにぃは、きっと何でも出来るファイトだよ」
「じゃあな唯」
別れの挨拶に、妹の髪をくしゃくしゃになるぐらいに撫で唯は照れくさそうにはにかんだ。
俺のためにこの怒濤の数日を共にしてくれた家族に対して、感謝の念に尽きる。
「もぉ~やめてよおにぃ」
「さようなら、俺のもう一つの家族……」
これ以上は時間をかけられなく出発する。
「メールは送ったんだろうな静香!」
「勿論でもまさか尾けられていたとは誤算だったわ。油断するんじゃなかった」
廃倉庫の扉を半開きにして外の様子を窺うと、静香たちを追って彼女らを捕まえに来たメンバーが目視で確認できるだけで約十人ほど見受けられた。
だが近づいては決して来ない。
と言うのも、近づく奴らには扉の前で中に入るのを防ぐため昌一郎と静香が用意していた電子銃を使って牽制し続けたためである。
そして今の膠着状態へとなった。
「親父まだか?」
「もう少しかかる。なんとか堪えてくれ」
「今は大丈夫だが、物量で押されれば一溜りもない。急いでくれ」
切羽詰まった鬼気迫る思いで訴える。
そんななか建物の奥では、阿笠博士が亜香里に道具を用いてなにやら計測をしていた。
「えっとぉ……阿笠さん、これ何ですか?」
「数値を測っている」
「はぁ……」
さっぱり理解できない。
昌一郎さんに案内され、阿笠博士と対面するとおじいさんはいきなり私の身体に謎の道具を近づけては離しまた近づけといった要領で繰り返しモニターとにらめっこしていた。
「きたぞっ!」
阿笠博士が雄叫びを上げると、今まで赤い色を示し続けたモニターの数値が青く移り変わる。
「これで固定すれば、よし完成だ」
キーボードに触れ、モニター画面に『適合100%』と文字が表示されるとエンターキーを渾身の思いで押した。
するとパソコンの横に置いてあった装置に備え付けていた手のひらで持てる小さな筒状の物体の先端が光り輝く。
「こちらの用意は充分だ。哲平二人に伝えてきてくれ。嬢ちゃんはこっちを手伝ってくれ」
壁に張り付いていた冷蔵庫を、二人がかりで横にずらすと下へと続くドアがお目見えし、軋ませる音と共に地下へと降りる梯子が現れた。
「ふぅ~んこれで脱出するわけね」
「あれっ静香さん早くないですか?」
「あ~あれは昌一郎に任せているから、問題ないでしょ」
呑気に静香さんが、私見を述べていると身体をビクつかせるほど大きな銃声が表から聞こえてきた。
「大変です。あの人たち実弾を使って僕たちを殺す気でいますっ!」
哲平君が慌てて駆け寄り、緊迫した思いで状況が転じたことを伝える。
「三人は先に。私は昌一郎の加勢に戻ります」
再び電子銃を武器に去っていく静香さんの後ろ姿を、見送りつつも二人の行動を意味の無いものにしないためにも前に私は進んだ。
どうしてここまでの設備が備わっている家を、個人が保有しているのか柿さんの存在が謎過ぎる。
だがその事には誰も触れる気配はない。
「そこの二台を使ってください。どちらも馬力はありますし、銃弾防止の加工も済んでいます」
「銃弾って物騒ですね」
「管理局は、そこまで本気ってわけです。まぁ俺が電子銃を盗んだのも原因の一つですけどね」
そう言って彼が、ひけらかす銃は近未来を舞台にした映画に出てきそうな最先端の武器に思えた。
「自衛のためとはいえ素人に銃を渡すわけにもいかないので、お二人にはこれを」
「これは?」
「警棒みたいに見えますけど、取っ手のところにある赤いボタンを押せば電力が流れます。それを当てれば、相手は気絶しますのでその間に逃げてください」
「分かりました」
「では、これからは二手に分かれます。俺は囮となって管理局を惹き付けますのでその隙に深緑山へ向かってください」
「何故深緑山へ?」
「俺もよく聞かされてないんですがそのポイントが、彼を元の世界に帰せる場所だからだそうです。ただその前にこの場所に寄ってください」
街外れの倉庫群の一角より離れた何もない山道が地図に記されていた。
「ここは?」
「説明不足でしたね。その場所は哲平君たち、協力者との合流場所です。彼らと共に目的地へ向かってください、じゃないと帰すことが出来ませんので」
「分かりました」
納得した暮人の隣にいた、勘九郎に車の鍵を放り投げ、勘九郎は反射的にのけ反ってしまったが鍵は落とさなかった。
「勘九郎さんはトラック、運転出来ますよね」
「あぁ免許は取ってるぞ」
「なら安心です。あれ使ってください。それとウィングの開閉ボタンは中にありますので、機材を搬入する際は使ってくれと阿笠博士に伝えてます」
最後一方的に用件だけを伝えると自分は別の車に先に地上への坂を駆け上っていく。
そして柿さんが示す中型トラックは地下駐車場の奥にひっそりと止まっていた。
何を最後言っていたのか皆がちんぷんかんぷんだったが、仕事の関係でトラックに乗り慣れている勘九郎だけは理解していた。
トラックの後方、バンボディ部分の両側面が開く箇所その部分を柿はウィングと呼んだのだと。
「じゃ出発するぞ」
勘九郎だけが運転席に乗り込み、助手席には誰も乗せない方針で、残りの深緑山に向かうメンバーは本来荷物を詰め込む目的で使われるバンボディに乗車していく。
「あきら!」
呼び止められ振り返ると、俺に声をかけたのは母さんであった。
いや正確にはもう一人の母さんか。
「さっきはごめんなさいあんな態度を取ってしまって。あなたは私の息子に変わりないのにね」
母さんの優しい温もりが、伝わってくる。
俺が別の世界の住人だと知ってから、顕著に避けたのは母さんだっただけに戸惑う。
だが仕方ないことなんだと割り切り、必要以上こちらから近づこうとはしなかった。
「ぜっっっっったいに!自分のしたいことを貫きなさい。そして二度と私の前に現れないで頂戴ね」
一見すれば突き放す物言いは、これから起こる騒動のことを考えると少しだけ弱気になっていた自分の心を激しく奮い立たせてくれる力強い言葉だ。
「必ず約束する」
「なんかさ別の世界の人だって言われても私にとっておにぃはおにぃ。だからね格好いいおにぃは、きっと何でも出来るファイトだよ」
「じゃあな唯」
別れの挨拶に、妹の髪をくしゃくしゃになるぐらいに撫で唯は照れくさそうにはにかんだ。
俺のためにこの怒濤の数日を共にしてくれた家族に対して、感謝の念に尽きる。
「もぉ~やめてよおにぃ」
「さようなら、俺のもう一つの家族……」
これ以上は時間をかけられなく出発する。
「メールは送ったんだろうな静香!」
「勿論でもまさか尾けられていたとは誤算だったわ。油断するんじゃなかった」
廃倉庫の扉を半開きにして外の様子を窺うと、静香たちを追って彼女らを捕まえに来たメンバーが目視で確認できるだけで約十人ほど見受けられた。
だが近づいては決して来ない。
と言うのも、近づく奴らには扉の前で中に入るのを防ぐため昌一郎と静香が用意していた電子銃を使って牽制し続けたためである。
そして今の膠着状態へとなった。
「親父まだか?」
「もう少しかかる。なんとか堪えてくれ」
「今は大丈夫だが、物量で押されれば一溜りもない。急いでくれ」
切羽詰まった鬼気迫る思いで訴える。
そんななか建物の奥では、阿笠博士が亜香里に道具を用いてなにやら計測をしていた。
「えっとぉ……阿笠さん、これ何ですか?」
「数値を測っている」
「はぁ……」
さっぱり理解できない。
昌一郎さんに案内され、阿笠博士と対面するとおじいさんはいきなり私の身体に謎の道具を近づけては離しまた近づけといった要領で繰り返しモニターとにらめっこしていた。
「きたぞっ!」
阿笠博士が雄叫びを上げると、今まで赤い色を示し続けたモニターの数値が青く移り変わる。
「これで固定すれば、よし完成だ」
キーボードに触れ、モニター画面に『適合100%』と文字が表示されるとエンターキーを渾身の思いで押した。
するとパソコンの横に置いてあった装置に備え付けていた手のひらで持てる小さな筒状の物体の先端が光り輝く。
「こちらの用意は充分だ。哲平二人に伝えてきてくれ。嬢ちゃんはこっちを手伝ってくれ」
壁に張り付いていた冷蔵庫を、二人がかりで横にずらすと下へと続くドアがお目見えし、軋ませる音と共に地下へと降りる梯子が現れた。
「ふぅ~んこれで脱出するわけね」
「あれっ静香さん早くないですか?」
「あ~あれは昌一郎に任せているから、問題ないでしょ」
呑気に静香さんが、私見を述べていると身体をビクつかせるほど大きな銃声が表から聞こえてきた。
「大変です。あの人たち実弾を使って僕たちを殺す気でいますっ!」
哲平君が慌てて駆け寄り、緊迫した思いで状況が転じたことを伝える。
「三人は先に。私は昌一郎の加勢に戻ります」
再び電子銃を武器に去っていく静香さんの後ろ姿を、見送りつつも二人の行動を意味の無いものにしないためにも前に私は進んだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる