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二十二話 地下通路
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廃倉庫にあった古びた梯子を降るとそこには、よくテレビで観る「廃坑」を特集する番組の中でしか登場しないような薄気味悪い世界へと、哲平と亜香里は阿笠博士の手によって誘われた。
地下通路には、天井にオレンジ色の灯りが一定の間隔ごとに設置されていて、それだけが道を照らす唯一の道具でこの電球が切れたら本当に暗黒に視界が包まれるだろうと考えるだけで震えが止まらなくなりそうで、嫌な考えを頭から排除しようと私は思考する。
ただそれが逆に余計な考えを生む。
「これは私がもしもの為に用意した地下通路だ。と言っても昔まだこの地域で鉄鉱石が採れていた時代に掘られた坑道じゃがな。但し安心せい、しっかりと中はワシが管理しておるし、あの電球もごく最近換えたばかりじゃ」
そんな私に阿笠博士は優しい言葉で語りかけてくれる。
「どこへ向かっているんですか阿笠博士。このまま出ても、いずれ追い付かれてしまうのでは?」
「そこも抜かりはない。先程、静香さんにメールを柿くんへ送ってもらうようにお願いしておいた。そのメールにこの坑道の出口の位置も添付し、そこで合流すると伝えておいたから問題はないはず」
地下通路は、とても入り組んでいてまるで迷路であったが阿笠博士は出口までの道のりを把握しており迷うことなく突き進む。
「ねぇ哲平君、この世界で私は死んでいるらしいみたいだけど、こっちのあきらは私が死んだあとはどうだった?」
「そりゃ~悲しんだよ。あきらくんだけでなく、僕や権ちゃんそして恭子ちゃんも。皆が悲しんだ」
「だよね……」
静香さんの運転で、廃倉庫に現れた私を出迎えた哲平は瓜二つで自分が足をつけるこの大地が別の世界とは正直信じられなかった。
なので普段接するように、彼に声をかけると向こうは最初辿々しく挨拶をされ漸く、今の自分と彼の間には壁があるのだと理解し、私が生きた世界ではないのだと痛感させられた。
だとすれば、当然次に気になったことは私が死んだあとのことだ。
聞くチャンスは幾らでもあったはずなのに、知ることの恐怖が勝り聞けずにいた。
しかし今を逃せば、一生訪れないかもと思うと聞かずにはいられなかった。
「それでもこの数年で、皆前を向いて歩き始めた。君の死を乗り越えてね。勿論それはあきらくんも例外じゃないよ」
「あきらも乗り越えられていたんだ」
「よかった……」
それは心からの安堵だった。
誰にも、それこそ幼なじみである恭子ちゃんにすら教えてはいなかったが、私はあきらのことを愛している。
この気持ちがいつ芽生えたモノなのか、それは自分でも分からない、ただ彼を愛し好きであることに偽りはない。
だから今でも悲しみ、下を向いているようなら私が一喝してやろうと思った。
一秒でも早く前を向いて、幸せな人生を送って欲しい。ただそれだけの理由だけ……。
「あと、彼は今恭子ちゃんとお付き合いしているよ」
「ほほぉ~そうですか。なるほどなるほど」
「あぁ二人とも仲睦まじくて、見ているこっちが恥ずかしくなるくらいさ」
何がなるほどなんだと、この場にこちらの世界のあきらが居たら言っただろうなと哲平は心の中でクスりと笑う。
自然とニヤケ面を浮かべる目の前の少女に、最初抱いていた疑心感は払拭されていて会話を弾ませる。
「きゃっ!」
暗闇を照らす灯りが全て突然消えてしまい、視界が零になる。
話をしていて距離も近かったお互いの顔すら見えず不安に駆られてしまいそうになる。
「落ち着け」
先導していた阿笠博士がスマートフォンのライトを起動して、周囲の視界を確保する。
「阿笠さんの嘘つきっ!何が管理しているですか……。肝心な時に消えちゃったら意味無いですよね」
「いや、これは違う。おそらくは昌一郎が電源を落としたのだろう?」
怯えから変に声色が上がってしまうのが分かる自らの問いに、阿笠博士は冷静な態度ではあったものの何故か疑問系で答えた。
「二人に地下通路の道筋は、事前に教えてある。ここからはワシの推測になるが、昌一郎たちは地上ではこれ以上守れないと判断し逃げるために地下へ降り、追っ手から逃れるために電源を落としたのだろう。ワシらも急ぐぞ」
スマートフォンのライト一つだけで、道を照らし出し足元も正直おぼつかなかったが行進速度は上がって急ぎ足になり地下通路から抜け出すべく動いていく。
その間、先程みたいに会話を交わすことはなかった。
徐々にライトの光度が上がったのか、周りの景色が見えるようになってくる。
ただその認識はすぐに改めることとなる。
明るくなった要因は、外から差す陽射しによるものだったのだ。
出口の先に、人影が映った。
逆光で顔は分からなかったが、身長は凡そ哲平と同じくらいだ。
「まさかっ!先回りされて」
阿笠博士が一抹の不安を吐露したが……。
私には違うと確信していた。
そして、
「亜香里ぃぃぃ~」
その声に反応し心が浮き足立つ。
なんて情けない顔してるんだろあきらは。
私と再会した彼の表情は涙で隠れ、ブサイク丸出しだ。
目覚めてから今に至るまで怒濤で、途轍もなく濃い数時間を過ごしたが彼に会えただけで疲れが吹き飛ぶ。
「変なあきら。よっぽど私に会いたかったのね」
そんな喜びは胸の内に秘め、ついあきらの前で素っ気ない態度を取ってしまう自分が恥ずかしい。
「ああ会いたかったよ」
素直な言葉が必死に取り繕うとする私の心に揺さぶりをかけてくる。
「本当に亜香里ちゃんなんだ…………」
あきらに夢中で、声をかけられるまで気づきもしなかったが恭子ちゃんや権ちゃんまでもがその場にいた。
こうして大宮高校天文部の学生は、彗星が落下して気絶してから始めて全員が合流を果たすことが出来た。
そのなかには、交通事故で死に別れを済ませたはずの幼なじみの一人白石亜香里を含めるというなんとも奇っ怪な事象とともに。
「実弾なんて、アリかよ。こっちには亜香里ちゃんが居るっていうのに……」
「けど」
「居ないよね」、静香がその言葉を続けるよりも早く、昌一郎が遮る。
「バカ、伏せろっ!」
静香の頭上スレスレを銃弾が掠めとる。
廃倉庫の壁には銃弾の痕で、ぼろぼろになり隙間から押し寄せる人の波が手に取るように分かった。
ただその間も絶え間なく続く銃弾の雨に、昌一郎と静香は身を屈みただ耐えることしか出来ない。
「諦めて出てきたらどうだ二人とも。そこにはもう裏切者の君たちしか居ないのは分かっているんだぞ」
突然銃撃の音が止むと、外から東城の声が響き、誰かの足音が室内に入る。
そぉ~と頭を半分だけ身を隠していたソファから乗り出すとそこには案の定、東城が拳銃を片手に立っていた。
奴はにこやかにこちらを覗くだけで、不気味さが漂う。
「静香、耳を貸してくれ」
昌一郎は、浮かんだ疑念の答えを解く術を自分の彼女に託し、大人しくソファの前に出る道を選んだ。
向き合う両者は、互いに自分が持つ電子銃と拳銃の銃口を相手に向けるがその引き金に手をかけることはない。
「お前は、どうして裏切った?」
「間違っていると感じたからです。それに俺はあの二人を元の世界に帰したいただそれだけです」
「相容れぬか、お前は相葉さんのお気に入りだったから殺したくはなかったがな」
「静香も殺すつもりか……」
「まぁそれは事故とでも処理しておこう。娘さんはとても可愛がっていたからな」
昌一郎には死の終わりという予感は皆無。
何故なら彼女を信じているから。その為に少しでも時間をかけようと粘る。
二人の男による話のやり取りは終わりを告げた。
それは一筋の銃声によるもので、対峙する二人の間に小型ドローンが落下する。
「シャァ~やったわよ昌一郎!」
「ナイスっ。ほらっこれでも受け取れぇー」
昌一郎は隠し持っていま煙幕玉を地面に、叩きつけ視界を煙幕で覆うと静香の手を掴み地下通路へと続く縦穴前まで来ると先に彼女を行かせる。
そして昌一郎は、時間稼ぎのためにも地上と地下通路を繋ぐ扉をこちら側から鍵をかけ下へと降っていく。
地下通路には、天井にオレンジ色の灯りが一定の間隔ごとに設置されていて、それだけが道を照らす唯一の道具でこの電球が切れたら本当に暗黒に視界が包まれるだろうと考えるだけで震えが止まらなくなりそうで、嫌な考えを頭から排除しようと私は思考する。
ただそれが逆に余計な考えを生む。
「これは私がもしもの為に用意した地下通路だ。と言っても昔まだこの地域で鉄鉱石が採れていた時代に掘られた坑道じゃがな。但し安心せい、しっかりと中はワシが管理しておるし、あの電球もごく最近換えたばかりじゃ」
そんな私に阿笠博士は優しい言葉で語りかけてくれる。
「どこへ向かっているんですか阿笠博士。このまま出ても、いずれ追い付かれてしまうのでは?」
「そこも抜かりはない。先程、静香さんにメールを柿くんへ送ってもらうようにお願いしておいた。そのメールにこの坑道の出口の位置も添付し、そこで合流すると伝えておいたから問題はないはず」
地下通路は、とても入り組んでいてまるで迷路であったが阿笠博士は出口までの道のりを把握しており迷うことなく突き進む。
「ねぇ哲平君、この世界で私は死んでいるらしいみたいだけど、こっちのあきらは私が死んだあとはどうだった?」
「そりゃ~悲しんだよ。あきらくんだけでなく、僕や権ちゃんそして恭子ちゃんも。皆が悲しんだ」
「だよね……」
静香さんの運転で、廃倉庫に現れた私を出迎えた哲平は瓜二つで自分が足をつけるこの大地が別の世界とは正直信じられなかった。
なので普段接するように、彼に声をかけると向こうは最初辿々しく挨拶をされ漸く、今の自分と彼の間には壁があるのだと理解し、私が生きた世界ではないのだと痛感させられた。
だとすれば、当然次に気になったことは私が死んだあとのことだ。
聞くチャンスは幾らでもあったはずなのに、知ることの恐怖が勝り聞けずにいた。
しかし今を逃せば、一生訪れないかもと思うと聞かずにはいられなかった。
「それでもこの数年で、皆前を向いて歩き始めた。君の死を乗り越えてね。勿論それはあきらくんも例外じゃないよ」
「あきらも乗り越えられていたんだ」
「よかった……」
それは心からの安堵だった。
誰にも、それこそ幼なじみである恭子ちゃんにすら教えてはいなかったが、私はあきらのことを愛している。
この気持ちがいつ芽生えたモノなのか、それは自分でも分からない、ただ彼を愛し好きであることに偽りはない。
だから今でも悲しみ、下を向いているようなら私が一喝してやろうと思った。
一秒でも早く前を向いて、幸せな人生を送って欲しい。ただそれだけの理由だけ……。
「あと、彼は今恭子ちゃんとお付き合いしているよ」
「ほほぉ~そうですか。なるほどなるほど」
「あぁ二人とも仲睦まじくて、見ているこっちが恥ずかしくなるくらいさ」
何がなるほどなんだと、この場にこちらの世界のあきらが居たら言っただろうなと哲平は心の中でクスりと笑う。
自然とニヤケ面を浮かべる目の前の少女に、最初抱いていた疑心感は払拭されていて会話を弾ませる。
「きゃっ!」
暗闇を照らす灯りが全て突然消えてしまい、視界が零になる。
話をしていて距離も近かったお互いの顔すら見えず不安に駆られてしまいそうになる。
「落ち着け」
先導していた阿笠博士がスマートフォンのライトを起動して、周囲の視界を確保する。
「阿笠さんの嘘つきっ!何が管理しているですか……。肝心な時に消えちゃったら意味無いですよね」
「いや、これは違う。おそらくは昌一郎が電源を落としたのだろう?」
怯えから変に声色が上がってしまうのが分かる自らの問いに、阿笠博士は冷静な態度ではあったものの何故か疑問系で答えた。
「二人に地下通路の道筋は、事前に教えてある。ここからはワシの推測になるが、昌一郎たちは地上ではこれ以上守れないと判断し逃げるために地下へ降り、追っ手から逃れるために電源を落としたのだろう。ワシらも急ぐぞ」
スマートフォンのライト一つだけで、道を照らし出し足元も正直おぼつかなかったが行進速度は上がって急ぎ足になり地下通路から抜け出すべく動いていく。
その間、先程みたいに会話を交わすことはなかった。
徐々にライトの光度が上がったのか、周りの景色が見えるようになってくる。
ただその認識はすぐに改めることとなる。
明るくなった要因は、外から差す陽射しによるものだったのだ。
出口の先に、人影が映った。
逆光で顔は分からなかったが、身長は凡そ哲平と同じくらいだ。
「まさかっ!先回りされて」
阿笠博士が一抹の不安を吐露したが……。
私には違うと確信していた。
そして、
「亜香里ぃぃぃ~」
その声に反応し心が浮き足立つ。
なんて情けない顔してるんだろあきらは。
私と再会した彼の表情は涙で隠れ、ブサイク丸出しだ。
目覚めてから今に至るまで怒濤で、途轍もなく濃い数時間を過ごしたが彼に会えただけで疲れが吹き飛ぶ。
「変なあきら。よっぽど私に会いたかったのね」
そんな喜びは胸の内に秘め、ついあきらの前で素っ気ない態度を取ってしまう自分が恥ずかしい。
「ああ会いたかったよ」
素直な言葉が必死に取り繕うとする私の心に揺さぶりをかけてくる。
「本当に亜香里ちゃんなんだ…………」
あきらに夢中で、声をかけられるまで気づきもしなかったが恭子ちゃんや権ちゃんまでもがその場にいた。
こうして大宮高校天文部の学生は、彗星が落下して気絶してから始めて全員が合流を果たすことが出来た。
そのなかには、交通事故で死に別れを済ませたはずの幼なじみの一人白石亜香里を含めるというなんとも奇っ怪な事象とともに。
「実弾なんて、アリかよ。こっちには亜香里ちゃんが居るっていうのに……」
「けど」
「居ないよね」、静香がその言葉を続けるよりも早く、昌一郎が遮る。
「バカ、伏せろっ!」
静香の頭上スレスレを銃弾が掠めとる。
廃倉庫の壁には銃弾の痕で、ぼろぼろになり隙間から押し寄せる人の波が手に取るように分かった。
ただその間も絶え間なく続く銃弾の雨に、昌一郎と静香は身を屈みただ耐えることしか出来ない。
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そぉ~と頭を半分だけ身を隠していたソファから乗り出すとそこには案の定、東城が拳銃を片手に立っていた。
奴はにこやかにこちらを覗くだけで、不気味さが漂う。
「静香、耳を貸してくれ」
昌一郎は、浮かんだ疑念の答えを解く術を自分の彼女に託し、大人しくソファの前に出る道を選んだ。
向き合う両者は、互いに自分が持つ電子銃と拳銃の銃口を相手に向けるがその引き金に手をかけることはない。
「お前は、どうして裏切った?」
「間違っていると感じたからです。それに俺はあの二人を元の世界に帰したいただそれだけです」
「相容れぬか、お前は相葉さんのお気に入りだったから殺したくはなかったがな」
「静香も殺すつもりか……」
「まぁそれは事故とでも処理しておこう。娘さんはとても可愛がっていたからな」
昌一郎には死の終わりという予感は皆無。
何故なら彼女を信じているから。その為に少しでも時間をかけようと粘る。
二人の男による話のやり取りは終わりを告げた。
それは一筋の銃声によるもので、対峙する二人の間に小型ドローンが落下する。
「シャァ~やったわよ昌一郎!」
「ナイスっ。ほらっこれでも受け取れぇー」
昌一郎は隠し持っていま煙幕玉を地面に、叩きつけ視界を煙幕で覆うと静香の手を掴み地下通路へと続く縦穴前まで来ると先に彼女を行かせる。
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