君に逢えるまで~星の降る街~

GIO

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二十四話 二人のあきら

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「じゃ準備を始めるぞ」

 阿笠博士はそう言って、粒子変換器を起動する。
 瞬間周りに光の粒が可視化してこの世とは思えない光景が広がっていき、その光が筒の中へと吸い込まれていく。

「これでようやく」

 昌一郎さんが、ようやく安堵の声を洩らすとどこからともなく武器を所持した集団が現れ虚を突かれた俺たちは成す術もないまま地面に座らせられる。

「どうしてここが?」

 武装集団の正体は俺と亜香里を付け狙う「マントル」であり、その二大リーダー相葉秋と内藤修二と俺は初対面を迎え、俺は逃げ切ったはずの彼らがどうしてここに待ち構えていたのかその真相が気になって仕方ない。
 その気持ちを代弁するかのように昌一郎さんが、彼の上司に問うた。

「それはアレさ」

 指差す方向には何もないように思えたが、耳を研ぎ澄ませば違った見え方がするものだ。
 モーターの駆動音とともに、ドローン特有のプロペラが回る音が自然と聞こえてくる。
 そして視界に小型のドローンが浮遊しているのが目についた。

「このドローンにはターゲットを追尾する機能が備わっていて、昌一郎くんらの後ろをずっと尾行し続け道案内をしてくれたのさ」

 昌一郎と静香は、そのドローンが廃倉庫で目にした物と同一の機種であることに勘づくが、あの場ではあれ一台だけだと誤認してしまったからこそ今に至るわけで、自分たちの不甲斐なさを痛感させられる。

「お父さんっ!どうしてこんなことするの」
「静香お前は分かってくれるものだとばかり思っていたよ」
「分かるわけないでしょ。こんな非道、子供たちのことを思えば許せない」 
「ふん。お前には分からないのか。今この国は、いくら努力したところで大国には敵わない地位に置かれている。このままでは大国に良いカモ扱いで衰退の一途を辿るのは明確だ。ならばその前にこの国を世界の長に据える、その道が今目の前に転がっているんだぞ!」
「そんなこと間違っているわ」

 父親が垂れる言葉に、静香は吐き気がする。
 優しく誰にでも愛情を持ち分け隔て無く接してきた父親とは思えない言葉の暴挙に、これまでは父親が関わっていると聞かされてもなお疑念が完全には払拭出来ていない彼女には父親が別人にしか見えなかった。

「まぁまぁ相葉さんもそれくらいにしませんか。久しぶりだな阿笠」
「ワシの方は二度と見たくなかった顔だがな内藤」
「そうつれないことは言わないのが花だと分からないよな阿笠は」
「なにを綺麗事を抜かすか!」

 相葉の側に立ちこちらを見てはニヤケが収まらない様子を顕著に態度に出す内藤を前に阿笠博士は、過去の因縁から二人の間での対立は深く険しい表情をしていた。
 
「おぉ~怖い怖い。でもあんたも身動きがとれないと肩落としだな」

 顔を寄せ、内藤が阿笠博士に近づくと、咄嗟に懐にしまい込んだ粒子変換器を手探りで見つけ自らの手中に収めた。

「これが粒子変換器ですか。こんな小さな物が我々の希望とは誰も予想できませんね」
「それを返せ!それはこの子達を帰すために必要なものなんじゃ!」

 阿笠博士の必死の抵抗も虚しく、俺と亜香里を元の世界に帰すために必要なアイテムが彼らの手に渡る。
 
「いやでも惜しいことをしたな阿笠。あなたに我々と同じ意思さえあれば後世に語り継がれたものを」
「お前の場合、世紀の悪党としてしか残らないだろうがな」

 挑発した阿笠博士に内藤が一発を頬に喰らわせ、青アザと口元からの出血という結果をもたらせる。
 それでも阿笠博士が、微笑を止めることはなく……

「戯れ言を吹聴するしか脳がないやつめ」
「静香、お母さんには悪いがこの国のためだ。真実を知るものはここで殺す。それはお前も例外ではない」

 実弾が込められた銃口が、静香に向けられてしまう。
 相葉が銃を構えると、残りの「マントル」メンバーも哲平たちみんなを射殺すべく銃口を頭に当てる。
 その様子を黙って眺めることしか出来ない自分が悔しくて堪らなかった。

「最後に一つだけ聞かせてくれ。昌一郎」

 部下であり、娘の愛した男に最後の質問をすべくもう一度彼の顔を見る。

「柿大地はどこへ姿を眩ませた?」
「はっ?」

 緊迫した空気をぶち壊そうかと言えるほど、ついつい間抜けな声を出してしまった。
 なにせ連絡がないために既に捕まってしまったとばかり思っていた友の行方知れずは流石の昌一郎でも想定外で消えた彼の所在を知る者は、この場に居ないことが判明した。
 そう今はまだ現れていないに過ぎず……。
 彼は頼もしい助っ人たちとともに、参上するまであと十秒…。



「さっ助けますか」
「ありがとうございます。柿さんのおかげで亜香里を、もう一人の俺を元の世界に送れます」
「なぁ~に、俺の方こそお前さんのおかげで頑固なこいつらを動かせた。感謝してるんだぜ小僧」

 柿の隣には、隠れ家で別れた少年と瓜二つの別人が立ち、彼らの後ろに構えるようにして完全武装した集団が突入の合図を隊のリーダーから与えられるのを待つ。

「悪かったな頑固で。大地」
「曙さん聞こえてましたか」
「あぁお前の右隣にいるんでな。しかし本当にこの規模を動かせるだけの証拠を揃えるとは、よくやったな。これで亮の墓に参りに行ける」

 そこに居ない亡き友の名を隊長が口走ると、大地と武装した集団の中何も持たずただの高校生である場違いな少年は苦い顔をする。
 そしてそれは柿も同じだ。
 一人は、幼馴染みの父親である名を。
 もう一人は、職場の先輩として。
 曙隊長は、二人の思いと似た感情を持つ。それでも国の組織を監視する立場・・・・・・としてはどこかに肩入れすべきではなく推測だけでは動けず今まで「マントル」の存在を掴めなかった。
 そして柿大地は国家安全管理局に所属する以前、曙がいる組織に属していた。
 そのときの上司こそ白石亮。亜香里の父親である。
 だから柿は、死の真相を追い死の間際まで上司が独断で調査していた秘密組織があると目されたいた国家安全監理局へと潜入した。

「んじゃそろそろ行くぞ」

 曙隊長が、右手を軽く挙げ突入の合図を後方に送った。
 そして腕を振り下ろし、一斉に動く。

「そこまでだ。管理局!我々は警視庁特務公安部零課、大人しくそこに跪け」



 一体何が起きたのか、俺は思考が追い付かないでいた。
 今暫くまで捕らわれ、哲平たちが殺されようかとの瀬戸際だったはずなのに、柿さんが引き連れてきた集団の介入により立場が反転した。

零課・・が動くなんて、何をしたんだ柿?」

 周りの様子に相当困惑した表情で訴えかける昌一郎さんの姿に、助けてくれた彼らが何者なのか気になってつい目で追ってしまう。
 そんな彼らは、俺の目線の先で俺らを襲った「マントル」に対して手錠をかけて拘束作業を淡々と行っている。

「まぁまぁそれよりも先に感動の対面と行こうぜ」
「えっなんでここに……」

 最初に気づいたのは恭子ちゃんだった。
 そして俺は自分の目を疑う。
 恭子ちゃんは柿さんの話の最中に現れた本堂あきら・・・・・目掛けて一直線に飛びかかりハグしたのである。

「うっ苦しいって恭子」
「本当にあきらなのよね。どうしてこの場所にいるの?」
「それはこれだよ」

 そう言ってもう一人の俺が取り出したのは、内藤から取り返し今は阿笠博士の手にある二つの粒子変換器とは別の粒子変換器だった。

「ちょっと貸してくれないか?」
「いいですよ阿笠博士」
「これは、向こう側のワシが作った発明品だな」

 一目見ただけで、確信していた。
 心血を注ぎ込み完成させた粒子変換器と、同一の物を作れるものは自分しかいないのだと。

「正解です阿笠博士。二人が帰るのに必要な粒子が蓄積されるまでまだ時間もありますし、俺が辿った経緯を説明します」
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