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12 真貴side
しおりを挟む初めてそいつを見たのは入学式だった。
生徒会の馬鹿が微量のグレアを出しているのに気づいて会場を見渡した時だ。
遠目から新入生が1人、体を抱くようにして身を縮めているのが見えた。軽く舌打ちをする。あの生徒はきっとSubなんだろう。馬鹿のグレアにあてられたか。スピーチを中断させてもいいが恐らく乱闘になる。馬鹿は素直に人の注意を聞かないからだ。そうなれば余計にグレアを止められなくなるかもしれない。逆にあの生徒をここから連れ出すのが最善か。いや、俺が行けば必要以上に目立ってしまう。誰かすぐに動けるやつを探そうにも近くに人がいない。
仕方なく自分で動こうとすると、馬鹿のスピーチは終わった。
馬鹿が壇上からおりると少し良くなったようで顔を上げたのが見えた。顔色はやはり悪い。自然と表情が険しくなるのがわかった。何も出来なかったことに申し訳なさを感じる。後で生徒会長は殴っておこう。
スピーチのために壇上に上がると会場がよく見える。気分が悪くなった生徒は他にも数人いたようだ。さっとその顔を確認する。今のグレアで具合が悪くなったのならとても敏感なSubなんだろう。風紀で注意して見ておく必要がある。
学園の頂点に立つくせにマナー違反の馬鹿に苛々する気持ちを静める。ここで俺までグレアを出すわけにはいかない。
「…風紀委員長の藤堂です。新入生、入学おめでとう…」
入学式の後。昼食を取りに食堂へ向かった。ちょうど昼時で食堂には人が溢れている。混雑している真っ最中に行くのは好きじゃないが、今日は友人に誘われてしまったから仕方ない。いつもは断るのだが、朝スピーチ原稿を書きながら生返事してしまったのだ。
あぁ、ほら視線や声がうるさい。
食堂に入ると喧騒が俺を包んだ。もう慣れたものだが、鬱陶しいことには変わりない。外には出さないように、だが内心うんざりしながら注文を済ませて席につく。
ふっと視線をあげると一人の生徒と一瞬視線がかち合った。慌てたように視線をそらしたその生徒は入学式でグレアにあてられた新入生だった。へぇ、と思わず感心の声が漏れた。入学式では顔はわからなかったが今見るととても整っている。少し目にかかるくらいのさらさらした黒髪。猫のように少し目尻が上がった、だが大きな目。淡く色づいた薄い唇。小さな輪郭に見事なパーツが完璧に並んでいる。
俺の視線の先に気づいたのか俺をこんな場所に誘った友人、風紀副委員長があぁと声を上げた。
「あの子!今噂の子じゃーん」
「噂?」
「そそ!めっちゃ美形の新入生って話題の」
「この学園のやつはそんな話題しか話せないのか」
「まき嫌味ー!それ真貴がちょーイケメンだから言えることだからね!」
「絶対そんなことねぇよ…それであいつ名前は?」
「えーと確か木南灯李だったかな」
「…お前あいつ注意しとけよ」
「りょー」
この学園で美形を見慣れた俺でも目を見張るほどの端正さ。
だがこの学園でその顔立ちは厄介事を呼び込むアイテムだ。
しかもあいつはSub。
何事もなければいいがきっとそういうわけにはいかないんだろう。自然とひとつため息が落ちた。
『俺をひざまづかせられるのは極上のDomだけだ』
グレアに負けず、真っ直ぐに目を合わせて毅然と断ったその表情に目を奪われた。
凛と気高く、何者にも屈しないその華奢な姿に思わず見惚れた。
何を言ったかは解らなかった。たがその表情や、馬鹿の反応でそいつが要求を撥ね付けたのだとわかった。
お前は“極上”のDomではないのだと、俺のDomにはなり得ないのだと宣言しているようなその表情が、姿がやけに目に焼き付いた。
まるでそいつはこの場の王だった。
木南灯李は予想に違わず、厄介事を引き寄せた。
生徒会長が衆人環視の中でやらかしたのに舌打ちする。騒ぎにしやがってあの馬鹿が。風紀が収拾しないといけなくなった。
これであいつが生徒会長に言い寄られていることも、そしてあいつがそれを断ったことも校内に知れ渡る。それが一般生徒にとってどれだけ迷惑なことか分かっていないのか。
でも校内の王様を差し置いてこの場の空気を作り替えた、Subの王に思わず口角が上がる。
あぁ、なぜだか気分がいい。
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