ラブミーノイジー

せんりお

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一昨日は机に入れてあった教科書がなくなり、昨日は提出したはずの課題が未提出になっていた。今日は朝から机に落書き。さっきのホームルームではプリントが回ってこず、取りに行く羽目になった。あー…ほんっとにちまちまちまと

『うっとうしいんだよ!』

チッと舌打ちすると木島が笑う。
騒動からしばらくたったが、生徒会長からはその後何もない。脅してきたり、話しかけてきたりすることもあるかと覚悟していたが、拍子抜けだ。風紀が絞ってくれたのが応えているのか、それとも他の何かがあるのか。何もないのはいいことだが、どうもあいつのイメージと結び付かず不穏さを感じてしまう。まあ、その代わりと言ってはなんだが小学生のようなイジメというのも馬鹿らしい嫌がらせが続く日々だ。だがこれが地味に鬱陶しい。

「最早いたずらだな。まあお前をイライラさせるという目的は達成されてるけど」

『それでいいのかあいつらは。もっと怖がらせなくて何の意味があるんだ』

「被害者に言われてりゃ世話ないわな」

また木島がくつくつと笑う。それに蹴りを繰り出すと最小限の動きで避けられた。
それを見て周りの生徒がびくついている。こんなじゃれ合いくらいで怖がるのなら止めとけよと思いつつ、今度は拳を打ち出す。それを手のひらでパシッと止めて、木島が俺の肩を掴んだ。そしてくるりと向きを変えられる。

「ほら、お迎えだぞ」

廊下の向こうから歩いてくるのは風紀委員長だった。俺に気づいた委員長が軽く片手を挙げて、ひらひらと振った。ぺこりと会釈しつつ、俺は自分が少し浮き足立つのを感じた。

風紀は相変わらず俺に護衛をつけてくれている。嫌がらせがこの程度ならもういいんじゃないかと思うけれど、安心して気が緩んだ時ほどまずいことが起こりやすいと、もうしばらくこのままやってくれるそうだ。
風紀委員長もわりと護衛についてくれている。俺はその委員長の番を密かに楽しみにしている。

「お疲れ」

「お疲れ様っす」

『お疲れ様です。いつもありがとうございます』

「ん。木島は部活か?」

「はい。行ってきます」

俺と一緒にいるせいで木島もすっかり風紀の面々と顔見知りだ。委員長とも気安げに話している。
木島は同じ楽器好きの人たちとセッションしたり、曲について語り合うという趣旨の部活に入っているらしい。軽音部とはまた違うそうで、明確な名前はない。ほとんど愛好会だそうだ。

木島が去っていくのを見送って、委員長を見上げると、目が合った委員長がにやっと笑った。

「さ、行くか」

その言葉にそわそわしながら頷く。
委員長が来てくれた時だけ行ける場所があるのだ。
それは図書室。何度か護衛をしてもらう内に、お互い読書が趣味だということがわかった。本の感想を言い合ったり、お勧めの本を教えあったりしていると、読む本の範囲が似ていることも分かりとても話が弾んだ。その結果、委員長が放課後のお迎えに来てくれたときは一緒に図書室に連れていってくれるようになった。
ただでさえ余計な仕事を増やしているのにそんなことまでさせてしまい申し訳なく思っていたが、委員長的にもこの時間を楽しんでくれているらしく、「合法的に委員会をサボれる、かつここまで本の話が通じるやつは他にいないから嬉しい」と言ってくれた。それからこの時間は俺の楽しみなのだ。

委員長と行くのは第二図書室。新しい本がたくさんある第一図書室は人がたくさんいるが、古い本しかないここには誰もいない。そのおかげで気兼ねなく過ごすことが出来る。その上、古いが書店ではあまり見かけないマニアックな本や、今や絶版になってしまっている本、海外の本などが揃っていて、俺にとっては宝の山だった。



「すまん、今日は30分くらいしか居られない」

委員長は今日はこの後会議があるらしい。つまらなそうに眉を寄せる表情に少し笑う。端正すぎて人間味のない顔だと思っていたが、意外とこの人は表情豊かだ。

全然大丈夫だという意を込めて、ぶんぶん頷くと委員長は笑った。そして手近な席に座り本を読み始める。俺は本棚へ向かった。第二図書室はとても広く、何列も棚がある。この全てに本が詰まっていると思うとわくわくする。

「また面白い本見つけたら教えてくれ」

後ろからかかった声に振り返り、頷いて応えた。

つくなりすぐに宝探しをするため、棚の間に吸い込まれていく俺と、目当ての本をすぐに見つけ読書に没頭する委員長。本に埋もれて流れる静かな時間がとても心地いい。この時間は俺の大好きな時間でもあり、そして――――苦痛な時間でもあった。


本を渡したときに言われる「ありがとう」
お勧めの本を渡したときの「ありがとう」
時間に追われる委員長を心配したときに言われた「ありがとう」
お礼を言われる度に体が温かくなり、心がふわふわする。
最初は不思議に思っていたけれど、何度も続けばこの現象の正体は明らかだった。
Sub性だ。Domにほめられると嬉しい、なんて当にそれだ。
俺は委員長にほめられることにSubとして喜んでいる。
気づいた時、俺は怖かった。あんなことがあったくせに、俺の体はまだDomを求めている。Domになんて従うものかと決めたのに体は俺を裏切る。
何より委員長に申し訳なかった。何気ないはずの一言がこんな意味で取られているなんて思ってもみないだろう。委員長の優しさを汚している気がして、そんな自分の浅ましさに吐き気がした。
委員長との楽しい時間をも汚している気がして、苦しい。

でもこの時間を手放すことは出来なかった。それほどに俺は委員長と話す時間を気に入ってしまっていた。
どうしたらいいのか分からない。
ただ楽しくて、そして、ただ苦しい。


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