ラブミーノイジー

せんりお

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夏休みに入った学校はとても静かだ。
ほとんどの生徒が家に帰ったようで、学校に残っているのは部活の大会が残っている人たちが多いようだ。
そんな静かな環境で俺は悠々自適な夏休みライフを送っている。課題は1週間以内に終わらせたし、あとは好きなことをして過ごすだけ。毎日図書室に通っている。
入学してから強制的にほとんど誰かと一緒に過ごしてきたから、一人で歩く校内はなんだか新鮮に感じる。
部活動の声が遠くから響く中、暑い廊下を抜けて図書室のドアを開ける。いつもの第二図書室。一歩入ればむわっと熱気に包まれた。誰も来ないここは、空気の入れ替わりがなくとても暑い。冷房をつけてもすぐに涼しくはならない空気に堪らず窓を開ける。勿体ないけれど暑さで死ぬよりはマシだろう。
本棚から抜き出した一冊を持って、風の通る席に座る。ここは俺の特等席だ。静かな空間は読書に最適で、俺はすぐに物語の世界に沈んだ。


ふっと意識が浮上すると、辺りは薄暗くなっていた。いつの間にか夕方になっている。随分集中していたんだな、と内心苦笑しながら顔をあげると、そこにはイケメンがいた。驚きすぎてびくっと肩が揺れる、どころか椅子がガタッと鳴った。そんな俺を見て目の前の人物はしてやったりというように笑っている。

『委員長!?いつからそこに?』

「いや?ついさっき来たばかりだ。本を返そうと思って来たら木南がいたから少し話そうかと」

『声かけてくださいよ…』

「随分集中してたみたいだからな」

楽しそうに笑う委員長を睨む。本当にびっくりした。心臓がまだバクバクしている。気が付かなかった俺も俺だが。

「あと、お勧めしてもらった本が読めたから感想を伝えに来たっていう目的もある」

『読んでくれたんですね!ありがとうございます!どうでしたか?』

「ダイナミクスがない世界、というのが斬新で面白かったな。社会の仕組みが全然変わる」

『ですよね!俺もその設定が好きなんですよ!なんていうか…みんな、こう…自由、ですよね』

「……わかる気がする。縛られる物が1つ少ない、のかもな」

『そう!そうなんですよ!』

共感を得られたことが嬉しくてつい前のめりになる。ダイナミクスのない世界。DomだとかSubだとか、そんなものに囚われない世界。もしそんな世界があったらそれはきっと素晴らしく自由だ。
喜々として本の感想を語る俺を笑って見ていた委員長が、ふっとその笑みを消した。少し俺から目をそらして、そしてまた戻ってくる。なんだか暗い色が乗っているようで少し戸惑う。

「木南は……ダイナミクスのある世界とない世界、選べるとしたらどっちを選ぶ?」

『そんなの決まってるじゃないですか。ダイナミクスなんて煩わしいものない方がいい』

言い切ってから、はたと不安になる。俺はそう思っているけれど、もしかして委員長は違うんだろうか。本に目を落とした委員長は、そっと表紙を撫でる。印字されたタイトルをなぞって、そしてまた顔をあげる。

「そうだな。俺もそう思うよ」

その言葉にほっとする。でも、どこか寂しさを孕んだような笑みが目に焼き付いてしばらく離れなかった。
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