白い猫と白い騎士

せんりお

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39 思い合う気持ち

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いつになく真剣な顔のレオンさんにシグさんと顔を見合わせる。

「レオン?話ってなんだ?」

「…最近リツカの魔法の特訓してるでしょ。でもそのペースが尋常じゃない」

いきなり本題に入ったレオンさんの声色は表情と同じく固い。いつもまっすぐに向かってくる目線が今日は下にある。

「どうしてそんなに急ぐ必要があるの?」

シグさんの表情がぐっと引き締まった。
私たちはその質問に答える訳にはいかない。私たちが急いでいるのは聖域に行くため。真実を早く知りたいから。でも聖域に行くなんて危険なことを人に話すわけにはいかない。

『レオンには言わないぞ。知ったら一緒に行くと言うに決まってる』

『うん』

私が返事をしたのと同時にシグさんが口を開く。するとレオンさんがそれを遮るかのように声を発した。

「聞き方を変えようか?」

「は?」

俯いていたレオンさんがゆっくりと顔を上げた。

「どこに行こうとしてるの?」

『え…なんで』

シグさんと私にぴたりと向けた目は揺るがない。シグさんと肩を並べて団を率いている副隊長の鋭い目。シグさんも隣ですっと息を吸い込んだ。

「何か目的がないとこんなに急いで訓練はやらない。ましてやシグがそんなことするはずがない。それに加えて何か準備してるよね、シグ?」

「…お前は誤魔化せないとは思ってた」

「はぁー、思ってたなら言ってよ。普段は絶対に必要ない魔石とか、治癒用のポーションとか集めてたのバレバレなんだよ?」

空気が緩む。シグさんとレオンさんがそれぞれの雰囲気がいつものものになった。

『リツカ、レオンには話すけどいいか?』

シグさんに聞かれたけど返事は言うまでもない。尻尾をぱたっと一回振るとシグさんがふっと笑った。

「レオン、俺たちは聖域に行く」

「…は?」

シグさんがなんの前置きもなしに言った行き先にレオンさんが唖然としている。

「い、いやいやいや無理でしょ!無理!だって聖域に辿り着くまでには魔の森を抜けないといけないんだよ?無傷では絶対に通れないよ!」

「戦闘が必要なことはもちろん覚悟してる。そのためのリツカの訓練だ」

「ばっかじゃないの!?いくらリツカが聖獣だからって二人で突破しようなんて」

「だがやるしかない」

「なんでそんなに…!」

「真実を知るためだ」

シグさんのその言葉にレオンさんが目を見開いて言葉を飲んだ。シグさんの声には覚悟がこもっている。簡単に流すことは出来ない。

『レオンさん、私は本当のことを知りたいんです。私はなぜここにいるのか。聖域はなぜ魔の森に囲まれて存在するのか。…青の民の歴史の真実も』

「リツカ…」

「そういう訳だ。知らないままで過ごしてきた真実をリツカがいる今なら知れるかもしれない」

レオンさんは黙ってまた俯いてしまった。
レオンさんの綺麗な薄氷のような青い目が隠れてしまう。レオンさんも第8部隊。つまりは青の民なんだろう。

「…それなら俺も行くよ」

「は?」

『え?』

「それなら俺も聖域に一緒に行く。他の団員たちもそう言うはずだよ」

シグさんと顔を見合わせる。やっぱりレオンさんならそう言うよね。

「危険だ」

「二人だけの方がもっと危ないよ」

「被害は最小限に押さえられる」

「バカなの?俺たちのことを知るために行くんでしょ!危険を二人だけに押しつけて待ってろって言うの!?」

「だが」

「うるさい!俺も行く!」

レオンさんの剣幕にシグさんが押されている。俺も行くと言い切ったレオンさんはもう揺るがない気がする。
シグさんも同じように思ったのだろう。
レオンさんの目が私たちを捉えて離さない。シグさんがふーっと息を吐いた。

「わかった。だが条件がある」

「一応聞くよ」

「俺たち隊長と副隊長の二人共が任務でもないのにここを長期的に空けるわけにはいかない。お前は森の入り口までだ。夜までに戻らなかったらお前は帰れ」

「…わかったよ。なら他の行きたいって言う隊員を連れて行って。これが俺からの条件」

「はぁー…わかった」

二人とも納得はしていないけど理解はしたという表情で頷いた。 
お互いに立場がある。お互いに想いがある。
危険なことなんかシグさんも、レオンさんもわかっている。でもお互いが無事であるように、少しでも降りかかる危険からお互いを守れるように、思いあった末のラインがここなんだ。
レオンさんを心配させちゃいけない。
私がシグさんを無事に魔の森から帰すんだ。



決行まで後3日しかない。その間で私は強くならないと。

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