白い猫と白い騎士

せんりお

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誰にも答えてもらえない疑問をにゃーにゃーというか最早ぎゃーぎゃー喚いていたら「うるさい」とシグさんに怒られた。確かに反響する風呂場で騒いだのはごめんって思ってるけど、でも! 

混乱している私をシグさんはごしごし洗っていく。石鹸でちゃんと洗ってくれて全身泡だらけだ。最後にざぁーっとお湯をかけられる。この「お湯」っていうのも疑問だ。なんであったかいの?
よし終わり、とシグさんがお湯を止めた。全身ずぶ濡れで無意識にぶるぶるっと体を震わせて水気を飛ばす。

「うわっ、お前やめろって」

「にゃー(あ、ごめんなさい)」

シグさんがタオルで体を拭いてくれる。なんだか至れり尽くせりで、レオンさんが言っていた動物好きっていうのは本当なんだなーと思う。
しっかり水気を拭き取ってもらって毛はすっかり乾いてふわっと立ち上がる。これまた無意識に体を舐めて軽く毛繕いしてしまった。そうしてからシグさんを見るとなぜか目を丸くして私を見ていた。無表情じゃない顔が珍しい。

「…お前そんなきれいな毛並みしてたのか。雪みたいだな」

「にゃー(どういうこと?)」

首を傾げる。そういや私、自分の姿ちゃんと見たことなったっけ。
お風呂場にあった鏡で自分を映してみる。

そこには灰色猫ではなく、雪のように真っ白な毛色の猫が映っていた。ほっそりとしなやかな体つき。子猫と成猫の間くらいだろうか。短毛種で、毛並みはつやつやしている。目は明るい緑色だ。

めっちゃ可愛い猫じゃん!え、これ私?私が人間なら即撫で回していたような猫だ。この綺麗な猫の姿だけは神様に感謝してもいい。

シグさんが手を伸ばしてきて優しく私を撫でた。その手が気持ちいい。ごろごろと喉がなる。はっとしたようにシグさんは私から手を放した。それを名残惜しく思う。

「…いつまで風呂場にいるんだ。行くぞ」

シグさんが歩き出すのに私はとことことついていった。

シグさんは上着を部屋に置いてあった洋服ダンスにかけてからソファに腰を下ろした。私もその横に飛び乗ってみる。何か言われるかなと思ったけど一瞬こちらに視線を向けただけで何も言われなかったのでそのまま腰を落ち付けた。

「お前なんであんなとこにいたんだ?名前はあるのか?」

おもむろにシグさんが話しかけてくる。

「…つっても猫に言葉なんか理解できるわけねぇか」

「にゃあ(理解はしてるんだけどねー)」

「…結局あれからあの魔力は出さず、か」

「にゃん(魔力?なにそれ?)」

シグさんは私に何か聞きたいことがたくさんあるらしい。私にも教えてほしいことがたくさんある。
なんとかして意志疎通できないものかなー

その時机の上の書類が目に入った。
あっ、この手があった!

ソファから机に飛び移る。突然動いた私にシグさんは驚いたようだがそのまま私の動きを見守ってくれるようだ。

私は積まれていた書類の一番上にあったものをくわえてひきずり下ろす。山を少し崩してしまったけど許してほしい。
ざっと目を通すと、ところどころわからない単語があるものの、どうやら文字は問題なく読めるらしい。言葉もわかっているし文字も読めるとはありがたい。
そのまま読み進めて、目当ての文字を見つけた。それを前足で押さえる。字が小さすぎて隠れてしまうので爪を出してピンポイントで押さえることにした。そしてシグさんをみて「にゃー」と鳴く。シグさんは怪訝そうな表情でこちらを見ている。

とんとんと前足を書類を叩くように動かす。そうしてシグさんを見つめてもう1度「にゃー」と鳴いてみる。

シグさんはしばらく考えていたがあっ、というような顔をした。

「まさか、お前…文字が…?」

「にゃう」

と返事をするように鳴いてみる。
驚き顔のままシグさんが書類を覗きこんでくる。

「これは…リ…?」

「にゃう」

次にツを押さえる。

「ツ、か。…リツ?」

急いで次の文字を探すが見つからなかったので違う書類を引っ張ってきて探す。

「カ。リツカ?」

「にゃお!」

どうやら3つともわかってくれたようだ。

「リツカってなんだ?…まさかお前の名前なのか?」

「にゃー!」

そうだよ!と言わんばかりに大きな声で鳴くと、嘘だろ…文字どころか、返事するってことは言葉も理解してるじゃねえか…と額に手をあててソファの背もたれに倒れこんでしまった。

まあ、猫が文字を理解してる上に言葉もなんて誰でもびっくりするどころじゃすまないほどの衝撃だよね。私だったら完全にホラーだって思うわ。ごめんなさい、シグさん。でもまだまだ伝えたいことと聞きたいことあるんだけどな…





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