恋するように、歌うように

せんりお

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Calando 〔和らいで〕

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2人で曲を練習して、食事を取る。そんな簡単なルーティンに1つ、新たなことが加わった。
それは奏始と何をするでもなく同じ空間で過ごすこと。ダラダラと他愛ないことを喋ったり、それぞれに本を読んだり、時には恋人らしい触れ合いをしたり。新鮮で、でも違和感なく馴染む空気が真尋は気に入っている。

「なあ、これっていつまでかかる?」

「んー、2ヶ月くらいか?」

「穴あけたくせに適当」

真尋の足の間に座って、背をこちらに預けてくる奏始の耳には青い石が瞬いている。開けたばかりの穴が気になるのか、細く長い指がしきりにそこに触れる。
あの締まらない告白大会の後、真尋がピアッサーで穴を作ったのだ。何かを贈ろうと思ったのは、ただ独占欲からだった。自分にしかわからなくていい。でも目に見えて、奏始が自分のものであるという証をつけておきたかった。あわよくば、奏始がそれに触れたとき自分を思い出すように。

「俺、動物園って行ったことないな~」

「……今度行くか」

「まじ? やった~!」

つけっぱなしのテレビから楽しげなリポーターの声が聞こえる。水に飛び込む白熊の映像をやけに眩しそうに見る奏始に思わず声をかけた。

「ほら、前言ったけど俺ん家ってΩのシングルたったからさ。どこか連れてってもらうとかしたことなかったんだよな」

「そうか」

「うん。ま、高校まで出してもらえたし、ウリとかも無理矢理させられるとかなかったし。無事に生かしてもらえてたってだけで有り難い話なんだけど」

あの日から、奏始はこうして少しずつ過去の話を口にするようになった。ぽつぽつと落とされる奏始の人生の断片を聞くたびに、真尋は思い切り奏始を甘やかしたくなる。同情も少しあるのかもしれない。でもそれ以上に、こいつを甘やかすのは自分の役目であると思っているから。

「……もう亡くなってしまったんだったか」

「そう。俺が高校卒業して1年後だったかな。病気でさらっと。母さんらしいよ、ほんと」

「ちゃんと見届けて逝ったんだな」

「はは、そうだな。一般庶民で高校まで行くΩって珍しいんだぜ? なんでだったんだろうな……」

黙り込んでしまった奏始の表情は見えない。預けられた重みが増すのを感じて、真尋は奏始の腹に腕を回した。ぐっと引き寄せると、くたっと力を抜いたまま奏始が真尋を見上げた。
Ωであるということが、どれほど彼らの枷になるのか真尋は知らなかった。でも、今は少しならその気持ちに寄り添える気がする。無防備にさらされた首元にそっと触れると、奏始は首を竦めた。

結局、真尋たちはまだ番になっていない。想いは確かに通じあっている。その確信はある。だが、番がどうこうという具体的な話になると、曖昧に誤魔化される。奏始は間違いなくΩという性にわだかまりを抱えている。Ωだからなんだと強気に口にして見せるくせに、時折ぽつりと自らを卑下した言葉を吐く。そのアンバランスさは真尋を歯がゆい気持ちにさせる。こんなにも才能に愛され、魅力に溢れているのに、当人がそれをどこかで信じていない。後ろから奏始を抱き込んでいた腕の力を強めると、奏始が身を捩った。そのまま力を込めていると、やがて収まりのいい体勢を見つけたのか大人しくなる。

「猫だな」

「誰が」

呟くと、後ろ頭でぐっと胸元を押された。その様になんとも言えないむずがゆさを覚えて、ふ、と息を漏らすとくすぐったかったのか首を竦める。晒されたうなじに唇を落とすと、奏始は飛び上がった。うなじを掌で隠して真尋を威嚇するその様は本当に猫のようで、真尋はまた、ふ、と笑い混じりの息を溢した。
 
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