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しっかりおかわりしてから俺は「ごちそうさまでした」と手を合わせた。
一心地ついて、ニコラがコーヒーを淹れてくれた。ふわっと芳ばしい香りが広がる。店内にはもう俺以外に客はいない。それを確認して俺は口を開いた。
「あの、さ。今日はニコラに話があって。今いい?」
俺の声は自分でもわかるくらいに強張っていた。その変化に気づいたニコラも少し雰囲気を変えた。
「うん。ちょっと待ってね」
ニコラはそう言って扉のほうへ向かった。何をするのかと見ていれば、どうやら表にかかった札をcloseにしているようだ。
「いいのか?ニコラ」
「うん。この時間からもうお客さんは来ないだろうし。それにゆっくり話が聞きたいし、したいからね」
事も無げにそう微笑んだニコラは優雅な所作で戻ってきて、またカウンターを挟んで向かい合う。
俺が話し出すのを待ってくれる体勢に、俺はすっと息を吸い込んだ。
「それで話なんだけどさ…」
だめだ、いざとなると緊張して言葉が思うように出ない。
俺の意気地無し!散々待たせた上にもう待たせんじゃねぇよ!自分に内心で発破をかける。
もう一度俺は深呼吸をした。
「前にニコラが、その、俺のこと…好きって言ってくれたじゃん?」
「うん」
「それで、俺は答えをずっと待ってもらってただろ?今日はその答えを伝えようと思って来たんだ」
逸らしていた視線をニコラに向ける。そこにはいつもの柔らかい微笑みはなくて、どこか硬い、緊張したような表情があった。でも彼の視線はしっかり俺を向いていて、俺はその視線に自分のものをしっかりと合わせた。
意を決して口を開く。
「俺は、ニコラのことが好きだ。もちろん恋愛的な意味で。それで、もし…もしまだニコラが俺のことを…そういう意味で好きだって思ってるなら、付き合ってくれませんか…?」
しっかり合わせている目線のせいでニコラの表情が変わっていくのがよくわかる。最初は硬い表情。次に驚愕。最後は、
「っ~!!ほんっとに反則…!」
ニコラが突っ伏してしまったから見ることが出来なかった。
「ニコラ…?」
あんまりそのままでいるから、こちらも不安になってきて恐る恐る声をかける。するとニコラは少し顔を上げてこちらを睨んできた。でもその顔は真っ赤だ。
「…いつまでも待つっていったでしょ」
それだけ言うとがばっと起き上がり、カウンター越しに俺に手を伸ばして頬に触れた。優しい手つきでするっと指が滑って俺は肩を跳ねさせた。
「チハル」
俺の名前を呼ぶその声はひどく、甘い。その声と同様に甘くどろっとした表情でニコラは微笑んだ。
「チハル、好きだよ」
頬に添えられた手から、合わせられた視線から、声から、表情から、熱が伝わって発火しそうなほど顔が熱い。
そんな俺にニコラは顔を近づけて焦点の合わないような距離でもう一度囁いた。
「好きだよ、チハル」
吐息のように掠れた語尾と共に唇が降ってきた。俺のそれと重なったニコラの唇は優しくて、温かかった。
一心地ついて、ニコラがコーヒーを淹れてくれた。ふわっと芳ばしい香りが広がる。店内にはもう俺以外に客はいない。それを確認して俺は口を開いた。
「あの、さ。今日はニコラに話があって。今いい?」
俺の声は自分でもわかるくらいに強張っていた。その変化に気づいたニコラも少し雰囲気を変えた。
「うん。ちょっと待ってね」
ニコラはそう言って扉のほうへ向かった。何をするのかと見ていれば、どうやら表にかかった札をcloseにしているようだ。
「いいのか?ニコラ」
「うん。この時間からもうお客さんは来ないだろうし。それにゆっくり話が聞きたいし、したいからね」
事も無げにそう微笑んだニコラは優雅な所作で戻ってきて、またカウンターを挟んで向かい合う。
俺が話し出すのを待ってくれる体勢に、俺はすっと息を吸い込んだ。
「それで話なんだけどさ…」
だめだ、いざとなると緊張して言葉が思うように出ない。
俺の意気地無し!散々待たせた上にもう待たせんじゃねぇよ!自分に内心で発破をかける。
もう一度俺は深呼吸をした。
「前にニコラが、その、俺のこと…好きって言ってくれたじゃん?」
「うん」
「それで、俺は答えをずっと待ってもらってただろ?今日はその答えを伝えようと思って来たんだ」
逸らしていた視線をニコラに向ける。そこにはいつもの柔らかい微笑みはなくて、どこか硬い、緊張したような表情があった。でも彼の視線はしっかり俺を向いていて、俺はその視線に自分のものをしっかりと合わせた。
意を決して口を開く。
「俺は、ニコラのことが好きだ。もちろん恋愛的な意味で。それで、もし…もしまだニコラが俺のことを…そういう意味で好きだって思ってるなら、付き合ってくれませんか…?」
しっかり合わせている目線のせいでニコラの表情が変わっていくのがよくわかる。最初は硬い表情。次に驚愕。最後は、
「っ~!!ほんっとに反則…!」
ニコラが突っ伏してしまったから見ることが出来なかった。
「ニコラ…?」
あんまりそのままでいるから、こちらも不安になってきて恐る恐る声をかける。するとニコラは少し顔を上げてこちらを睨んできた。でもその顔は真っ赤だ。
「…いつまでも待つっていったでしょ」
それだけ言うとがばっと起き上がり、カウンター越しに俺に手を伸ばして頬に触れた。優しい手つきでするっと指が滑って俺は肩を跳ねさせた。
「チハル」
俺の名前を呼ぶその声はひどく、甘い。その声と同様に甘くどろっとした表情でニコラは微笑んだ。
「チハル、好きだよ」
頬に添えられた手から、合わせられた視線から、声から、表情から、熱が伝わって発火しそうなほど顔が熱い。
そんな俺にニコラは顔を近づけて焦点の合わないような距離でもう一度囁いた。
「好きだよ、チハル」
吐息のように掠れた語尾と共に唇が降ってきた。俺のそれと重なったニコラの唇は優しくて、温かかった。
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