12 / 53
11
しおりを挟む
お皿を片付け始めたニコラに慌てて、俺がやるよ、と制止する。
「食べさせてもらったんだし俺も手伝う」
「そう?じゃあお願いしようかな」
そう言ってくれたのでニコラと階下に下りて、後片付けを手伝う。
皿を洗いながらニコラに聞いてみる。
「そういや、なんで肉じゃがなんだ?他に和食っていっぱいあるけど」
「知ってる中で1番上手く出来るやつだからね」
同じく洗い物をしながらニコラが答えてくれた。そうなのか…肉じゃがが1番上手いのか。それってなんか
「なんか彼女みたいだな」
俺がそう言った瞬間ニコラが手を滑らせた。洗っていた鍋がぐわーんという音を立てて落ちる。
「うわっ!大丈夫か?」
「…鍋は全然大丈夫だよ…」
「ならよかった。あーびっくりした」
そう言ってからニコラを見ると、彼は隣でなんとも言えないような表情をしてこちらを見ていた。
「え、なにそれ、え?」
「いや…何でもないよ…それで彼女っていうのはどういう意味なの?」
あー、それな。鍋が落ちたのですっかり忘れていた。
「日本で肉じゃがっていうと、彼女が彼氏に作る定番みたいな料理なんだよな。肉じゃがで胃袋掴め!みたいな。」
「…へぇー」
「ニコラの肉じゃがすっごい美味しかったし、ニコラなら今すぐ嫁に行けるレベル!」
そう言ってあははっと笑うとニコラは横でずるずるとしゃがみこんだ。
「え、ニコラどうした?」
具合でも悪いのかと慌てて顔を覗き込もうとするとすっと顔を逸らされた。一瞬見えたその顔は少し赤く染まっていたような気がした。
「…チハルの方がよっぽど天然たらしだ」
ぼそっと呟かれたそれが聞き取れなくて聞き返す。
「え?なんて言った?」
「なんでも!よしさっさと終わらそう!」
勢いよく立ち上がって、猛然と片付け始めたニコラに俺は首をかしげた。
高速で手を動かしたニコラのおかげで片付けはすぐに終わった。帰ろうかと思ったが、ニコラに「呑んでいくでしょ」と誘われて俺はまた2階に戻っていた。
「ビール?ワイン?」
それぞれを片手ずつもって軽く振ってみせるニコラ。いつもビールなのだけれどニコラが手に持つワインの銘柄が俺の好きなものだったのでワインを選んだ。
「おつまみ持ってくるね」
「ありがとう」
申し訳ないなと思いながらニコラの言葉に甘える。ニコラのおつまみはとても美味しいのだ。もうお酒を飲むときはこれがないとなにか物足りない。
「お待たせ」
少したってニコラが戻ってきた。お皿の上にはオリーブが乗っている。
「フランス風に漬けたオリーブ。ワインにあうよ」
「へぇー!初めて食べる」
1つ摘まんで口に入れる。風味がぎゅっと濃縮された味に思わず唸った。
「美味しい!これは酒にあうなー!」
「でしょ?」
言いながらニコラも1つ口に運んだ。
「うん、よく漬かってるね」
「これもニコラが作ったのか?」
「そうだよ。これは好きだから定期的に作ってるんだ」
事も無げに言うニコラ。フランス風って言ってたよな…これってフランス料理なのかな。
「これはフランス料理?」
「そう。だいぶ昔に習ったんだよね」
「習ったって誰に?フランス人?」
「そうそう。たまたま旅行で来てた人と知り合ってさ」
「それってフランス語で喋ったのか?」
「うん。フランス語を勉強してる途中だったからね。話しかけてみたら意気投合して教えてもらったんだ」
フランス語。ニコラはいろんな人から各国の料理を教えてもらったと言っていた。他の料理もこのオリーブと同じように教えてもらったとしたら…
「なあ、ニコラって何ヵ国語話せるんだ?」
ニコラに恐る恐る聞いてみる。俺の問いを受けて、少し考えてからニコラが口を開いた。
「んー最低限生きていけるレベルなら5ヵ国くらい?」
「…まじか…出来杉くんかよ」
「デキスギクン?」
ニコラって凄いんだな、と改めて実感する。どこにいてもエリートでやっていけそうだけどニコラはイタリアの裏路地でパブを営んでいる。でもここでやっていてくれてよかった。一方的な感謝をこめてじっと見つめる俺に、ニコラが不思議そうに首をかしげた。
それからもニコラとの談笑は続いた。俺にとってこんなに穏やかに過ぎていく時間は久しぶりで本当に楽しかった。
でも、ふとした瞬間に暗い影が忍び寄ってくるのだ。
ワインを一本空けてしまい、次のものを取りにニコラが階下へ下りて、俺は部屋に1人になった。影が忍び寄るのはそんな瞬間。最近は1人になるのが嫌だった。どうしても気持ちが沈んでしまうから。セルジオと出会ってから久しく感じていなかった気持ち。1人が寂しいという感情。
そうして暗い気持ちになっていると扉が開いてはっと意識が浮上する。
「次はビールにしてみた」
そう言って瓶を掲げてみせるニコラに慌てて笑みを作る。今は楽しいんだからわざわざ自分で沈むことはないだろ。自分にそう言い聞かせた。
「食べさせてもらったんだし俺も手伝う」
「そう?じゃあお願いしようかな」
そう言ってくれたのでニコラと階下に下りて、後片付けを手伝う。
皿を洗いながらニコラに聞いてみる。
「そういや、なんで肉じゃがなんだ?他に和食っていっぱいあるけど」
「知ってる中で1番上手く出来るやつだからね」
同じく洗い物をしながらニコラが答えてくれた。そうなのか…肉じゃがが1番上手いのか。それってなんか
「なんか彼女みたいだな」
俺がそう言った瞬間ニコラが手を滑らせた。洗っていた鍋がぐわーんという音を立てて落ちる。
「うわっ!大丈夫か?」
「…鍋は全然大丈夫だよ…」
「ならよかった。あーびっくりした」
そう言ってからニコラを見ると、彼は隣でなんとも言えないような表情をしてこちらを見ていた。
「え、なにそれ、え?」
「いや…何でもないよ…それで彼女っていうのはどういう意味なの?」
あー、それな。鍋が落ちたのですっかり忘れていた。
「日本で肉じゃがっていうと、彼女が彼氏に作る定番みたいな料理なんだよな。肉じゃがで胃袋掴め!みたいな。」
「…へぇー」
「ニコラの肉じゃがすっごい美味しかったし、ニコラなら今すぐ嫁に行けるレベル!」
そう言ってあははっと笑うとニコラは横でずるずるとしゃがみこんだ。
「え、ニコラどうした?」
具合でも悪いのかと慌てて顔を覗き込もうとするとすっと顔を逸らされた。一瞬見えたその顔は少し赤く染まっていたような気がした。
「…チハルの方がよっぽど天然たらしだ」
ぼそっと呟かれたそれが聞き取れなくて聞き返す。
「え?なんて言った?」
「なんでも!よしさっさと終わらそう!」
勢いよく立ち上がって、猛然と片付け始めたニコラに俺は首をかしげた。
高速で手を動かしたニコラのおかげで片付けはすぐに終わった。帰ろうかと思ったが、ニコラに「呑んでいくでしょ」と誘われて俺はまた2階に戻っていた。
「ビール?ワイン?」
それぞれを片手ずつもって軽く振ってみせるニコラ。いつもビールなのだけれどニコラが手に持つワインの銘柄が俺の好きなものだったのでワインを選んだ。
「おつまみ持ってくるね」
「ありがとう」
申し訳ないなと思いながらニコラの言葉に甘える。ニコラのおつまみはとても美味しいのだ。もうお酒を飲むときはこれがないとなにか物足りない。
「お待たせ」
少したってニコラが戻ってきた。お皿の上にはオリーブが乗っている。
「フランス風に漬けたオリーブ。ワインにあうよ」
「へぇー!初めて食べる」
1つ摘まんで口に入れる。風味がぎゅっと濃縮された味に思わず唸った。
「美味しい!これは酒にあうなー!」
「でしょ?」
言いながらニコラも1つ口に運んだ。
「うん、よく漬かってるね」
「これもニコラが作ったのか?」
「そうだよ。これは好きだから定期的に作ってるんだ」
事も無げに言うニコラ。フランス風って言ってたよな…これってフランス料理なのかな。
「これはフランス料理?」
「そう。だいぶ昔に習ったんだよね」
「習ったって誰に?フランス人?」
「そうそう。たまたま旅行で来てた人と知り合ってさ」
「それってフランス語で喋ったのか?」
「うん。フランス語を勉強してる途中だったからね。話しかけてみたら意気投合して教えてもらったんだ」
フランス語。ニコラはいろんな人から各国の料理を教えてもらったと言っていた。他の料理もこのオリーブと同じように教えてもらったとしたら…
「なあ、ニコラって何ヵ国語話せるんだ?」
ニコラに恐る恐る聞いてみる。俺の問いを受けて、少し考えてからニコラが口を開いた。
「んー最低限生きていけるレベルなら5ヵ国くらい?」
「…まじか…出来杉くんかよ」
「デキスギクン?」
ニコラって凄いんだな、と改めて実感する。どこにいてもエリートでやっていけそうだけどニコラはイタリアの裏路地でパブを営んでいる。でもここでやっていてくれてよかった。一方的な感謝をこめてじっと見つめる俺に、ニコラが不思議そうに首をかしげた。
それからもニコラとの談笑は続いた。俺にとってこんなに穏やかに過ぎていく時間は久しぶりで本当に楽しかった。
でも、ふとした瞬間に暗い影が忍び寄ってくるのだ。
ワインを一本空けてしまい、次のものを取りにニコラが階下へ下りて、俺は部屋に1人になった。影が忍び寄るのはそんな瞬間。最近は1人になるのが嫌だった。どうしても気持ちが沈んでしまうから。セルジオと出会ってから久しく感じていなかった気持ち。1人が寂しいという感情。
そうして暗い気持ちになっていると扉が開いてはっと意識が浮上する。
「次はビールにしてみた」
そう言って瓶を掲げてみせるニコラに慌てて笑みを作る。今は楽しいんだからわざわざ自分で沈むことはないだろ。自分にそう言い聞かせた。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる