紫音の少女

柊 潤一

文字の大きさ
51 / 75

ゼルダの決意

しおりを挟む
夕食後、ゼルダは部屋で紫音の事を考えていた。

 あの日、紫音に連れられて宇宙へ行き、二人の時間を過ごし、知らなかった事を知り部屋へ戻ってから自分のことを考えてみた。

 父と母の愛を受け、何不自由なく気ままに暮らしていたが、我が身の将来を思い悩む頃に、慕っていた母が亡くなった。

 心の支えを失くした気がして、母を奪った何かを呪い、自暴自棄になった時もあった。

 死について考えてもみた。

 しかしわからない事だらけであった。

 自分はどこから来てどこへ行くのか。

 自分は何者なのか。

 国王の息子という立場に生まれ、何不自由のない生活だったが、国王になるのは嫌だった。

 この国の民から慕われている父が、常にイシュタル国の事で悩み苦労している姿と、母がそれを陰から支えている姿をいつも見ていた。

 そんな二人を誇らしく思っていたが、自分はもっと静かな人生を送りたいと思った。

 父の期待を重荷に感じるときもあった。

 そこへ紫音が現れた。

 どこかしら母に似ている彼女にゼルダは惹かれた。

 その紫音があの日に言った、あなたが変わって下さい、という言葉の意味を、あれからずっと考えていた。

 彼女は、国王になるべきものを持っているからこのような所に生まれた、とも言った。

 持っているものとはいったい何なのか?

 それは当然父も持っているのだろう。

 父はいつも国民のことを話していた。

 豊作で喜んでいる者達のことを、母や側近の者達に嬉しそうに話していた。

 また、不幸な者たちの話を聞くと我が事のように悲しみ、その者達が不幸を乗り越えた話を聞くと我が事のように喜んだ。

 そんな時の父と母は本当に幸せそうな顔をしていた。

 そんな二人を見てゼルダは、母の様な素敵な女性と人生を共にするのが幸せなのだと思っていた。

 そして紫音と知り合い、彼女が治療した人達が喜んでいるのを見る彼女の顔が、幸せそうに輝いているのを見て、この人と人生を共にしたいとゼルダは願ったのだった。

その彼女に教えられた事で、彼は父の後を継ごうと思った。

朝、町を歩きながらその思いでザイールの町の人々を見れば、以前から抱いていた思いであったが、すべての人々が尚更いとおしく思えた。

ゼルダの事を見知っている者達と挨拶を交わしながらゼルダは気がついた。

父も母も苦労していたのは、そして母がいない今、父が孤軍奮闘しているのは、この国の王として生まれ、その王の妻として生まれ、この国の人達の安全を守り生活を支えていく事を幸せに思っていたのだと。

ゼルダは紫音の言った言葉の意味をいま噛みしめていた。

自分も又国王になることが生まれてきた意味ならば、それを全うしようという決意と共に、自然と紫音の事が浮かんだ。

彼女もまた、患者に尽くすことを幸せに思っていたのだ。

彼女と共に、この国の人達のために生きていきたい。

ゼルダはこの二日間、自分の気持ちを確かめるために紫音には会わずにいたが、いま無性に彼女に会いたかった。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

処理中です...