妄想のメシア

柊 潤一

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初めての世界

魔物退治

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 さて、どこへ行こ。

 正面に山が見える。

 あれが村長の言ってた山やな。

 とりあえず、サエちゃんが出ても危なくないように、ここらへんから始めるか。

 でも、この棒じゃカッコつかへんよな。

 この世界が夢やないとしたら、多分妄想かそれに似たようなもんやろう。

 やとしたら・・・

 俺は、以前に振らせてもらった、親父の持っている日本刀の感触を思いだしてみた。

 あれは重かったよな。

 柄を持つとこう、ずっしりと・・・

 集中して、あの時の感覚を右手に思い浮かべてみよう。

 んんー・・・反り、刃紋の形、持った感触、今まさに持ってるように思い浮かべるんや!

 頑張れ、俺!

 ・・・

 お?右手が重たなってきたぞ。

 おー、来たきた!

 やってみるもんやな。

親父の日本刀や。

 試しに構えて型を振ってみると・・・

 うん!これやこれや。

 よし!これで怖いもんはあらへんぞ。

 やったるでぇ!

 さて、魔物はどこにおる?

 おったおった。

 向こうも気が付きよった。

 あの二足歩行のワニや。

 こっちへ走ってきよる。

 よし!俺も走って、迎え撃ったる!

 俺は目の前に来た魔物が振り下ろす右手を切り上げ、刀を返し袈裟に切り下げた。

「グガアァァ」

 魔物は悲鳴をあげ、右手は切れて飛び、体は真っ二つになって倒れた。

 よっしゃあああ!

 カッコええやん、俺!

 と、自画自賛。

 それから俺は村の周りの魔物をバッタバッタ切り倒していった。

 振り回すのは骨が折れるけど、おもろいように切れる。

 どれくらい時間が経ったか分からへんが、あらかた見える範囲の魔物を退治した頃には、腰もふらついて腕も上がらないくらい疲れてしもうた。

 そして、もう村に帰ろうと思ったがふと思いついた。

 今までは勝手に現実世界に戻されてたけど、自分の意思で戻られへんやろか。

 俺は、朝ごはんを食べたところから思い出した。

 親父はもう仕事に出かけて、おかんに宿題はしたかと聞かれて、食べ終わって自分の部屋に戻ってきて・・・

 ・・・

 おおー、戻ってきたで。俺の部屋や。

 うまいこといったわ。

 しかし、疲れたな。

 でも、待てよ。

 向こうの疲れをこっちまで引きずるんやったら、向こうで死んだらどうなるんやろ?

 分からんけどヤバそうやな。

 気を付けんといかんな。

 それに、もっと剣道の練習もせなあかんし、体も鍛えなあかん。

 そやそや、親父が前に、これを振って体を鍛えとけ、言うて渡されたくそ重たい六角の鉄棒があったよな。

 こんなん、無理や思うて確か押入れの奥に・・・

 あったあった。

 うはっ!やっぱ重たいわ。

 よしっ、早速これで素振りをしてみよ。

 俺は階段を降りて庭へ出て素振りを始めた。

 リビングにいたおかんは、鉄棒を持って降りてきた俺を目で追いかけていたが、庭でいきなり素振りを始めたのに驚いて声をかけてきた。

「あんた、いきなりどうしたん」

「うん。前にお父さんがな、これで千回素振り出来るようになったら剣道も上達するで、言うてたん思い出してな」

「へぇー」

 おかんはしばらく物珍しそうに見ていたが

「まぁ、頑張りや」

 そう言うてまたリビングに戻っていった。

 そして俺は、百回は振れるやろ、思うてたんが五十六回目で音をあげた。

 はぁ・・・千回は遠いわ。
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